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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
12/30

魔力

本日2話目



朗らかな日差しが窓から差し込む。

温かな日を浴びたジンは微睡みから目覚める。


「朝か。うーん、やっぱ寝具があるとよく寝れるな」

上半身を起き上がらせたジンは大きく伸びをする。

ベッド――初依頼から一週間、ジンは宿に泊まっていた。

干し草を敷き詰めた物に厚めのシーツを乗せただけの簡易的なベッドだが畑で夜を過ごした事に比べれば遥かにましだった。


「顔でも洗うか」

寝ぼけ眼覚まそうとジンはベッドから降りようとする。しかし、起き上がろうとしたジンは動きを止める。


「……すぅ、すぅ」

視線を下げると気持ち良さそうに眠るエルがジンの服を掴んでいた。


「仕方ないな」

起こすのも忍びないとジンは枕元に置いたスマホに手を伸ばす。


スマホを持っていたことを依頼達成の翌朝思い出したジンは急いで画面を確認した。

何せスマホにはジンのステータスが記されている。

ステータスを見れば自分がどれだけ成長したのか一目瞭然で分かる。


依頼の成果は多岐に渡ってあったため無駄足という事はないがそれでも苦労した事に僅かな後悔を感じてはいた。


肝心のジンのステータスは肉体は感じた通り大した成長は遂げていないが魔力の項目が元の零からクラスメイト達に匹敵するくらいとは言わないが当初よりは遥かに増えていた。


「この世界でもエルフは魔法のエキスパートって事か」

他のエルフと遭遇したことは無いジンはこれまでの空想上の異世界との類似点が多い事からそう推察していた。


ステータスに目を走らせたジンは画面をスクロールし、スキルの項目に目を止める。


スキル欄には【支魂譲渡】【精霊魔法】と二つのスキルが記されている。


「やっぱ見えないか」

スキル欄で画面を制止させたジンは精霊魔法の文字を押すが支魂譲渡の時のようにスキルを説明する文章がでてこない。

理由は定かではないが現状では情報も無く知る由もないので気にしないようにしていた。



スマホを閉じたジンは枕元にスマホを戻した後、目を閉じ思考に没頭する。

エルが起きるまで時間はまだ幾分かある。

その間、ジンは魔法の訓練をすることにした。


訓練といっても実際に魔法を放つわけではない。

そんな事をしたら、宿が壊れてしまう。

ジンが行っていたのは瞑想を行った状態での魔力制御だった。


ジンは初依頼の時に魔力があっという間に枯渇したのを問題だと捉えていた。

改善策として考えたのが魔力の増大と無駄を省くための魔力制御だった。


魔力は魔法を使えば個人差はあるものの増大する。これは、クラスメイト達によって証明されていた。

魔力制御を行おうと決めたのは初めて魔法を使用した時ジンは一発で魔力切れに陥った。

しかし、二回目の時は三発放つ事ができた。

成長したという可能性もあるがジンはそれ以外にも二回目の時は魔力の込めかたが違うからだと考えた。

一度目の時はエルを助けようと無我夢中でやったのに対し、二回目の時は不慣れながらも魔法をはっきりとした意思で発動しようとしていた。

二つの間には魔力を込める量に純然たる差があった。


そこで思い付いたのが瞑想だった。

これまでの体験から魔力が内に秘められたエネルギーのようなものだというのは実感している。


心を落ち着かせて魔力を感じるために視界をシャットアウトし、内に意識を集中させる。


前日にこの特訓を開始した当初は瞑想をしても雑念が混じり上手く行えなかったが根気強く一週間かけて瞑想を行い続けたジンは内にあるエネルギーを確かに認識した。


エネルギーは体の中を循環している。

ジンは意識して循環しているエネルギーを徐々に排出しようとイメージする。


「っ!」

途端にエネルギーは多量に漏れだし魔法に形を変えようとする。


ジンは慌てて魔法をキャンセルすると念じる。

すると朧気に組み上げてられていた魔法が魔力となって霧散する。


「危なかったな。でも、この訓練はいいぞ」

魔力が消費されるのと魔法が形成されていく様を認識することができるならどの程度の魔力で魔法が形成されるのか等、色々と検証しやすい。


瞑想を続けていると裾を軽く引かれる。

視線を落とすと寝ぼけ眼のエルが翡翠色の瞳で此方を伺っている。


「悪い、起こしちゃったか」

「……へいき。もう、おきるじかん」

「そうか、ならいいけど」

「……ん、ジン、まりょく、だしてなにしてる?」

「魔力制御の訓練だよ。俺はまだまだ魔法に不慣れだからな……って、魔力を放出してたって分かるのか?」

「……ん、わかる」

「そうか」


判明した事実にジンは思案する。

エルフのエルが特別なのかジンに出来ないだけなのかは定かではないが後者の場合は最悪だ。

一方的に魔法発動の兆候を察せられたとしたら圧倒的な不利になる。

そうだった場合には対処法を考えとかなければいけない。


「……ジン、わからない?」

「ああ、わからない」

「……これでも?」


言うとエルから突然何かが溢れでてくる。

内側に宿る魔力と酷似したそれをジンはエルから感じ取った。


「俺にも分かる。けど何で今になって」

宿に泊まるまで出会った人物からエルと同様の物を感じた事はなかった。

それこそ、エル本人からもこれまで感じた事はなかった。


「魔力は放出されないとわからない?」

得た情報からジンはそう判断する。

そういえばこれまで他の者が魔法または魔力を放出する場面に出くわした事がなかったとジンは思い出す。


……初依頼の時、エルが魔法を使用したのに気づけなかったのはまだ変質するまえだったからか。


ジンの答えが正しいと証明するようにエルは小さく頷いた。


「……ん、エルはわかるけど、みんなはちがった」

どうやら、エルは内面にある魔力も感知できるようだがエルの言うように全ての者ができる事ではないのだろう。

ならば、外に漏れる魔力を感知できた事を重畳としておく。


「でも、相手の力量を察せないのは問題か」

魔力が強さの一つの基準になるなら見極められないのは痛い。他にも身のこなしからも力量を計ることは可能だが残念ながら戦闘初心者のジンには到底できる芸当ではない。


ジンが物思いに耽っていると再度引かれた裾が意識を現実に魔法は戻ってこさせる。


「……ジン、ごはん、ごはん」

「そうだな。でも、その前に顔を洗って歯磨きしないとな」

「……ん!」

頷いたエルはベッドから跳ねるように降り、トテトテとちいさな足取りで扉を開けて退出する。


ジンがいる宿は所謂安宿だ。水道なんて無いし、風呂も洗面台も勿論ない。あるのは簡易的に作られたベッドだけだ。


顔を洗うには外にある井戸の水を汲み上げて洗うしかないし歯磨剤等あるわけもなく柔らかくした木で磨くしかない。


しかし、地球とは衛生面で格段に劣る現状に不満を抱いているかというとそんな事はなかった。


森での生活に慣れていたジンや奴隷のエルにとっては満足とはいかなくても十分な生活環境が整ったといえる。


「……ジン、いこ?」

「ああ、そうだな」

 エルに催促されてジンは宿を出ていく。


 


 





宿を出たジンはエルを連れてギルドへと来ていた。

目的は依頼を受けるのと食事をとるためだ。

安宿では朝食が出されるがその量は少ないためジン達は格安で食事をとれるギルドにここ一週間通っていた。


「……ジン、つぎなにやる?」

コッペパンと野菜スープを食べながらジンはエルと依頼について話し合っている。


「そうだな。ずっとゴブリンを相手にしてたから違う依頼を受けてみるのもいいかもな」

一週間の間ジンは初心者用の依頼のみ受けていた。偶然にもその対象となるのがゴブリンだったのだ。


「……どんなの?」

「もっと稼げるやつ」

エルに問われたジンは即答する。

初心者用の依頼はその名の通り初心者向けの依頼であり、その報酬も微々たるものでしかない。

安宿に一泊するのにも依頼を三つこなさないとならないのだ。

それも一部屋分のみ、エルが幼いからよかったもののそれでも一緒にいると気を使う。もっと稼げる依頼を受けて一人部屋になりたいとジンは思っていた。


「……だいじょうぶ?」

「まぁ、厳しいだろうな」

エルが不安そうにするのも無理の無いことだった。依頼の難易度を上げるのは死の確率を上げるのと同意だ。それにジンは魔法を上手く操れる訳でもなく不安要素が大きかった。

ジンもその点を理解はしている。


最善は実力に見合った依頼を受ける事なのだが自分の実力を把握するのもまた難しい事だった。


「……どうする?」

「う~ん。取り敢えず依頼書を見て周ってから決めよう」

決めあぐねたジンは食事を終えると立ち上がり依頼書が貼られたボードを閲覧しに行く。




「……やっぱ、どれも難しそうだな」

貼られた依頼書にはゴブリンの巣の駆除やウェアウルフ討伐、キラーベアー討伐等見るからに手に負えなさそうな依頼ばかりが貼られている。


しばらくの間、依頼書を物色したジンだが達成できると思われる依頼は無く結局ゴブリン討伐に落ち着いた。



「えーと、依頼主はクロム村滞住兵士――兵士?」

依頼相手にジンは疑問を抱く。

兵士がどれ程の練度を持つのかは知らないがゴブリンに手こずるとはとても思えなかった。


……何か企んでるのか?


十中八九ジンの予想通りに企みがあるのだろうがその内容を計ることは現段階では情報が不足していた。


「まぁ、いい。行けば分かるか」

どちらにせよ日銭を稼がなければいけないジンに依頼を辞めるという選択肢は存在しない。

気は乗らずともジンは静かな足取りで依頼書の地図を頼りに兵舎へと歩いていく。





「お、少年どうしたんだ」

依頼のゴブリンを討伐したジンが日も暮れた時刻に報告のために兵舎に戻ると村に来た初日に出会った兵士ラインハルトが声をかけてきた。


「依頼書を達成したんでギルドに寄る前に報告をと思いまして」

「ああ、そうか、達成したか。ご苦労だったな。ほれ、これやるよ」

ラインハルトは果物を放り投げて寄越す。


「ありがとうございます」

果物を上手くキャッチしたジンはそれをエルに渡してからお礼のため頭を下げる。



「いいってことよ。此方も冒険者には迷惑をかけちまったしな」

「迷惑?」

「ああ、今回の依頼も本来はこっちで対処すべき案件だったんだがな、知っての通り奴隷商人狩りで人員不足な状態でな冒険者に頼ったんだ」

「そうだったんですか」


……気にしすぎたか?


ラインハルトの説明は納得のできるものだった。

企みは思い過ごしかとジンは思い直す。


「そうなんだよ。それに冒険者との合同での護衛もあるしな」

「合同で護衛ですか、それはまた本当に人手が足りないんですね」

護衛で身元も安全かどうか知らぬ冒険者を頼るのは通常の事ではない。人手不足は考えたよりも深刻ということだ。


「それもあるんだがな、護衛対象の商人が今回の事件に酷く怯えていてな。安全のため護衛を増やすと言って聞かないんだ。応援を呼ぶにも明日にでも商品を運びたいと我が儘まで言っていてな」


「それは、大変ですね。でも、襲われるのは奴隷商人でしょう」

「そこは勘違いという可能性があるからな」

「成る程、それはありえますね」

「そうだろう? そこでだ、坊主。この依頼受けないか」

突然ラインハルトが放った言葉にジンは一瞬硬直する。


……これが、狙いか。


雲行きが変わった事に僅かに戸惑ったジンはラインハルトの思惑に気づいた。


発依頼の夜から格段に研ぎ澄まされたジンの五感は自身を監視する兵士を察知することができていた。気配を察知したジンは怪しい行動をとることなく一週間過ごした。何の手掛かりも得られず焦れた兵士達は一つの作戦を思い付いた。


……恐らく、今回の護衛で俺が盗賊に接触を図ると考えているんだ。


ラインハルト達、兵士側からしたら堂々とジンを監視するのに護衛の依頼はうってつけなのだろう。


今この瞬間にもジンがどう反応を示すかをラインハルトは監視している。

注視されているのを自覚しながら、察知しているのを表には僅かにも漏らさずジンは微笑む。


「ええ。よろこんで引き受けさせてもらいます」

ラインハルトの誘いをジンは快諾する。


確かに今回の護衛は兵士側にとっては喜ばしい好機なのだろう。

しかし、それはジンにとっても同じ事だった。


自分をしっかりと見張ってくれる兵士という盾がいながら数に物を言わせてクラスメイトの影を追うことができる。正に千載一遇のチャンスなのだ。


「おお、よかった。それじゃあギルドに伝えておくから一週間後、兵舎に来てくれ」

「はい。それじゃあ、俺達は行きますね」

「……さよなら」

「おっ! おう。じゃあな」

何気にエルに初めて声をかけられたことに声を弾ませたラインハルト達とジンは別れていく。




「……ジン、いらいうける」

「ああ、勝手に決めて悪かったな」

「……ん、かまわない。でも……」

声のトーンを落としたエルは言葉に詰まり次の音を紡ぐことなく口を結ぶ。


「でも、乗り気ではない……か」

「…………ん」

エルは小さく肯定する。


理由は単純だ。今回の依頼で殺しが起こると理解しているから。人、それも人の命が軽い異世界だ。人同士がぶつかれば捕虜に留まらず殺害するだろう。

殺しをできないエルが気にするのは当然の事だった。


「俺もそうなのかもな」

「えっ」

ジンの口から零れた言葉にエルが驚く。


「なんだその反応は、俺だってやりたいわけじゃないんだ」

モンスターは狩っても人間を相手にした経験は勿論皆無だ。

千載一遇の好機だから受けたものの心から喜んでやるわけではない。


何せ、殺人に至っては未知の領域だ。戸惑い躊躇してしまうなんて事もしてしまうかもしれない。

だが、躊躇した時、どうなるかは明白だ。

だから、ジンは躊躇ないと自分自身にも言い聞かせるようにエルに覚悟を伝えた。


生きるためにこの世界で死なないために誓ったのだ。


自分は殺人を犯す。

ジンはそんな確信を抱いていた。












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