7 ルーク・ブランシュ
更新しないと言いながら投稿する私……
誠に申し訳ありません。
ルーク・ブランシュ
『ガクウワ』の攻略キャラの1人で、私の1つ下。大司教の息子である。
そんな彼がなぜ、私の天敵になるのか。
その理由は、彼の性格にある。
ルークは元々ものに執着する性格で、大切なものを傷つける奴には容赦ない。幼いころに母親を亡くしてから、執着がさらにひどくなったらしい。
要するにヤンデレである。
ゲームでは主人公に執着し過ぎて監禁する……なんてエンドも存在する。
顔がわたしのタイプで真っ先にプレイしたが、他の攻略対象の好感度を上げすぎて彼に殺された、という記憶がある。
ヤンデレって怖い。
一方ミエラリスは8歳で王子と婚約。彼に近づく女には容赦なく魔法を使い、様々な嫌がらせをする。
ミエラの魔法属性は水。嫌がらせにはもってこいの属性だ。
王子ルートでは、彼と親しい主人公になかなか手の込んだいじめをする。王子の呼び出しと見せかけていじめたり、時限式の罠などがあった。
それ以外のルートでも、『王子に近づいたから』という理由で普通に嫌がらせをする。
さて、そんな2人が鉢合わせたらなにが起こるでしょう?
答えは簡単
コ・ロ・シ・ア・イ
………とまではいかなくても、確実に何かが起こる。
ルークが先にふっかけて、それをプライドの高いミエラリスが買う。
そんな感じだったはず。たしか……
嫌味の応酬、ぶつかり合い(物理有り)、あとは……下手人を使った暗殺(未遂)など。
最終的に婚約破棄も含めた断罪イベントでルークの勝利(?)。
ちなみに、ルークの魔法の属性は光と闇。光は治癒で、闇は呪い。なぜ正反対の属性を持つのかというと、光が強いと闇も同等の強さになるからだそう。よくわからない。
他にもレイナード達兄弟は風、王子は植物魔法、宰相の息子は雷、騎士団長の息子は火。そして主人公は土。
この世界では2つの属性を持つのは王族しかいない。攻略対象の王子は土と水の2つを持っているから植物魔法が使えるらしい。
メリエッタさんに聞いた話だと現国王陛下の妹君、つまり王妹殿下は水と風を持っているので氷の魔法が使えるらしい。病弱だそうで、もう何年も表に出ていないらしいが。
おっと、話がそれた。
つまり……
現在、ルークの目の前に座っている私は、生きた心地がしない
ということだ。
◯◯◯◯◯
にこにこ笑うルーク君。
かわいい。
だが1つ言わせてほしい。
なんで大司教サマまで来てんだよーーッ!?
しかもこっち見てるし!めっちゃガン見してるよ!何!?イケメンですねコノヤローッ!!
ゴホン
落ち着けミエラリス。
大丈夫、お母様達の教育を受けた私なら知らん顔なんて朝飯前よ。
「……ブランシュ様。本日は我が家にお越しいただきありがとうございます。連絡を下さったら歓迎する準備ができましたのに。なにぶん急だったもので粗末な物ですが、どうぞ。(連絡もなしにいらっしゃるなんて、非常識ですわね。いくら侯爵家より身分が高いからと言って、許されることではありませんわ。さっさとそれ飲んで帰ってください)」
ニッコリと微笑むメリエッタさん。
副音声が聞こえるのは気のせいだといいなぁ……
大司教様も副音声が聞こえたようで、苦笑している。
メリエッタさんは怒らせたらダメな人種だ。
「それで、今日はどんなご用件で?」
「息子がそちらのお嬢さんにハンカチを借りたようで、お礼をするためにこちらに」
「まあ、わざわざありがとうございます。それで、ご用件は?」
メリエッタさんの問いに完璧な笑顔で答える大司教様。
……私、この顔知ってる。前世の後輩がミスをした時によく浮かべてた顔だ。
あいつ忙しい時期に辞めやがって……!お陰でわたしは死んだんだぞ…!呪ってやる〜〜ッ!!
ゲホン
落ち着け…落ち着くんだミエラ…!
後輩くんを呪うのは後でもできる。今は大司教一家の観察に集中しよう。
それにしてもこのやり取りを見る限り、メリエッタさんと大司教様は知り合いっぽい。メリエッタさんは元公爵令嬢だし……。
本当、何であの男と結婚したんだろう?急成長した家ほど怪しいものは無いし、それが分からないメリエッタさんじゃない。むしろ凄い頭が良い。あ、逆に潜入捜査とか?いや無い無い無い無い。危険だし、公爵家だったら隠密の1人や2人抱えてるだろう。(ウチにも1人いる、らしい)もしそうだとしても、プラメミウスが真っ黒なのは分かりきったこと。もうナヴェーレ家に留まる理由はない。
……じゃあ人質を取られたとか?う〜〜〜〜〜ん……
そういえば、ゲームのお兄様達の苗字って何だっけ?確か、侯爵家の……アリエス?アルイス?そんな感じの名前だったはず。
えー…っと……。
……ダメだ思い出せない。
どのルートも後半に苗字が明らかになったからなあ。しかもヴィルモンドルートは一番最後にやったから記憶が曖昧だ。むしろ何で私はミエラリスルートを覚えていられたんだろう?不思議。
「……もう良いわ。あなた達は向こうで遊んでて頂戴」
「そうね、フィーちゃんをお待たせしてるし……。ルークくんも一緒にどう?」
「いやぁ、お言葉に甘えさせていただきます。ルーク、皆さんに迷惑をかけないように」
「はい!」
そんなことを考えている内にメリエッタさんが折れたようだ。きっと子供に聞かせられない話をするんだろう。
急な来客だったため、フィーには別室に移動してもらっている。お客様を1人にさせるのは非常識なので、マリアーゼお姉様も一緒だ。
「そうだわヴィル、皆を温室に案内したらどうかしら?ミエラちゃんももう大きいし、あなたが付いていれば大丈夫でしょう?」
「それはいいですね!ではこちらへどうぞ」
温室って、今まで立ち入り禁止だったところだよね。やった!どんなものがあるんだろう?やっぱりお花?それとも薬草とか?
うきうきしながらお兄様について行こうとすると、こんな会話が聞こえてきた。
「ところでリタ、この美しい女性は何家のご令嬢ですか?大司教である私としては、一刻も早くあの男の呪縛から解放して差し上げたいのですが」
あ、やっぱり知り合いだったんだ………うん?
「貴女にはあんな男の隣よりも、教会のステンドグラスが似合います」
「ちょっとカイル、流れるようにに求婚しないで下さる?」
「え~…っと、困ります……?」
…………
……お母様に、
お母様に近寄るなあぁぁーーっ!!
手を握るな!今すぐ離せ!どさくさに紛れて撫でるな!堪能するな!お母様が汚れるッ!!
「ーーーーッ!!」
「おやおや、可愛いいお顔が台無しですよお嬢さん」
知るかそんなもん!たとえ陛下の前でもお母様を守る為なら喜んで本性さらけ出すわ!こちとら前世の上司と後輩に対する鬱憤が溜まってるんだ。未来の悪役令嬢舐めんなよ。お前1人呪うくらい造作もない、むしろ全員纏めて呪ってやるっ!!お前ら全員ハゲろおぉぉーー!!!
「み、ミエラ落ち着いて…どうどう」
「大丈夫よミエラちゃん。コレにはよく言い聞かせておくから」
お兄様とメリエッタさんに言われ、渋々引き下がる。ものっっすごく心配だ。特にああいう部類は信用できない。
「……これはヒルダーのお祖父様に聞いた話だけど、」
むくれながら廊下を歩いていると、お兄様が口を開いた。
「お母様昔、『社交界の大魔神』って呼ばれてたらしいよ。だから大丈夫じゃないかな」
なにそれ凄い気になる。今度ヒルダー公爵家に行く機会があったら聞いてみよう。
(シエラさんは、ね)
そんなお兄様の心の声は聞こえない。
温室にたどり着くと、お姉様とフィーが待っていた。先に移動したみたい。かなり待たせてしまった。フィーに一言謝罪してから温室に入る。
ゲームを知るフィーは一緒に入ってきたお客様を見て目を丸くしている。
「本日は我が家にお越しいただきありがとうございます、ルーク・ブランシュ様」
「こちらこそ急な訪問しつれいしました」
お姉様の優雅な礼を見て少し頭が冷えてきた。
………ちょっと、いやかなりはしたないことをしてしまった。そういえば私、侯爵家の令嬢だった。大司教さまになんてことを……うわー。身分はあっちの方が上なんだよな……。
反省しないと。