数の暴力
申し訳ございませんでした。
手違いで関係のない話を投稿してしまいました。
間違いの方は消去致しました。
手違いで戸惑わせてしまい誠に申し訳ございませんでした。
これが、本当の24話です。
「説明してくれますよね」
向かい合うように座る村長に切り出す。
何故、隠れていたのか、何を警戒しているのか、聞きたい事がいっぱいある。
「はい、勿論です……冒険者様は此方に依頼で来たと仰ってましたね」
「はい、オーガ討伐で」
「実は、その依頼に問題があるのです」
「問題……」
「はい。オーガ討伐ではなく、キングオーガ率いるオーガの群れなのです」
「それは……犯罪ですよ」
依頼内容を故意に歪めて伝えるのは犯罪だ。
しかし、犯罪とわかっていながらも高い依頼料を払えないからと危険度を低めの依頼として出し、今回の場合のように低レベルのモンスターのついでに強力なモンスターを討伐させようとする依頼者が後をたたないらしい。
だが、問題が起きた。レベルに見会わないモンスターに新人冒険者が次々と被害にあった。そのため、依頼内容の詐称は犯罪......それも重罪だ。
「まぁ、良いでしょう、あなた達が詐称しようが此方は構いません、だけどこの依頼は断らさせいただきます」
群れの規模がどれ程かは知らないが二人はでは荷が重いのは確かだ。
実力を計りたい気持ちはあるが、それで無意味に特攻しての無駄死に何てごめんだ。
「一応ギルドには伝えておきますが......覚悟は決めておいてください」
このまま村人達を見捨てるのも忍びない、ギルドに伝えればすぐにでも冒険者が派遣されてオーガ達は討伐されるだろう。
だけど、恐らく村の長である村長には重たい罰則が課せられる、結局は犯罪を犯しているのでは俺にはどうしようもできない。
話は終わりだと立ち上がると村長が慌てて引き留めてくる。
「待ってください。いつ、モンスターがこの村を襲うか分からないのですよ、このままだとこの村はモンスターに蹂躙されてしまいます」
「俺だって見捨てたいわけではありません。だけど、群れの相手を二人でするのは無理です」
幾ら俺のステータスが上昇したとはいえモンスターの群れを相手取るのは危険すぎる。
「しかし、それではこの村は......」
「大丈夫ですよ。オーガの群れが現れたとなればダンジョン都市だって見過ごすことなどしません。ちゃんと討伐隊が派遣されるはずです」
「本当ですか!」
「ええ、というか、何故初めから正直に言わなかったんですか。モンスターの群れはギルドの依頼として発注されるはずなのに」
モンスターの群れはそれだけで脅威で、ギルドが率先して対処にあたる事柄だ。情報を伝えるだけいいのだから本来わざわざ依頼として頼まなくてよかったはずだ。ダンジョン都市に来てから一ヶ月の俺が知っていることをダンジョン都市に近いこの村の村長が知らないはずなのにだ。
「それは......」
答えにくい事なのか村長は言い淀む。
村長の反応には何か違和感を感じるが何が気になったのかがわからない。
「......ジン」
「どうした?」
ここまで隣に黙って座っていたエルが声をあげる。
「......みんな、とじこもるくらい、こまってる」
「それは、そうだけど......閉じ籠る、そうか」
エルの言葉で何に引っ掛かっていたのかが分かった。
オーガの襲撃を恐れて村人が隠れているなら、オーガを倒す事が可能かもしれない冒険者が来たのなら直ぐにでも助けを求めるはずだ。
にも関わらず村人達の大多数が出てこようとはしなかった。
「村長さん、他に隠していることはないですよね」
「ええ、勿論でございます」
村長は言い淀む事なく、穿った見方をすれば予め想定していたかのようにスムーズに肯定の言葉を発した。
正直な所、怪しいと俺は感じている。
しかし、現段階では確証を得ているわけでもない。
「はぁー。分かりました。俺達はこれで帰ります」
考えても分からない事を考えても栓なき事だ。
もとより、俺達には関係のない話だ。
不可解ではあるが、ギルドに戻ればこの村も救われるだろうし、一応の義理は果たせるだろう。
「待ってください。今夜はもう遅い、泊まっていっては如何ですか」
「構いません。野宿には慣れているので」
これでも冒険者になってから時が経っているんだ、野営の一回や二回位経験はある。
馬に乗せてきている荷物の中には少々の食糧も入っているし、そもそも、夜営はするつもりで準備を整えていた。
「エル、行くぞ」
「......いい?」
「いいんだよ」
「......ん」
頷いたエルの手を引っ張り村長の家を出る。
外に出ても暗い事もあり人影は見当たらない。
しかし、村長宅に入っていた俺たちを伺うように見ている気配は感じとる事ができていた。
この、注目の仕様、やはり、何かあるのではと勘ぐってしまう。
「----エル、一応オーガの群れを探しながら帰るか」
「......ん!」
嬉しそうな声音のエルが抱きついてくる。
「勘違いするかよ、ギルドに伝える以上しっかりと確認する必要があるってだけ」
恐らく俺が村人を助けようと躍起になっていると思い込んでいるであろうエルに否定しておく。
その後、いつまでも抱きついたままのエルを引き剥がして、俺達はキヤケ村を出た。
ダンジョン都市アスタールからキヤケ村までは馬で駆けても数時間を要する。
人間の足で歩くとなると数日かかる程の距離だ。
「それなのに、あの村には馬の一頭もいないんだよな」
出発してから一時間弱、先程までいたキヤケ村の、小さな納屋に畑とありきたりな風景を思い出しても、隠れた人間は勿論他の生物すら見かけなかった。
それだけ寂れているという事も考えられるが、モンスターの溢れるこの世界で移動手段がないというのは死に直結する。
そんな事はあの村長も分かっているはずなのだが。
「......ジン、むらのことかんがえてる?」
「あ? まぁ、そうだな」
「......ん!」
「エル、お前また誤解しているだろ。別にあの村の為にオーガを探すんじゃないぞ。もし、確認せずにギルドに伝えて村長の話が嘘だったら最悪の場合俺に罰則が加えられるかもしれないんだ」
モンスターの群れはそれだけで一つの災害だ。
モンスターのランクによっては街が壊滅する場合だってある。そのために街ぐるみで対応に当たるのだ。
適当な情報を伝え、それが間違いだとわかった後、ごめんなさいで済む筈がない。
だから、出来るだけ鮮明な情報を寄越すべしとダンジョン都市のギルドの受付嬢の一人に再三に渡ってしつこい位言われた事だ。
「お前もその場にいたはずなんだけどな。寝てただろ」
「......エル、しらない」
プイッと素知らぬ風にエルは首を捻る。
最近エルは子供のような行動を取る事が多くなった。
それだけ、打ち解けたと思うべきなのか、生意気になったと頭を悩ませればいいのか。ただきっと良い方向に進んではいるんだろう。
「まぁ、兎に角だな。俺が確認にいくのはあくまでも自分のためなんだ。わかったか」
「......ん、でも、ジンがたすけるのはおなじ」
「結果的にはそうなるかもな」
「......ん」
背中にエルが頭を預けてくる。
「眠いのか?」
「......すこし」
「なら、寝とけ。既にいつモンスターが見えてきても可笑しくないとこまで来ているからな」
「......一人、へいき?」
「ああ、視界はしっかりと確保できているんだ。モンスターを探すくらい大丈夫だよ」
夜目がきくおかげで一々、火を炊いて休息を取る必要もないし、闇の中で動きに制限をかけられることもない。つくづくエルから貰った力は役立ってくれる。
「......ん、じゃあ、ねる」
「おう」
エルが背中で眠りにつこうとしているとろくに整備もされておらず、でこぼことした街道の脇の草むらの先に幾つかの影を発見する。
「エル、悪いな____居眠りは中止だ」
草むらにいたのは青い肌に二本の角。
筋骨隆々のそのモンスターはまさしく獲物のオーガだ。
オーガの数は三体。その中にはキングオーガとおぼしき個体のオーガはいない。
村長の話が嘘だったのかこの場にはいないだけなのかは定かではない。
「まぁ、いい。三体でも別に群れがいる可能性があることは示せるだろ。バニク」
もとより、速度を落としていた馬のバニクは声をかけると完全に速度を殺し、停止する。
バニクに縛りつけていた槍を手に背中から飛び降りる。
「援護は頼むぞエル!」
エルに一声かけてから一気に走る。
ダンジョンで過ごす内に自然と俺が前衛、エルが後衛で援護をしながら魔法を放つという形になっていた。
「全力でいくぞ」
予想外の事態とはいえ、本来の目的は自分の本気を試す事だ。実験相手が増えたのなら遠慮はいらない。
全身に魔力を纏って身体強化を施す。
駆ける速度が加速度的に上がっていく。
背後をとられているオーガはまだ気付いていない。
しかし、十メートルと迫ったとき足音を察知したのかオーガ三体全てが突然振り替える。
「流石に気づかれたか......だけど、遅い!」
既に射程圏内にオーガをおさめている。
槍を持つのとは反対の左手をオーガに差し向ける。
「俺だって魔法は使えるんだ」
魔力が何処かに流れると共に魔法が造られていき、炎の玉が射出される。
至近距離から発せられた魔法をオーガ達は避けれるはずがなくオーガ達に炎の玉が直撃する。
「グギャァ______」
オーガ達は悲鳴をあげるが一体として生き絶えてはいない。やはり、頑丈さがゴブリンとは違う。
「ちっ、練りが甘いか」
それに、俺自身の問題もある。
身体強化を施した上で強力な魔法を練りあげる事は、難易度が格段に上がり現状手こずっている。
それでも、何とか魔法は発動できるがご覧の通り、少しタフな相手には致命傷には至らない。
「なら、次はこれだ」
全身に纏っている魔力を触手のように操るイメージで槍にも纏わせていく。これは、坂井との邂逅の時に、俺を逃がすために亡くなった冒険者が使っていた技を真似たものだ。
魔力を纏った槍を突きだす。
痛みに呻いていたオーガの一体に到達した槍は肉を穿ち、骨を粉砕し、心臓に達する。
ふっと、蝋燭の火が消えるようにオーガの命が燃え尽きる。
「どうやら、これは通じるみたいだな」
強化された力で槍を引き抜いて、そのまま隣のもう一体にも槍を突き立てる。
もう一体も槍は容易く貫通し命を奪う。
間違いない。武器の強化は頑丈なオーガにも通じる。
このまま、全てを倒す事はできる。
だけど、それでは自分の実力を完全に計れない。
「ふー。やるぞ」
持っていた槍を手放し、両の拳を胸の辺りまで上げる。
自分でも馬鹿げているとは分かっているが、確認するにはこれが一番だ。
「来いよ」
「グギャァ!」
残った一体が怒りの形相で迫ってくる。
巨体だという事もあり、迫力が凄い。
そして、思ったよりも素早い。
「グゴギャァ」
勢いそのままにオーガはその剛腕を振るう。
拳は鋭く速い。
だけど、これなら合わせられる。
迫る拳に合わせるように俺も拳を突き出す。
オーガの拳よりも遥かに速い俺の拳と、その拳の優に倍はあるオーガの拳がぶつかる。
拳同士のぶつかり合いとは思えない甲高い音が鳴り____オーガの腕が上に持ち上がる。
腕には痺れが走っている。それでも、打ち勝つ事ができた。
「ありがとうな。おかげで俺は間違いなく強くなっていると確信できた」
腰を捻り突き刺すような鋭い拳で頬を殴りつける。
多量な魔力で強化した拳はオーガの意識を刈り取る。
「オーガ、やっぱりゴブリンとかとは違うな」
オーガを殴った腕を見る。
小指と薬指が赤く腫れている。どうやら、折れてしまったようだ。
強化した指が折れるという事実がオーガの固さを裏付けている。
「だけど、今の実力は大体把握できた」
身体強化と魔法の同時発動という課題はあるものの、自分の実力や、武器強化の威力も確認出来たのは大きい。
「......ジン!」
落とした槍を拾っているとエルが慌てたように駆け寄ってくる。
エルは俺の腕を持ち上げて骨折した指を見つめる。
「......へいき」
「大丈夫だよ。数日もすれば治るさ」
ステータスが上昇した恩恵なのか回復力も地球に居た頃とは比べ物にならないくらい上がっている。
エルもそれを知っているはずだがしゅんとなまじりを下げて落ち込んでいる。
「......エルが、なおせたら」
「しょうがねーよ。回復魔法は森でしかできないんだろ」
隠形と同じように森でしか、回復魔法は使えないらしい。俺も実際に試してみたが魔法は発動しなかった。
「ほら、帰ろーぜ」
「......ん」
少し気落ちした様子のエルを連れてバニクの元に戻る。
「ん、乗りにくいな」
指が折れているため、上手く背に跨がる事ができない。
「体勢を低くしてくんないかな」
「ヘッ」
駄目元で声をかけてみるがやはり、通じるはずもなくバニクは微動だにしない。
一瞬馬鹿にされたような気がしたが気のせいだろう。
「......バニク」
「ホヒィン」
エルが一声かけるとバニクは伏せの体勢をとる。
「お前......まぁ、いいや」
突っ込む気力が沸かず、素直にバニクの背に跨がる。
後に続くようにエルが乗ってきて出発する準備が完了する。
「あっ、一応オーガの素材を採っておいた方がいいか」
より確かな証拠があった方がいいだろう。
「悪いバニク、もう一回伏せてくれるか」
降りようと撫でながらバニクに声をかけるがやはり、バニクは微動だにしない。
「エル、頼めるか?」
「......ん、バニク」
エルが声をかけてバニクは伏せる......事なく立ち尽くして真横をじっと睨み続けている。
「何を見ているんだ?」
バニクの視線を辿るも岩と草の草原が広がるだけで何も見当たらない。
バニクはじっと睨み続ける。
やはり、何も見当たらない。
バニクはそれでも睨み続ける。
やはり、何も見当たらない。
『____ォォ』
何も見当たらない。だが、草原の先から音が聞こえてくる。
声と同時に地が僅かに振動しはじめる。
「まさか」
声と地響きが同時に聞こえてくるなんて嫌な予感しかしない。
そして、俺が嫌な予感を感じると録な事が起きないのは身を持って体験している。
地響きと雄叫びが近づくとその姿が見える。
青肌の鬼が群れとなって此方に駆けつけていた。
その数は優に百は越える。
「嘘......だろ」
圧巻の迫力を放つオーガに呆然としている間にもオーガの群れは近づいてくる。
「に、逃げるぞーーー!!」
「ホヒィィィィン」
初めて俺の言うことを聞いてくれたバニクは涎を垂れ流しながら全力で疾走して逃走を開始した。
「まさに数の暴力だな」
クラスメイト達の暴力で数が多いのを少し軽く見ていたが実際に目の当たりにするとその、危険性を実感する。あんなの相手に個人で挑もう等、ばかなものだ。
街で対処するギルドの方針は正しい。
幸い群れがオーガで遅かったから逃げられたものの素早いモンスターだったら殺されていた。
不用意にモンスターを探したのは反省すべき点だ。
「まぁ、これで村長の言ってた事は正しいと確信は得れたし、一人前と云われるCランクのオーガとの戦闘で自分の実力が一人前位はあると証明されたし成果としては上々か」
後はオーガの群れの事をギルドに伝えれば討伐隊が組まれて無事解決するだろう。
恐らく依頼は無かった事にされるがその分補償としてある程度の依頼両も貰えるだろうし万事めでたしってとこか。
「そろそろ街道に近づいた頃だろ」
もう間もなく二手に分かれる街道にでるはずだ。
「____っ」
全力疾走で疲労したバニクがのんびりと歩いていると何処からか漏れでる息使いが聞こえてくる。
反射的にエルを振り返るがそのエルもまた、背後を振り返っている。
「......ジン、あれ」
「あれって......」
エルが指差すのは倒れる人影。
間もなく街道に出るということは倒れていた亡骸の近くを通っていたって事だ。
いや、それよりも、息使いが亡骸から発せられただと。
「エル、風の魔法で此方まで寄せてくれ」
「......ん」
黒い外套を羽織った人影はふわりとその体躯を浮かばせ漂うように手が届く距離までやってくる。
間近で見ると外套の人物は華奢で小さい。
子供、もしくは女性なのだろうか。
確認しようと顔を隠すフードに手を伸ばす。
触れた指先が僅かな熱を感じとる。
「エル、この人生きているぞ」
「......ほんと」
「ああ、本当だ」
エルにも確認させようと勢いよく腕を戻すと軽く乗っていただけのフードがずれて脱げる。
「これは......」
フードの下の姿に思わず息を呑んでしまう。
出てきたのは可憐な容姿の女の子だった。
それだけでも驚くに値するが俺の視線は彼女の頭に注がれていた。亜麻色の艶やかな髪の上にツンと生えた二本の耳。
エルを見たときにも同様の感想を抱いた覚えがある。
「エルフがいればって事か」
獣耳の生えた少女は異世界物でエルフに並び定番の種族だった____。




