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98.被害状況

シフトの眼下には数えるのもバカらしいくらいの遺体が転がっていた。

見える範囲内に敵はいないようだ。

「ふぅ、これで粗方片づいたかな?」

シフトは地上に降りると氷の塊を見つめる。

これ(氷の塊)、どうしよう・・・」

しばらく考えて出した結論は・・・

「放置でいいか。 どうせ日の光で氷は溶けるだろうし。 それより今度またルマに補給を頼むか」

シフトは氷の塊をそのままに残りの敵を探しに森のほうへと歩こうとする。

「ご主人様~」

「ん? ルマたちか」

声がしたほうを振り向くとルマたちがこちらに走っていた。

その後ろには第一騎士団及び第一魔法兵団が一糸乱れぬ動きでここを目指してる。

シフトはその場に留まっているとルマたちがやってきた。

「お疲れ」

「お疲れじゃないですよ! なんですか! あの威力は!!」

「1つだけで十分なのに3つも落とした」

「はっきり言ってオーバーキルだな」

「あんなの落とされたらぼくでも逃げられないよ」

「これはやりすぎだと思いますわ」

実は1つ目の氷の塊が地表に着弾したとき、その破壊力に目を疑った。

ただ着弾しただけならそこまでは驚かなかったがそこに衝撃波が加わったのだ。

これにより二次被害が発生している。

そしてシフト自身が乗っていた3つ目の氷の塊が着弾したときに感じた地揺れが凄かった。

地上にいる敵は立っていられずバランスを崩して倒れる。

そこに先ほどの衝撃波が伝わり倒れた敵を次々と吹き飛ばしたのだ。

この衝撃波と地揺れは遠くに離れたルマたちにも届いた。

ルマたちは今まで培ってきた強さでなんとか耐えたが、騎士や魔法士は耐えられずにその場に座り込んだり後ろに転んだりしていた。

王都スターリインにも当然影響が出ている。

城壁に守られてなお吹き荒ぶ風が蹂躙し、3度の地揺れが人々に恐怖心を与えた。

シフトがそれを知るのはこの戦い(?)が終わってから聞かされることになる。

「ああぁ・・・やりすぎだと思う?」

シフトの問いにルマたちは満場一致で頷く。

「ま、まぁ、対大軍相手の切り札として十分な威力だ。 これなら合格点だろう」

「ご主人様、それはもう戦争ではありません」

「国1つ落とせる」

「一方的な蹂躙だな」

「どちらかというと虐殺?」

「神の鉄槌に等しいですわ」

ルマたちからは非難の声が聞こえてくる。

シフトは今後使うときはタイミングや個数を考えることにした。

「そ、それはそうとまだ敵がいるかもしれないからこれから残りを討伐するよ」

「本当にいるんですか?」

「怪しい」

「この状況で生きているとは思えないがな」

「無理に探す必要なんてあるの?」

「これで生存していたら奇跡ですわ」

ルマたちは今度は不審な目でシフトを見ている。

生存者を探すにしろこんな状況では絶望的だ。

仮に生きていても虫の息だろう。

とりあえず敵の討伐を再開する。

シフトは大軍が現れた森のほうへ歩いていくと、ルマたちもそれに続く。

道中は敵の遺体だらけでルマたちが言うように生存者は皆無に等しかった。

森に入ってもすぐには敵と遭遇せず、森特有のざわつきがない。

なにしろ先ほどの攻撃の余波で森に住む動物たちが一斉に奥のほうへ逃げていたのだ。

静かなのは当たり前である。

森の奥に進むとフェイが突然前に出てシフトたちを止めた。

今の動きからするとこの先に誰かいるみたいだ。

シフトが目でフェイを見るとそれを察したのか頷いて斥候として確認に向かった。

ルマたちはいつでも戦えるように準備しているとフェイが戻ってくる。

「ご主人様、大変です! 帝国の皇子殿下が殺害されています!!」

「なに?! それは本当か?!」

「はい、近くまで寄ったのですが動きがないのでさらに近づいて確認しました」

「いったい誰が殺したんだ?」

「わかりません。 数人に身体に刃物で貫かれた上に焼かれて死亡してました」

「とりあえず、案内してもらえないか?」

「はい、こちらです」

フェイが歩き出すとシフトたちも続いて歩いていく。

案内されてやってきたところにはフェイの言うようにそこには何人かの焼死体があった。

ベルが鑑定すると帝国の皇子ズィピアスとその護衛で間違いないそうだ。

死体についてフェイが見た感想を述べる。

「護衛が皇子を刺してから火を放ったって感じです」

フェイの言葉にローザとユールが疑問を口にする。

「それってちょっとおかしくないか?」

「たしかに変ですわね。 皇子を刺殺するだけならわかりますが、どうして皇子もろとも焼死しているのかしら?」

それを聞いたルマとベルが仮定で答える。

「考えられることは、ここには皇子と護衛以外の第三者がいたのでしょう」

「もしくは護衛の1人が裏切った」

シフトもルマとベルの仮定でほぼ間違いないと思っている。

ここに誰かが潜んでいる可能性が十分にあるということだ。

「みんな気を付けて! まだここに誰かがいるかもしれない!」

シフトの言葉にルマたちは周りを注意して見ている。

しかし右手の奇妙な紋様を持つ者たちはすでにここから離脱していた。

なのでシフトたちは無駄な警戒をしていたのだ。

しばらくして誰も襲ってこないことを確認するとシフトたちは事の顛末を伝えにグラントのところに戻るのであった。


シフトたちが王都に戻るとそこでは大騒ぎになっていた。

街中は物で散乱し、無数の建物に罅割れが入っており、中には倒壊した建物もある。

酷いのは街中だけではなくそこにいる人々もまた影響を受けていた。

この世の終わりだと嘆く者、どうせ終わるならと犯罪に手を染める者、只々泣く者など・・・

シフトの氷の塊は人々に想像以上の恐怖心を植え付けることになった。

王城の前まで歩いていくとアルデーツが門前にいる。

「やっと戻ってきたか、シフト」

「アルデーツ、久しぶり」

「久しぶりと再会を喜びたいところだが国王陛下と主がシフトに話があるそうだ」

「グラントはわかるけどナンゴーも?」

「とぼけるな、あれ(氷の塊)の説明を聞きたいそうだ」

アルデーツが指さしたのはそこからでも見える巨大な氷の塊だ。

「ああぁ・・・やっぱり説明しないとダメ・・・かな?」

「ダメだろうな」

アルデーツは言葉遣いは普通だが眉間に青筋が見える。

「わかった。 とりあえず案内してくれるかな?」

「そのつもりで待っていた。 こっちだ」

そう言うとアルデーツはシフトたちを会議室まで案内する。

扉を開けて入るとそこにはグラントやナンゴー、それにタイミューたち各国の首脳がいる。

シフトが前を歩くとルマたちもおっかなびっくりと続いていく。

「シフト、まずは報告を聞こう」

「そうだな、一番大事なことから話すが帝国の皇子殿下は死亡した」

「なに?! それは真か?!」

「ああ、ここから少し東にある森の奥で刺殺後に火で焼かれていた」

「東の森だな? すぐに余の配下の者を向かわせる」

グラントは配下の騎士を呼び、すぐさま東の森の調査を命じた。

「それと敵の軍団は粗方倒した」

「そうか・・・わかった。 ありがとう。 それでシフトよ、あれ(氷の塊)について聞きたい」

グラントもナンゴーもタイミューたちもどうしてもあれ(氷の塊)が気になるのだ。

「それについてはノーコメントで・・・」

「シフト君、それはこの場では通じないと思うけどな」

ナンゴーが『説明しろよ! ゴルァ!!』というような顔でシフトを見てきた。

グラントやタイミューたちもナンゴーほどではないが説明を求めている。

「はぁ・・・わかりました。 あれ(氷の塊)は対大軍ように開発した僕の切り札です」

「切り札って、あんな巨大な氷をどこから・・・」

「マジックバックを持ってましてそこから出しました」

「いや、いくらマジックバックでもあれは入らないだろ?」

「それはナンゴー辺境伯様が勝手に限界を決めているだけです。 なんでもチャレンジしてみるべきです」

「ぐっ!」

ナンゴーはそれ以上の言葉が出てこなかった。

(よし、これで乗り切っただろう。 下手に【空間収納】を持っていることが露呈されると大変なことになるからな)

シフトが内心安堵しているとグラントが質問してくる。

「シフトよ、聞きたいのだがあれ(氷の塊)はあといくつ所持しているのだ」

「あと2つあります」

本当は0と答えてもよかったがシフトは牽制を含めて数をごまかした。

(嘘です。 本当は7つあります)

ここ(王都スターリイン)まで来る間、ルマに頼んで10個作らせていた。

もし、本当のことを言えば脅威として排除されることを考慮して虚実を織り交ぜたのだ。

「聞きたいことは以上ですか? それでは質問を打ち切ります。 失礼します」

シフトは早々に質問を打ち切った。

これ以上聞かれて襤褸が出る恐れがあるからだ。

シフトは踵を返すと部屋を出ようとする。

「こらっ! 何勝手に部屋を出ようとしてるんだ!」

「え? だってもう話せることは全部話しましたよ?」

「質問もそうだが被害状況を聞いてもらわないとな」

「被害状況?」

それを聞いてシフトは嫌な予感がした。

「実はあれ(氷の塊)による被害が想像以上でな。 王都内の建物の被害多数、犯罪者の増加と大変なことになっている」

「そうなんですか」

「そうなんですよ。 だからお前も手伝え」

「えーーーーー、僕たちは王都の危機救ったじゃないか。 それに帝国の皇子からグラント(国王陛下)や各国の首脳を助けたんですよ? それなのに・・・」

「いや、お前が敵に使ったあれ(氷の塊)が原因だから。 今王都中が大混乱に陥ってるんだぞ? もう少し自覚しろよ」

「う゛・・・」

ナンゴーの言うことは正論でぐうの音も出なかった。

「ナンゴー、其方(そち)の言い分もわかる。 王都に大混乱を齎したのも事実だが王都をそして各国の首脳や余を助けたのもまた事実だ。 それを踏まえて賞罰を与える」

「国王陛下がそう仰るのであれば」

「シフト、今回の功績と無用な混乱を招いた件を差し引いて賞罰を言い渡す。 引き続きタイミュー殿の護衛を任せたい」

「随分と甘い賞罰だな」

「シフトがいなければ今頃は帝国の皇子にガイアール王国を始めとした国々が乗っ取られていたからな。 プラスマイナス0といったところかのぅ」

グラントの言葉にタイミューを始め各国の首脳陣は頷いた。

「なら最後までその護衛任務を続けるよ」

シフトはグラントからの賞罰を甘んじて受けるのであった。


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