02 吸血鬼貴族はじめました
VRゲーム中に意識を失って、死んだかと思ったら目の前に執事が立ってました。
俺の目の前に立っている目つきの悪い老紳士。
こいつは裏ボス吸血鬼ドラクナイドの執事、ヤミー・マイヤーズだ。
「くっ!」
反射的に距離を取って戦闘態勢に入る。
まだボスを倒しきってなかったか?
「どうなされましたか、ご主人様?」
不思議そうな顔でヤミーがたずねてくる。
……?
何かおかしい。
周囲を見渡したが、ドラクネイドが襲ってくる気配はまったくない。
戦闘もイベントも終わっているようだ。
いや、そういうことじゃない。もっと根本的な違和感。
なんでヤミーと――ゲームのキャラクターと会話しているんだ?
「……お前は、何なんだ?」
俺は恐る恐るヤミーにたずねた。
「はっ。私はヤミー・マイヤーズ。貴方様の忠実なる下僕にございます」
「いや、そうじゃなくて何者っていうか……貴方の下僕?」
「はい。我らがチェイテ城の主、吸血鬼を統べる貴族たる貴方様の執事を務めさせて頂いております」
「ドラクネイドの執事、じゃなくて?」
「はい。貴方様の、でございます。失礼ながらお名前を頂戴してもよろしいでしょうか」
……ちょっと待て。これはやっぱり、俺が吸血鬼貴族になったってことか?
嫌な予感とともに振り返って、壁の大鏡を見る。
そこにはドラクネイドと同じ衣装を着た俺の姿があった。
そうだVRゴーグル、と思って顔に手をかけたが、指先は空を切っただけだった。
ゴーグルが無い。
「ハハハ……、これってもしかしてあれか? VRゲームが現実になるっていう、まさか、ねえ」
その時、手を動かした拍子に指先が日光の筋に触れた。
「あっつ!?」
ジュッ、と音がして指から煙が上がる。
「お気をつけ下さいませ。日光は我ら吸血鬼の大敵でございます」
ずっと嫌な予感がしていたけどこれで確信に変わった。
ゲームの世界が現実になってしまったんだ。
「マジかよ……しかも、何で俺が吸血鬼になってるんだ?」
「申し訳ございません。私には分かりかねます。
ただ、先代の主が亡くなった時貴方様が吸血鬼だったために、
このチェイテ城が貴方様を新たな主人として認識したのかもしれません」
「吸血鬼……俺が?」
そういえばボスを倒す瞬間、攻撃を喰らって血族化してた気がする。あれのことか?
ゲームシステムが想定していなかった状態になったために起こるバグ。ありそうな話だ。
それについてはまあいいけど、もう一つ深刻な問題がある。
俺は胸の辺りをギュッと押さえた。
あの時、確かに心臓をつかまれるような強烈な痛みがあった。夢ではない。
俺、死んだんじゃないのか?
強烈な不安が押し寄せてくるが、今の自分に意識があることも確かだ。
……深く考えるのはとりあえずやめておこう。
「そ、そういえば俺のことが憎くないのか? 主人を倒した相手だぞ」
直立不動のままのヤミーにたずねる。
目つきが悪いからこっちをにらんでるようにも見えるんだよな。
自動で復活するヤミ―は何百回も倒してるし。
ヤミ―は穏やかに微笑んだ。
「負けたということは主の器ではなかったということです。強き者に仕えることが私めの喜びでございます。それに私は主の魔力によって復活する使い魔のような存在。今は貴方様がいなければ私も復活出来ないのです」
右手を横にしてうやうやしくお辞儀された。
その姿には、敵意は少しも感じられず、ある種の誇り高さが伝わってきた。
直感だけどヤミーの言葉は本心から出たものだと思った。
「そうか、じゃあこれからよろしく頼む」
「は、ありがたきお言葉。全霊をもって務めさせて頂きます。ところで……恐縮ですがお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」
「志士……いや、レオ。レオだ。」
「レオ様ですね。では、僭越ながらレオナイド様とお呼びさせて頂きます。それがこの城の、吸血鬼のしきたりでございます」
なるほど。よく分からないが語尾にナイドがつくルールなのだろう。
レオナイド、か。不思議としっくりきた。吸血鬼っぽい響きだ。
ひと息ついて椅子にもたれ掛かった。
……本当に吸血鬼になってしまったんだなあ。
初めての経験だけど(当たり前だ)、さてこれからどうするか。
とりあえず情報が欲しい。
体は吸血鬼になってしまったようだし、うかつに日光の下に出ることは出来ない。
それの対策も考えないといけないが、まずは守りを固めて安心出来るようにしておきたい。
「ヤミ―。周辺の情報を教えてくれ。それと城の状況も」
「申し訳ございません。周辺の情報は存じ上げません」
「分からない? どうしてだ」
「私も今目覚めたばかりでございますので」
「え?」
「私は主の魔力を頂いて甦ります。すなわちレオナイド様がお目覚めされたのと同時に私も復活したのです」
「そうだったのか」
「はい。城の荒れようから判断しますと、おそらく復活されるまでに百年以上は経っているかと推測いたします」
百年以上、か。俺がゲームをプレイしていた時とは色々と大きく変わっていそうだ。なおさら状況を調べないとな。
「それと城の状況でございますが、装置が生きているか今確認いたします」
「装置?」
ヤミ―はつかつかと歩いて部屋の奥に行く。そこには城の模型があった。
模型には厚くほこりが積もっていたが、ヤミ―は一瞬でほこりを払い、ハンカチを取り出すと一瞬で拭き上げた。
「失礼いたしました。こちらにお手を置いて頂けますでしょうか。主の魔力で作動します」
「あ、ああ」
模型の横の台に手を置くと、手を吸いつけられるような感覚がして模型に鈍い光がともった。
「!?」
「おお、無事に起動いたしました」
「これは何なんだ?」
「このチェイテ城の管理装置でございます。魔力で作動し、城の状況を示してくれます」
「こんなものがあったのか……」
城の模型を眺めていると、部屋の中で青い光の点が二つゆらめいていた。
「これは何だ?」
「青い光は我々を示しております。今いる部屋が最上階のここという訳です」
「へえー、なるほど」
意外とハイテクな魔力装置に感心してしまった。便利なもんだ。
「ん……? 城の外で動いてる赤い点は何なんだ?」
下の方に赤い光が3つ、ホタルのようにふわふわとしていた。
それに気付いた瞬間、ヤミ―の目がくわっ、見開かれた。
「これは……侵入者でございます」




