03 吸血鬼最強の武器
吸血鬼貴族に転生した社畜ですが、城に侵入者がやって来たようです。
「侵入者だって!? ど、どうしよう。すぐに迎え撃たないと。でもどこに隠れて待ち伏せすればいいんだ? あ、武器も持ってなかった!」
「落ち着いて下さいませ。レオナイド様」
ヤミーにたしなめられてしまった。
執事っぽい落ち着いた態度が、こういう時はいっそう安心感を与えてくれる。
「まず侵入者どもですが敷地内に入ってきただけでまだ城の入り口にも来ておりません。ここに来るまでには時間は十分ございます。落ち着いて迎撃の準備をいたしましょう」
ヤミーが城の模型を何か操作したかと思うと、水晶玉が下からせり上がってきた。
「遠見玉の装置も機能しておりますね。こちらからご覧下さいませ」
遠見玉! そういうのもあるのか。
手招きされてのぞくと、水晶玉の中に3人の姿が映っていた。
女が1人、背の高いオッサンが1人、それとずんぐりした太っちょの男が1人だ。
「ふむ・・・見た目から判断しますと冒険者か盗賊といった所でしょうな。脅威度は低いかと」
「どうして危なくないって分かるんだ?」
「まず動きが素人でございます。侵入する際に物陰に隠れずいきなり入ってきておりますし、罠の警戒もろくにしておりません。付近に仲間や伏兵もいないようです。装備も貧弱ですので小者でしょうな」
「そ、そうか。なるほど」
ヤミーは敵キャラだった時も中々の強敵だったが、味方になるとものすごく頼もしい。
「今この城で最も守るべきものは、主のレオナイド様でございます。」
「え、あ、ありがとう。それなら装備をくれないか。武器も防具も何も残ってないみたいなんだ」
転生する前は魔法剣士だったはずだが、頑張って集めたレアアイテムが全て消えていた。今あるのはドラキュラ貴族風の服だけだ。
「そのままで問題ありません。装備なぞに頼らずとも、吸血鬼には最強の武器と防具がございますので」
「最強の? 何だそれは」
「では失礼いたします」
そう言うとヤミーはいきなりナイフを取り出して突き出してきた。
「うわっ!?」
とっさに突き出された手にナイフが当たり、切れた指から血が流れ出た。
「痛っ!」
「それが最強の武器でございます」
「どれだよ! いきなり何をする!」
「その血でございます」
「は……?」
「その血を、粘土をこねるように念じてみて下さい。そうすれば思った通りの形になります」
「血を……!?」
指の痛みで釈然としなかったが、ヤミ―の顔は真剣そのものだ。
仕方なく言われた通りにする。
ぽたぽたと垂れる血をじっと見つめ、形を変えるイメージをしてみた。
すると、血がぐにょりとうごめいた。
「うわ! 気持ちわる!」
それを見て、再びナイフを突き出してくるヤミー。
「わっ!?」
すると血が円形の盾になって、キン、とナイフを弾いた。
「おお……」
「そのようにレオナイド様が望んだ形に姿を変えます。一度出来てしまえば後は簡単でございましょう」
「手荒い教え方だな」
「あまり時間がございませんので実戦にて失礼させて頂きました。それに吸血鬼は刃物で刺されたくらいでは死にませんし多少のことでは傷一つつきません。この程度は危険の内には入らないかと」
にこりと笑うヤミー。
頼もしいけど、とんだスパルタ教育だなこの執事は……。
そういえばゲームでプレイしていた時、ボスのドラクネイドが攻撃や防御する時に何か黒っぽいものを持っていたけど、あれは影じゃなくて血だったのか。
「では、武器も生成してみて下さいませ」
「ああ」
今度は剣をイメージしてみた。
円形の盾になっていた血がぐにょりと形を変えて一瞬で剣になった。
「お見事です」
ヤミーはそう言いながら足下に転がっていたレンガ大の石を投げてきた。
本当にいつもいきなりだなこの爺さんは!
「てやっ……あれ?」
石を弾き落とすつもりで剣を構えたが、剣に当たった石はバターのようにスルリと切れて床に落ちた。
「変な感触の石だな。風化してもろくなってたのか?」
石を拾って床に打ち付けてみたが、堅い。
「ということは……」
転がっている石に血の剣を軽く当ててみると、そのままスッと刃が入って割れてしまった。
慌てて手を止めたが、床に少し刺さってしまった。
「なんつー切れ味だ……」
ヤミーはその様子を満足そうにほほえみながら眺めている。
「吸血鬼の力、お分かり頂けましたでしょうか?」
「ああ、十分な。ところでこの剣しまう時はどうすればいいんだ? 結構な量の血を使ってると思うけど毎回こんなに血を流してたら貧血になりそうだよ」
「それは”体に戻れ”と念じて下さいませ」
「こうかな……っと」
体が元に戻るイメージを抱くと剣の形がほどけてばらばらになり、水が排水口に吸い込まれるように指の傷に一瞬で吸い込まれていった。そして傷跡もスッと消えた。
「おお―」
「お分かり頂けましたでしょうか。血に魔力をまとわせて操る、それが吸血鬼の力でございます。武器や防具を作るだけでなく、肉体の再生も思いのままです。魔力が十分にあれば首を落とされても一瞬で元に戻ります」
「そりゃ凄いな。首を切られるのは遠慮したいけど」
ヤミーがちょっとワクワクした顔をしていたので、首切りの実演をされないように釘を刺しておく。
しかし確かに凄い。吸血鬼貴族――ゲーム最強の裏ボスの力は伊達じゃないな。
侵入者がいてもヤミーが余裕の態度だったのも納得だ。
「あ、そうだ侵入者!」
慌てて城の模型を見る。
赤い3つの点は、城の2階部分まで進んでいた。
「それでは準備も整いました所で、ゲストを迎えにあがりましょうか」
ヤミーはにっこりと微笑んで、そう言った。




