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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
11/30

ゴブリンと最強を目指す者


――――まずったな。

先程から俯いたままでいるエルにジンは気まずさからいたたまれない気持ちでいた。


自分の発言が原因だから励ますこともできない。

そもそも、ジンは何故自分がエルを責めるような事をいってしまったかを理解していない。


下手なことを言って更に落ち込まれては敵わない。ジンは黙したままただじっとモンスターが来るのを待つことにした。


しかし、そうは言ってもモンスターは未だに姿を見せていない。このまま朝まで現れない可能性も十分にある。その場合は朝までこの状態でいなければならない。


そんなのは、御免だと思いつつもジンにはモンスターが現れるように祈ることしかできない。


ジンの祈りが通じたのか畑にジンとエル以外がたてた音が鳴る。


聴こえてきたのは枝を踏みしめる音。


―――来た!

ジンはモンスターの存在を認識した。


「……ゴブリン、かず、5」

異変を感じて顔を上げたエルは音ではなく肉眼にてモンスターの種類と数を正確に把握した。


「五匹か……」

ジンは決断を決めかねていた。

五匹、数の上では不利だが負けるかと云われると否であった。

一方的に相手の存在を認識しているから不意討ちできる優位性もある。

何より遠距離から攻撃できるエルがジン側にはいる。戦力的には圧倒的に優位だ。


しかし、それは普通の状態を想定した場合の話だ。

今のエルの精神状態が正常のものとは思えない。

ゴブリンとでは実力がかけ離れているからエルの身に危険は及ばないとは思うがモンスターを殺せないという事もあり魔法を打ち損じるような事が起きるかもしれない。

そうなった場合ゴブリンがジンに押し寄せるかもしれない。


…………だが、退くわけにはいかない!


折角実力を確かめる事ができるチャンスを得たんだ。負ける確率のが低いと目算している今、討ってでるべきた。


「エル、魔法だ。殺さなくてもいいから」

「……ん」

エルは頷くと同時に腕を突きだし滔々と呪文を紡いでいく。


「【――――】……ごめん」

エルが呟くように謝罪すると地面が隆起し轟音がなるとジンの視界に微かに見えていた黒い影が消失する。何事かと思う間もなく物が落ちてきたような落下音と低く掠れた呻き声がいくつも重なり聞こえてくる。


「つめた。これは水か?」

尾とが聞こえると同時に頬にかかった液体は冷たく無臭だった。

水とあたりをつけても見ないことには確証は得れない。


「……まほう、みずでうちあげた」

「さっきのはその音か」

どうやらゴブリンが魔法で打ち上げられて地に堕ちた音だったようだ。

呻き声から死んではいないもののダメージは負ったはず。ならばとジンは止めを刺すべくゴブリンに迫る。


……できれば戦いたかったけど構わない。


試したいことは色々とあった。今回はスキルで得た魔法を試すことにする。


「スキル【精霊魔法】発動!」

新たなスキルを発動するために心の中でスイッチを切り換えるようにそれを発動する。


呪文を唱えたことでジンの中で変化が訪れる。


……何だこれ。


変化を上手く言語で例える事はできない。

しかし、ジンの中で明確に何かが変化を否、変質した。


実感できる変質は先ず視界に現れた。

暗闇の中にいたはずの自分。

見通すことの不可能な筈の土や穀物、ぶよぶよの皮膚を持つ緑色のモンスターの姿が地に倒れ伏すのもクリアに見える。


……これは、エルの視界なのか。


エルから力を得たのならそれに伴い視力を得たとしても不思議ではない。


スキルの詳細が判明していないため自分が何を得たのか把握していないが構わない。

喜ぶべき事に想定外の力を獲得したのだから。


……暗闇の対処は無駄になったが好都合だ!


幾つか考えていた策は台無しになったがより強力な武器を得た。


モンスターの元に駆けたジンは槍を地に伏しているゴブリンに突きだす。


突然吹き飛ばされた事に事態を掴めていないゴブリンは混乱をきたしジンの存在に気づいていない。


故にジンが放った槍は余りにも呆気なく一匹のゴブリンを突き刺す事に成功する。


肉を穿つ感触を感じると共に絶命したゴブリンにジンは僅かに眉を顰める。


噎せかえるような血の臭いと目が虚ろになったモンスターの死体は死の現実感をジンに与える。


……それでも、以外と大丈夫なんだな。


僅かに眉を顰める。言い換えればそれだけの反応しかジンは見せていない。

スキルを使った影響、ジンは微塵もそうは考えていない。

奴隷商人等が殺害されているのを見てもジンは対して動揺することはなかったからだ。


ジンの精神は既にクラスメイト達によって変化させられていた。


モンスターを狩るのに役立つ精神を皮肉にもクラスメイト達のお陰で得たことに自嘲するジンはしかし、直ぐに無駄な思考を打ち切る。


「ギィィ」

「ギィィッ!」

視界の先で残りの半分である二匹が地面に手を付けて勢いよく体を起き上がらせる。


……ちっ、起きたか。ならまだ倒れているやつを。


見えない敵を警戒してか腕を交差させた防御姿勢を取ったゴブリンを無視してジンは倒れた二匹を淡々と槍で刺し殺す。


……残り二匹か。


全滅させたいところだったがこれはこれで都合がいい。

魔法はまだ慣れていないのだ。安全を考慮すれば数は少ない方がいい。


「おい、まだ気づかないのか」

「ギィィ」

「ギィ!」

声を聞いたゴブリンはジンに顔を向ける。

向けた顔はしっかりとジンを捉えて怒りの形相を作る。


「見えてるのか」

ゴブリンはしっかりとジンに視線を向けている。


「ギィィ!」

ジンの予想が正しいというようにゴブリンは正確にジンに向かって走る。


子供位の背丈のためか歩幅が短くスピードはそれほどない。避けるのは容易いだろう。


ジンは敢えて迫ってくるゴブリンの攻撃を待ち受ける事にした。


「ギィィ!」

ゴブリンは大振りで拳を振るう。

拳の軌道を見極めたジンは片腕を曲げて拳を受ける。


拳が接触した瞬間肘を曲げた腕に微かな衝撃が襲い、腕全体に走っていく。


……少し痛いな。


痛みとしては子供に殴られたようなものか。

一発の威力は大したことはない。

しかし、痛みを感じるということは何発か殴打されれば痛みは激痛に変わる。

何度もダメージを受けるのは避けたいところだった。


「くそ、この感じだと防御力では格段に劣っているな」

クラスメイト達はそれこそゴブリンの攻撃など微塵もダメージにはならなかった。


分かってはいたが現時点では劣っていることを再認識した。


「この感じだと肉体面は劇的に向上したわけではない。エルが肉体系ではないからか?」

ジンの推測が正しければ肉体の強化は微々たるものだ。その代わり魔法に関しては期待ができた。

何せジンから見た限りエルの魔法はクラスメイト達と比べても遜色がないように思える。

多少ともその力を譲渡されたのならジンの武器になるはずだ。


――――不安なのは魔法を発動できるかどうか。


一度発動した事があるが無我夢中の事でどうやればいいのかが分からなかった。

とはいえ、想像ならできる。伊達に異世界物を小説やネット小説、漫画などを読んできたわけではない。

しかし、それはあくまで創作上の物であり現実に魔法が存在するこの世界で役立つかは分からない。



かといって他に方法はないとジンは地球で何度も目にした魔法を思い浮かべながらエルと同じ掌を前に突きだす動作をとる。


――――最初の魔法といえば火の玉だよな。


ジンが野球ボール位の炎を想像するとそのイメージが何処かに流れていくような感覚を覚える。


何処かに流れたイメージをジンの魔力が現実の物として形造っていく。


「……できた」

ジンの掌の前面に炎の玉が浮遊している。

浮いた炎を射出するイメージでジンは打ち出す。


「ギィィッ!」

ジンの顔が照らし出されると同時に飛来してきた炎によりゴブリンの顔面が火に包まれる。


「くっ、思ったより弱い」

初めてだからか才能がないからかは定かだはないが魔法に思った以上に威力がない。

ゴブリンは肌が焼けたに留まり健在だ。


更にジンは脱力感を得ていた。


「魔力か」

魔力切れという事はないが一階の魔法で魔力が大幅に減じたのが実感できる。

後打てて数回というところだ。


「ギィ……ギィ!」

元々醜かった顔を更に酷くしたゴブリンが牙を剥き出しにして憤怒する。


仲間のゴブリンも同様に牙を剥き出しにしている。



「チッ、今度こそ」

一回目の失敗を鑑みてジンは魔法のイメージを修正する。

火の玉からより殺傷能力が高まるように自身の武器の槍を想像する。


「っ! 穿て!」

イメージと共に流れた魔力で形作られた炎の槍を弾丸の如く射出する。


「ギ――」

射出された炎槍は叫ぶもなくゴブリンの命を刈り取る。


「ギィァッ!!」

地響きをたてながら倒れた仲間を見て皮膚を焼け爛せたゴブリンは怒りを通り越して憎しみの籠った瞳をジンに向ける。


「くっ、後一匹」

更に失った魔力により立つのも辛いジンはしかし、掌を下ろさない。


ジンは興奮していた。

イメージを修正した魔法の威力は凄まじいものだった。間違いなくジンは力を手にいれた。


その歓喜がジンの体に気力を漲せていた。


「俺の糧になってもらうぞ」

二度の魔法でコツを掴んだジンは再度炎の槍を出現させようと魔力を練る。


「かはっ……」

魔力を失い地に膝を着けたジンはギリギリで炎槍を出現させる事に成功する。


「これで……終わりだ」

「ギィィッ!」

ゴブリンが目を見開いた瞬間に槍はその胸を貫通する。憎しみを籠めた視線を寄越したゴブリンは瞳を閉じる事なく後ろに倒れる。


「ふぅ、終わった」

ピクリとも動かなくなったモンスターを確認したジンは前のめりに倒れる。


魔力を失いすぎて体が限界を迎えていた。


「まだまだだったな」

今回一歩間違えれば敗れていたのはジンの方だった。クラスメイトが雑魚といったゴブリン相手にだ。

もっと強くならなければと覚悟を改める。



「まぁ、でも、これで依頼は達成か」

初依頼を達成できたのは素直に嬉しい。


「エルのおかげか」

魔法は二匹分で限界だった最初の足止めが無ければジンは勝てなかった。

そこまで思ったときジンはエルが静かなことに気づく。


「エル……」

エルの姿を見たジンはエルが震えているのを発見する。


「……うぅ、えっぐ」

震えているエルは涙を流していた。


「な、なんで?」

馬車の時も含めショウジョガ泣いたときの対処法を知らないジンはどうすればいいかわからない。


「……ジン、ごめんなさい」

「何で謝る」

「……エルが、ゴブリン、たおさなかったから、ジン、あぶなかった」

その通りだ。効率的に考えればエルがゴブリンを全滅させるのがてっとりばやかった。


「……でも、エル、ころせない」

「そうだな」

「……エル、だいじなひと、ころした。もう、ころせない」

「そうか……」

どういう経緯でそうなったかはジンは知る由もない。分かるのは自分とエルは相容れないということだけだ。


「……でも、ジンの、いうとおり、エル、もりで、みんな、みごろしにした。ルイーゼ、リアス、ニア、みんなやさしかったのに、ちをみて、こわくて、エル、みごろしにした!」

エルは初めて耳を塞ぎたくなるような大きな声を出す。

エルの叫びからは後悔の念を強く感じる。


「……だから、エル、ジンとあったとき、つぎはがんばるって、でも、けっきょく、エル、ころせなくて、だから」

――だから、死にそうなジンを庇った。


先を考えれば結局ジンは殺される。

それを分かっていながらも自身はトラウマによって殺す事ができない。

だから、衝動的にジンの身代わりになった。

エルが言ったのはそう言う事だった。


「……でも、ジンのいうとおり、エル、けっきょく、みんなを、ころしていた、エル、ジンも、ころすとこだった」

手を下さずにも見殺しにしてしまったとエルは悲痛に訴える。


「それじゃあどうする」

実の所、エルの悲鳴に対してジンは何の感慨も抱かなかった。

行きなり身の上話を聞かされても同情するしか選択肢はないがジンは自分が同情なんてする余裕が無いことを理解している。だから僅かにも心を揺らさない。

だが、悲痛の訴えの先にエルがどう決断したのかは興味があった。


「……エル、ころすのも、みごろしにするのも、や、だから、つよくなる、いちばんつよくなる」

殺したくないから殺さなくても済むように自分が最強になる。

エルが下した決断は最も単純で困難なものだった。


「馬鹿だな。そんなの無理に決まっている……けど、人の事言えないな」

生き抜くために力を求めた自分も結局最強になりたいのだから。


「エル、お前が不殺を貫くならそうすればいい」

「……ジン」

「だけど、俺は進むぞ」

「……ん、わかってる」

「ならいい。朝まで待ってから帰ろう」

「……ん! かえる!」

「……じゃあ、早速俺を抱えてくれ」

エルは慌ててジンを起き上がらせて体を支える。

日が昇り始めた頃、体を支えてもらったジンは静かな足取りで農場を後にする。



帰路の中、目的ができたためか覚悟を決めたエルの横顔を見てジンは小さく笑う。


――――これでいい。今のエルとなら俺は進める。


力を求めるならお互いに切磋琢磨していけるしカバーもできる。

殺せない事もジンがその役目を負えばいい。

そう考えればハンデはあるもののエルがいれば戦力的にも格段に上がるわけだしメリットは大きい。


ふとそこで、当たり前のようにエルがいる事を正当化しようとしている自分がいることにジンは気づく。


――ああ、そうか。


そこで、ジンは先程自分が何故胸に抱いていたことを打ち明けたのかを理解した。


――――俺はエルに死んでほしくないんだな。

自分を助けて力をくれたエル。

そのエルが生に執着せずに命を捨てるような行動をとった事が無力感と共に深く心に残っていた。

それなのに呑気にずっと一緒にいると言った事が許せなかった。


なんて事はない。誰もが持っている感情である。恩人に対しての心配と自分を無下にしたことを反省していないことに怒りを覚えた、ただそれだけの事だった。


肉体が変質し、心まで変化してしまったと思っていた。

それなのに当たり前の感情を抱いていた自分にジンは何故か嬉しかった。




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