種族とそれ以外
軽い説明回なのでセリフ多めです
キヤケ村から戻った俺達はダンジョン都市アスタールの門前に帰ってきていた。
バニクを歩かせながら俺は頭を悩ませていた。
原因は言うまでもないエルの魔法で宙に漂っている獣耳の少女の処遇についてだ。
異世界で一人倒れた少女を何処に連れていけばいいのか、流石にダンジョン都市に来てから一月経っているとはいえ、想定外の事柄すぎてどうすればいいか分からない。
候補としては診療所に運ぶか、兵に事情を話すか、よく相談に乗ってくれる受付嬢がいる冒険者ギルドの三択しか思い浮かばない。
俺が住む宿に連れていくのは論外だ。
素性の知れぬ少女を連れて行くわけにもいかないし、いきなり自分の家に連れていくなんて普通じゃない。地球で迷子の少女を自分の家に連れて帰ってみろ、直ぐにお巡りさんが駆けつけてくるぞ。
この世界ではどうかは置いておいてやはり、少女を連れていくことには抵抗がある。
ただ一つ問題があった。
「......ジン、つれてこ」
「だから、駄目だって」
エルが先程から少女を連れていこうと駄々をこねて仕方ないのだ。
「少女が無事だったのは俺も嬉しいけど連れていくわけにはいかないって何度も説明しただろ」
「......でも」
「でもじゃない。この子だって突然違う場所にいたらビックリしちゃうだろ」
「......ん」
「この子の様子が気になるならまた改めて会いに行こう」
「......ん、わかった」
やっと納得してくれたエルと門を潜りダンジョン都市に入る。
「へー、それでその子は今どうしているんですか」
「何かあったらいけないんで念のため診療所に連れていきましたよ」
「何事もないといいですね」
「そうですね......こっちはそういうわけにはいかないみたいですね」
「あはは、私も今日は残業確定ですよ」
受付嬢のお姉さんが空笑いを浮かべる。
その周りでは職員が慌ただしく動き回っていた。
言わずもがなオーガの群れの事を伝えたのが原因だ。
あの後、診療所に少女を任せた俺はそのままギルドに直行した。
別室にてダンジョン都市に来た当初からお世話になっている受付嬢のマロンさんにキヤケ村に行き、依頼の変更があったことと実際に群れを目撃した事を伝えた結果が現状の慌ただしさが生まれていた。
「近々ギルドから依頼が発行されると思うんですけどジン君はでるんですか?」
「さぁ、まだ決めていないですね」
「本来ギルド側から言うのはいけないことなんですけど、ジン君は頑張っているとはいえまだ新人なんですから、受けなくても良いんですよ」
マロンさんはちょんと鼻をつついてくる。
子供扱いされてるようで気恥ずかしいが向こうから言ってくれる事は素直にありがたい。
「そういえば、エルちゃんは今日はどうしたんですか」
「エルはあの子に付いていますよ」
余程様子が気になるのかエルは少女に付き添ってこの場にはいない。
エルの不在を伝えるとマロンさんは心底驚いた表情を浮かべる。
「エルちゃんと一緒じゃないなんて珍しいですね!」
「俺だって四六時中一緒にいるわけじゃあないですよ」
「そうなんですか? 私が見る限り常に一緒にいるようですけど」
確かにエルとはよく一緒に居るが常にというのは語弊がある。
トイレは違うし、俺一人で特訓しにいったり、簡単な依頼を受けたりもするし、離れる時は何度かはある。
「でも、そうですね。エルが自発的に別行動をとるのは珍しいかもしれませんね。余程、獣人の少女が心配なんでしょうね」
いつも別行動をとるときは俺から提案する。
エルが自分から言い出したのは今回が初めてだ。
それだけ、少女が気になるのだろうが何をそんなに惹かれているのかは俺には分からない。
「獣人......?」
「ええ、先程も言った通り少女には頭の上に耳が生えているんですよ」
「それは、分かるんですけど獣人とは何の事ですか? 話を聞く限り亜人の事を仰ってるとはわかるんですけど」
「亜人ですか」
「はい。獣タイプの亜人ですよね」
「あー、そうです。獣タイプの亜人です。すいません世間知らずで」
迂闊だった。この世界での称され方が馴染みのある獣人とは限らない。
地球でも獣人は半人半獣の亜人として称される事があるから知識との間違いではないものの、この世界にはこの世界の常識がある。余りに常識とかけ違えた事ばかり発言していると奇異な目で見られてしまう。
だから、そうは見られぬように相手の一言一句に気を使いそこから僅かでも情報を得なければいけない。
今の獣タイプという言葉から亜人には色々なタイプがいると推測できる。
地球でも亜人の範囲は広かったし他のタイプがいるのは間違いない。
「大丈夫ですよ。それに、ジン君は冒険者になる前はずっと村で農業をやっていたんですもんね。知らなくても無理はないですよ」
「すいません」
これは、保険として事前に伝えていた事だ。
俺一人だと万が一嘘だと勘繰られる事もあり得るが、俺が異世界から来た来訪者だと知られるのは宜しくないと軍人であるアインの判断により、俺の偽の経歴は一応作られている。
設定としては田舎の村の三男坊で家業の農作業を手伝っていたが出稼ぎのため冒険者になったという感じだ。
とはいえ、余りに常識を知らないのはおかしいし、自分で言うのも何だが田舎ものって雰囲気でもない。
しかし、軍人のアインが俺の過去を伝えたんだ表向き疑われる事はそうそうないはずだ。
「仕方ありませんね。では、またお姉さんが教えてあげるとしましょう」
マロンは任せろとばかりにふくよかな胸を叩いて意気込む。
俺がアインとラインハルトに紹介された事で期待してくれているのかマロンさんは少しでも知らない事があると率先して教えてくれる。
「いいですか、ジン君。種族としては私達人族、エルちゃんの妖精族____現在は主にエルフと呼ばれる種族。力が強く手先が器用で知られる小人族、小人族とは時にドワーフと呼ばれていますね。最強と呼ばれる龍人。龍人とは交流がなく、生涯に一度目撃すれば運がいいと言われています。万が一目撃した際には絶対に何もしないでくださいね、殺されますから。そして、尤も残虐で凶暴、かつて災厄をもたらしたという種族の魔族です。魔族もまた、目撃した際は戦闘を行わず逃げてくださいね____殺されますから。それ以外は亜人です」
「幾つか質問いいですか」
「はい、どんどんしてください、何でも答えちゃいますよ」
「エルフとかドワーフとか別称があるのは何でですか?」
「知りません」
「それじゃあ、亜人だけ種族名がない理由は」
「知りません♪」
「本当に答えてくれる気あるんですか」
「だって、ジン君の質問は難しすぎるんですよ」
「えー、じゃあ魔族が災厄を起こしたっていうのは」
清々しいほどの笑顔で知らないというマロンさんに気勢を削がれながらも尤も気になっていた質問をする。
「それなら、答えられますよ! というかジン君はそれも知らないんですか。伝説にあるじゃないですかかつて魔族は龍人以外の種族の半数以上に被害をだしたと、そのせいで現在いる大陸もかつての災厄で破壊されて遥かに小さくなってしまったものらしいですよ」
「大陸をも破壊するって。そんなに魔族とは強いんですか......よく倒せましたね」
「それは、ご先祖様たちが頑張ってくれましたから。それに魔族を直接退けたのは____」
「マロン! あんたもぼさっとしてないで手伝いなさい!」
忙しく動き回っていた職員の一人がマロンさんに呼び掛ける。
「あっ、ごめんなさいジン君、話はまた今度でいいですか?」
「大丈夫ですよ。すいません、長く呼び止めてしまって」
「ふふ、いいんですよ」
「マロン! 冒険者様が待っているよ」
「はい、今行きます! それじゃあジン君、また来てくださいね」
「はい」
マロンさんは部屋を出ていき業務に戻る。
「俺も帰るか」
ギルドへの報告は終えたし、特に他の用もない。
職員の一人に声をかけてから部屋を出てそのままギルドを退出する。
「......ジン」
「報告が終わったから来た。様子はどうだ?」
ギルドを出た後、診療所に足を運んだ俺は少女が眠るベッドに来ていた。
「......ん、もんだいない。すぐ、おきる」
「そうか、良かったな......なぁ、何でそんなにこの子を気にかかるんだ」
ずっと聞きたかった。エルが優しく死に敏感なのは分かっている。
だが、それにしてもずっと付き添っていたりと、エルは妙に少女の事を心配しているように思える。
「......しんだら、おかあさんにあえない」
「え」
「......しんだら、ひとりぼっち、それは、や」
「エル」
エルは涙を流しているわけではない。
そのはずなのに、エルが泣いているように見える。
「大丈夫だよ。この子は死なない」
「......ん」
エルが頷くとそれに呼応するかのように少女の瞼がピクリと動く。
「ほら、起きるみたいだぞ」
少女の瞼が何度か揺れるとそっと開かれる。
「ん____ここは......どこなのです?」
寝ぼけ眼の少女は天井を見上げて呆然と呟いている。
「......へいき?」
「うわっ! なんなのですか!」
突然声をかけたエルに少女が驚く。
無理もない。少女からしたらいきなり見知らぬ場所に来ているのだから。
「実はね____」
デジャヴュを感じながら少女にこれまでの経緯を説明していく。
「あ、ありがとうございました」
説明を聞いた少女はベッドの上で土下座の形でお礼を言ってくる。
「いや、俺達は特に何もしてないからいいけど、体は大丈夫か?」
「はい! それもう、ぴんぴんです!」
「それは、良かったな」
「これも、二人のお陰です、感謝感激です」
少女は感謝の意を示すためか頭を下げる。
「私にできる事があったら何でも言ってくださいです」
「......きにしない」
「でも、それじゃあ私の気がすまないです!」
「本当に気にしなくて大丈夫だ。俺達は本当に何にもやっていないんだから。ただ、依頼の帰りに倒れていた君を連れてきただけだし。そういえば、何であんなところで倒れていたんだ」
感謝してくる少女から話を逸らす為に質問する。
至極当然の質問をしたつもりであったが少女は目線を下に向けて暗い雰囲気になる。
「実は私、用があってダンジョン都市を目指していたんです。その道中で倒れてしまって」
「......ようじ、ひとり?」
エルの問い通り、改めて見た少女はつり上がった目に亜麻色の髪に、何より小さくまだ子供だ。エルが不思議がるのは無理もない。しかし、少女はエルの問いに頷き、視線を真っ直ぐなものにして真面目な顔つきになり、口を開く。
「そうです。かあさまの形見を取り返すために、私はダンジョン都市に目指していたのです!」
そして、少女は事情を説明し始める。




