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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
17/30

来訪者

ス、ストックが……


「君は来訪者だね」

唐突に突きつけられたアインの発言に一瞬思考が停止する。



来訪者――クラスメイト達の事を指しているのは明らかだ。


「俺が想像した奴等が来訪者なら俺もそうだ」

誤魔化す事も脳裏に過った。しかし、それは何の意味もない。寧ろ変に疑われる可能性もある。

だから、素直に打ち明けても問題はないはずだ。


問題にすべきはこの後の展開だ。

来訪者と呼ばれた同級生達がどのような認定をされているのかそれによって俺が置かれる状況は変化する。


 「大丈夫だ。私は君を敵だなんて思ってはいない。ただ来訪者かどうか純粋に気になっただけさ」

 俺の考えを見透かしているかのようにアインは言う。

 

 「そうだぞ少年。寧ろ少年への疑いが晴れたところだ」

 アインに続いてラインハルトが聞き捨てならない事を言い出す。


 「疑い?」

 奴隷狩りの事について言及していることは分かっているがこちらが察していたということはラインハルトは知らない。


 「少年にも伝えたと思うが奴隷狩りという盗賊による事件が数か月前より多発していた。その中で異質な事例であった奴隷商人殺害の現場にいた少年を俺達は疑っていたんだ。すまなかった」

 ラインハルトは謝罪と共に頭を下げる。

 やはり、俺を疑っていたようだ。


 「ジンくん、私からも謝らせてくれ、実は君が奴隷商人を殺害していない事を私は一週間前には分かっていたんだ」

 「なーーーー」

 「はぁ、聞いていないぞ!」

告げられた事実に驚いたのは俺だけではなかったらしくラインハルトも驚きの声を上げたいる。


 「当初は私も君を疑っていた。たまたま犯行現場にいた君と判明した犯人の特徴がそっくりなんて偶然そうそうないと思ったからな。だけど、こうも思っていたんだ、君が犯人ならなんでわざわざ自ら捕まりに行くように血まみれの服で村に現れたのかと。だけどすぐ後にこの都市を訪れた来訪者たちによって直ぐに理解したよ。盗賊団にも来訪者がいてその人物は君とは別だって。彼らも言っていたからな、はぐれた者が何名かいるとな」


「俺も思っていたんだ。少年が犯人だとしたら矛盾していると」


成る程。自分を上手く客観的に見れていなかったが確かに俺の行動は犯人だとしたらちぐはぐなものだ。攪乱するにしてもリスクが余りに大きすぎる。


アインがクラスメイトを見て俺と犯人を別人だと確信するのは当然の成行なのかもしれない。

しかし、疑問は残る。


「何故、ラインハルト伝えなかったか気になるか?」

「そうだ、何故俺達に伝えなかったかんだ」

そう、犯人が別にいると察していたのならラインハルト達に伝えていたはずだ。


「それは、別に犯人がいるとしても君が味方かは定かではないからね。君を試すために監視は続けさせていたんだ」

俺の疑問にアインは淀みなく答える。

余りに自然に話したその内容は恐らく嘘だ。

仮に犯人との関係への疑いが残っていたとしても通常なら別の犯人の可能性を伝える筈だ。




「……本当か?」

証拠にラインハルトもアインの答えに訝しげにしている。やはり、アインの質問への答えは整合性に欠けている。

 まだ何か、アインは隠しているような気がする。

 

 「まぁ、そんなことはどうでもいいだろ。問題は盗賊にどう対処するかだろう」

 追求したい気持ちはあるがアインの言う通りだ。今先決すべきは坂井の対処だ。

 だけど、どうしても確認しないといけない事がある。


 「あの。アインさんが言っている来訪者は今、どこにいるんですか」

これだけは確認しておかないといけない。ここにはあいつらが……朱乃がいるんだ。

 その存在を思い出すだけで頬の傷が鈍く疼きだす気がする。


 「……残念ながら、来訪者は既にこの地を去っている」

 「それは、全員がですか」

 「全員かどうかは分からないがこの都市に来たものは全て立ち去ったよ」

「そうですか……」

何となくアインの言い方で予想できていたがやはり複雑な気持ちになる。


「どこに行ったかは聞いてもいいですか」

 「すまない。現状では君にそれを伝える事は出来ない」

 現状、それが何を指すのかは分からないが勝手に伝えることができないほどあいつ等は特別な立場にいるという事か。


 「まぁ、今はそれよりも盗賊にどう対処するかを考えようではないか。先程も言った通り上層部では今、戦力をつぎ込む方針はない。戦力は君とラインハルト、あとは幾人かの兵士だけだ」

 「兵士の人数は何人ほどなんだ」

 ラインハルトの質問にアインは皮肉気な笑みを浮かべる。


 「聞いて驚くなよ。二十名だ」

 「な、それだけかよ」

告げられた人数は二十名とあまりに少なかった。

 なんせ、俺達は同数で挑みながらたった一人に敗北して逃げてきたばかりなんだ。


 「二人が言いたいことは勿論私も理解している。しかし、戦力を投資できないのも事実なのだ。策を弄するしかない」

 「策ね……生半可な策であれに通じるとも思えないんだけどな」

 ラインハルトに同感だ。坂井の実力は明らかに突出していた。アインが言う兵士の実力が如何程かは分からないがクロム村の冒険者と同レベルだとしたら悔しいが俺も含めて坂井の相手は荷が重い。

 

 「では、このまま逃げたままでいるか」

 「――――それは、できない」

 「少年」

 「ほう、では戦うのかジンくん」

「そうです。俺はもう何度も何度も逃げてきた。敗北しようとも俺はもう逃げるわけにはいかないんです」

或いは敵がこの世界の住民だったら俺はここまで執着することはなかったのかもしれない。

だけど、坂井は坂井達は俺を棄てて自分達だけ助かろうと許せない事をした。

人を嗤いながら棄てるあいつらから俺はもう逃げたくない。


「でも、どうする。君達は来訪者の一人に敗北を喫したばかりだろ」

「わかってます。普通にやっては坂井には勝てない。だから、正面からは戦いません」

そう。普通に正面から坂井に挑めば二十人の冒険者が居たとしても勝つ事はできない。


「その顔、何か考えがあるんだな」

「あります――――その為には皆さんに坂井以外の盗賊を引き受けて貰いたいんです」

だけど、俺には正面からぶつからずとも戦闘を行う手段がある。考えられる限り唯一俺が坂井を倒すことができる方法だ。


「少年。一人であれを相手にって本気か」

「ラインハルト、どうみても本気で言っているだろ。ジンくん。君の考えを聞かせてもらえないか」

「アインさん。俺は貴方が言うところの来訪者です。そして、ご存じかもしれませんが来訪者は全員がスキルを持っています」

「そうだな」

やはり、本人達から聞いていたのかアインは特段反応を変えることなく首肯する。


「全員がスキルを持っているだと!」

話を先に進めようとしていると驚愕の声をラインハルトが唐突にあげた。


「それが何か」

ラインハルトが何に対して驚いているのかここにきてそれがさっぱり理解できない。


 「何か、スキルってあれだろって、限られたものだけが先天的に持つっていうあれだろ」

 「そうなんですか」

 知らなかった。クラスメイトやエルがスキルを持っていたからしょうがないのかもしれないがスキルとはこの世界では希少なものだったのか。

 そうなると力とスキルを得たクラスメイト達はやはりこの世界では異端という事か。


 「そういえば、君も来訪者だね、どんなスキルなんだい」

 墓穴を掘ったとしか言えない俺の発言を当然ながらアインとラインハルトは聞き逃すはずもなく聞いてくる。

 だが、魂に関するスキルなんて迂闊に話すわけにもいかない。そもそもこのスキルは俺自身相手から力を貰うという一点しか分かっていないんだ。

 発動した時の制限など不明瞭な事が多いし他人には話せない。


 「俺はスキルを使えないんですよ。俺は無能な落ちこぼれ何です、だから今、ここにこうして一人でいるんですよ」

「それは本当か?」

「ええ。それで落ちこぼれの俺が力を持つ一団にいたらどうなるか。わかりますか」

「迫害か……」

ラインハルトは苦々しそうに呟く。


「そうです。でも、俺は確かにあいつらと一緒に居たんです……だから、俺はあいつ等の坂井のスキルを知っています」

そう。全員とはいえないが俺はクラスメイト達のスキルを知っている。朱乃からの情報は除くがそれでもある程度は把握している。

それこそ、俺に暴力を振るっていた坂井のスキルは身を持って知っている。


「坂井のスキルは『神眼』。性能はどれ程かは不明ですが坂井は相手の動きが遅く見えると言っていたんです」

「そうか。そういえば、あの男、少年の攻撃やドグマの打撃を完全に見切っていたな」

「そうです。それに、坂井には魔法があります」

相手の動きを見切り、素早い動きで魔法を発動する。坂井は間違いなくこの世界で強者と呼べる存在だろう。


「強いな。だが、話を聞く限り対処は可能かもしれないな。ラインハルト、お前はどう思う」

「そうだな。あの男は強かった。初見では対応出来ない程の力を持っていた。そこにスキルが加われば絶望的だ。が、相手の動きを見切るだけならば対応は可能だろう」


スキルが判明していても冒険者達を一人で圧倒した坂井には実力では遥かに及ばないだろう。

だが、坂井のスキルは直接的な攻撃力を持たないかつ、一対一に特化したスキルだ。それなら、対応方法は幾つか存在する。


「俺も二人と同じで厳しいでしょうが対応は出来ると思ってます。何より俺はあいつのスキルを把握しているんです。だから、既に策を考えています――その為に先程言ったように皆さんには俺と坂井の二人きりにしてほしいんです」


「……ほう。出来れば詳しく聞きたいのだけどね」

「すみません。今はまだ話せません。だけど、これしか方法はないんです」

策の内容を伏せる。普通なら即却下されても可笑しくないだろう。


「勝てるのか」

「少なくとも闇雲に攻め込むよりは可能性があります」

「――なら、よかろう。ジンくん。君に任せるよ」

しかし、アインは予想通りに了承してくれた。

この反応ぶりからやはり、俺がスキルを持っていないという事を疑っていたようだ。

唯一人だけ持っていないのは偶然が過ぎると思ったのだろうが、お陰でこうしてスムーズに話を進める事ができた。


「では、ジンくん。我々は盗賊を引き受ければいいんだな」

「はい。坂井で手一杯ですから」

「そうか。なら、君にこれ以上の負担を掛けさせぬよう我々が盗賊を引き受けてみせようか……でら、次は作戦決行の詳細について話すとしようか」

「はい」


良かった。予想通りに決まったとはいえ、不安は抱いていたのだろう、無事に決まって安心した。

後の問題は俺が坂井に勝てるのかだ。

相手は現段階では遥か格上、全ての点でチートと呼べるアインの言うところの来訪者だ。

確実に勝てるとは断言出来ない。

まぁ、それでも逃げるという選択肢はないが出来れば勝算を少しでも上げたい所ではあった。



「おい、貴様、此処を何処だと思っている!」

なんて、事を考えていると、突如聞こえてきた兵士の叫びが思考を遮った。


「う、なんだこのガキ、素早しっこいぞ」

兵士の声が此方に近づいてくるのと共に足音も耳に届き始めてくる。

どうやら侵入者とやらの狙いはここのようだ。



「何だ、此方に向かってきているのか」

俺と同じ結論に至ったラインハルトは警戒を高めて腰の鞘に手を添える。


「そのようだな。さて、狙いは何なのか――」

その時、アインの視線を感じたような気がしたが俺の意識は開かれた扉に向けられていた。


相手は誰なのか否が応にも俺の警戒心も高まる。


「……ジン!」

「エル?」

だが、警戒虚しく現れたのは美しいエルフの美少女エルであった。


「お前何でここ――」

「ジン!」

言い終える間もなくエルは勢いよく突進して抱きついてきた。


「エル?」

顔を腹に埋めるほど強く抱きついてきたエルの体は小さく震えていた。


「……エル、ジンさがした」

「えっ?」

「……ジン、さがした!」

腹から顔を離し俺を見上げてくるエルの表情は涙でグシャグシャになっていた。


「探したって、まさか一人でか?」

「……ん、ジン、戻らない、リオ、いってた」

「そうか。皆逃げ切れたのか、それで話を聞いて」

「……ん」


エルは頷く。それにしても、森の中は坂井達盗賊とは別にモンスターも蔓延っているのにその中を一人で来るなんて余りに無謀だ。

どうしてそんな無茶を……何てのはエルの顔を見れば一目瞭然か。


「大丈夫だ。エル、俺は無事だ」

「……ん、でも、エル、こわかった、しんぱいした!」

「悪かったよ。色々あったんだ、許してくれよ」

「……ん、エル、おこってない」

「よかった」

しかし、首肯しながらもエルは俺から少しも離れようとしない。

別に抱きついたままでも構わないのだがラインハルトとアイン、それに駆けつけた兵士までもが見ている中では些か恥ずかしい。


「エル、そろそろ離れろ。今話し合っている途中なんだ」

「……や」

「嫌って、頼むからそう言わないで離してくれよ。ほら、代わりに手握ってていいから」

「……ん」

妥協してくれたのかエルは俺から離れて手を強く握ってくる。

これも恥ずかしいのだが抱きつかれるよりはましだろう。


「……なんですか」

「べっつにぃ~~」

エルが落ち着いてくれたのを確認し周りに視線を向けるとラインハルトがニヤニヤとし、アインまでもが微笑ましそうにしている。問題はないと判断したのか兵士達は消えていた。


「くっ、早く話し合いましょうよ」

「……はなし?」

今この場に来たばかりのエルはコテンと不思議そうに首を傾げる。


「ああ、盗賊に対抗するためのな」

「……また、たたかう?」

「そうだ」

「……ん、ならエルも」

「いいのか」

「……ん」

力強くエルは了承してくれた。

だが、これは僥倖だ。エルならば俺の策の成功率を格段に上昇させてくれる。


「ラインハルト。この娘は使えるのか」

「あっ、ああ。間違いなく俺達の中では一番使えるぜ」

「ほう。そうなのか」

アインは驚いた様子を見せる。

仕方ない事だ。エルの見た目は華奢でとても強力な実力を持つとは思えない。


「あれ、エル。そういや、此方に来てるけどブランはいいのか」

エルは強者故にブランが護衛に付けていたはずだ。



「……へいき。ブラン、いっしょに、きていた」

「は? 何だブランも一緒に来ていたのか?」

「……ん、みんな。でも、はぐれた」

あのブランが護衛を送り出すはずがないとは分かっている。だからてっきりエルが勝手に飛び出したのかと思ったのだが、ブランは先を急ぎたがっていた。或いはエルの言う通りに先に進むのかもしれない。


「だけど、全滅の報せを聞いたばかりなんだろ」

余程急ぎたい理由があるのかもしれないが盗賊達に遭遇すれば今度こそ全滅させられるのは眼に見えている。


「ラインハルトさん。どうします」

ブランと一緒にいるのは兵士仲間のリオ達や同じ村に住む冒険者達だ。


「クッ……少年悪いが」

「分かってます。今から作戦を行いましょう」

ドグマ等の二の舞は御免だ。本音を言えば作戦上もう少し遅めの時刻がよかたのだが、これ以上、坂井に知り合った者達の命を奪わせるわけにはいかない。


「助かる少年。アイン」

「わかったよ。しかし、後少し待ってくれ。兵を直ぐ様集める」

余りに急な事態に戸惑う事なくアインは急いで扉の外にいた兵士に他の者を呼ぶように命令した。

余程急いだのか十分もしない内に二十名の兵士が集まった。


「行くぞ皆。今日中に盗賊を捕縛するぞ!」

「「おおおお」」

アインが声を上げ、兵士達は森に向かうべく兵舎を飛び出していく。


間もなく坂井との決戦が待ち受けているだろう。

だが、それは望むべきことだ。

今度こそ決着をつけてやる。


「……ジン」

「ああ、俺達も行こう」

決着を付けるべく兵士に続きエルと共に兵舎を飛び出していく。







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