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異世界転移(最強を目指す者語り)  作者: 出戻りわたあめ
一章 異世界転移編
10/30

ギルド

テンプレなるか……



「冒険者ギルドか。小さいな」

建物を見上げてジンは呟く。


釈放されたジンは押収されていた槍を受け取り村の中を歩き回った。

もくてきちもなく目的地もなくめぐりながら巡りながら村の中を観察して分かったのはクロム村はそこそこ賑わっているという事だった。


先ず宿屋がジンが見つけた限りでも四軒程あった。

それだけ需要があるということだ。


次に露店商がそこかしこに居座りお客の対応に追われている。


賑わいに驚きつつもジンは納得していた。

近くにダンジョン都市があるということはその近くに陣取るミクロ村は行き帰りに一休みするのに適している。奥には聳え立つ山もあるし需要は計り知れない。


ダンジョン都市の恩恵を受けながらもしかし、村らしい一面も持っている。

それが、住民の住み家が一階建ての平家と小さいのだ。

当初想像していた村の側面を見て僅かに綻んでいるところを見つけたのが異世界物のTHE、テンプレである冒険者ギルドだった。

建物は三階建てと周りからは際立って大きいが面積が狭く小ぢんまりとした印象をジンは受けた。


「でも、やっぱりあるんだな冒険者ギルド」

異世界、モンスターとくれば冒険者ギルドがあるのは必然だとは考えていたジンだが異世界物を嗜む者の端くれとしてはやはり嬉しいものがある。


「……ジン、はいる?」

「そうだな入るか……でも、その前に手、離そうぜ」

現在ジンのもう片方の手はエルによって塞がれていた。

というのも三日の間離れていたのが堪えたのかエルはいっこうに離してはくれなかった。


「……や」

「嫌って、これじゃあ扉を開けられないし飯もくえないんだが」

にべもなく断られたジンはエルの説得を試みつつも面倒な事になったと頭を痛めていた。


――――ここまで懐つかれるとは想定外だ。


「大丈夫だ。ちゃんと側にいるから」

「……ん」

やっとの事で頷いてくれたエルは手を離す。

離れた手を見て今一度面倒くさいと溜め息を吐いてジンはギルドの扉を開く。


扉を開けた先は一見酒場のようだった。


――――いや、本当に酒場なのか。


よく見るとギルド内の冒険者らしき男達は酒を呷りながら談笑している。

ギルドと酒場とを併設させているのだろうとジンはあたりをつける。


酒に夢中の男達は一々入室してきた者達を確認するような事はしなかった。


いきなり絡まれるのがテンプレだが今回は外れてくれたのはありがたいことだった。


物語の主人公ではないジンではモンスターを狩り己を鍛えている冒険者に勝てるはずがないからだ。


用件をとっとと済ませようとジンは受付へと向かう。


「此方クロム村冒険者ギルド受付です。どのようなご用向きでございますか」

「加入したいと思っているんですがシステムが今一よく分からなくて」

物語の中でのギルドとこの冒険者ギルドが同じシステムのもとで運営されているかは分からない。


「はい、ではご説明しますね。冒険者ギルドの仕事は色々な被害に困っている方達を依頼という名目で冒険者様に紹介する事にあります。依頼は多岐に渡り御座いますので色々試してみるのをお勧めします。しかし、注意点がお一つ、依頼は難易度によってランク付けされており基本的には冒険者様のランクと同様とランクの依頼しか受けられません」

「基本的には?」

受付嬢の含みの言い方に疑問を抱く。


「はい。同ランクの冒険者が三名いる場合は一つ上のランクを受けることが認められています」

「成る程」

仮にランクが上がるほど数が少なくなると考えたら依頼を捌ききれなくなる恐れがある。

依頼を安全によりよく受ける措置としては申し分はいように思える。



「しかしまぁ、そんな事だろうと思ってたけど本当にそっくりだな」

この世界はジンがよく読む小説の異世界と酷似している。ギルドがあったこともシステムが酷似している事も不思議ではなかった。


「どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもありません。それよりもさっそく加入したいと思うんですがいいですか?」

「ええ! 勿論歓迎します!」

気が変わらない内に済ませようと受付嬢はデスクの影から用紙を取り出す。


「此方にお名前、年齢をお書きになった上で提出してください」


随分と簡単に加入できるとジンは思っていた。

しかし、考えてみれば地球で数十年前まではその点では杜撰だった事からおかしくはないのかもしれないと思い直す。


「どうかなさいましたか?」

ペンを受け取ったジンが動きを止めたのを見た受付嬢が声をかける。


「いや、その実は文字を書けなくて」

間抜けな事に今更ながらにこの世界の文字を知らない事にジンは気づいた。


――――言葉が通じるから失念していた。


よくよく考えると明らかに日本とは違う文化のこの世界で言語が通じるのも変なのだがいつの間にかにそういうものだと受け入れていた。


「それなら大丈夫ですよ此方で代筆致しますから」

このままではギルドに加入できないとの懸念は受付嬢によってあっけなく解消された。


受付嬢の反応からジンはこの世界では教育水準が随分と低い事を察する。


「お願いします。名前はジン、年齢は16です」

受付嬢に代筆を頼んだジンはそれとなく視線を巡られる。


ギルドの内装は掃除がいき届いているためか汚いという感じではない。その職員の努力を無にするように冒険者がテーブルに酒やつまみの食べかすを散乱させているが日夜死闘を繰り広げてると思えばご愛嬌というものだろう。


その冒険者の男女比率を見てみると圧倒的に男の方が多い。パット見た限り一割程しかいない。

これに関してジンは意外な事だと驚いていた。

この世界はスキルや魔法という男女の垣根を越えた超常の力がある。

少なくともクラスメイトたちの間では男女の間に差はなかった。


――――これは、あいつらを基準にしない方がいいな。


結局の所、ジン等はこの世界に迷い混んだ異質なものでしかないのだ。基準にするなら現地の者だと考えを改める。


「あの――終わりましたよ」

「あっ、はい」

周りを観察している間に書き終えた書類を確認するために受付嬢から手渡される。


「……問題ないですね」

書類にはジンが知らぬ一見絵柄のような文字が刻まれている。読める訳がないのだがジンは適当に頷いておいた。


「はい。では此方をどうぞ」

「ありがとうございます」

ジンは受付嬢からカードの様なものを渡される。

そこには先程と同様に見知らぬ文字で名前らしきものが記されている。


「ジンさんはEランクとなります。これは直ぐにあげることが可能ですが、ランクをあげることは命の危険が高まるということは常々肝に命じておいてくださいね」

「何から何までありがとうございます」

受付嬢として言うべき事ではない発言をしてくれた受付の少女に感謝の意を込めてお辞儀する。


「……ん、これ」

「エル、お前も書いたのか?」

横を見るとこれまで静かにしていたエルが受付嬢に紙を提出していた。


――――文字、書けるんだな。

奴隷になってからかその前に覚えたのかジンには知るよしもないがエルにはある程度の教養があるようだ。


「……いっしょ」

エルはカードを見せてくる。

その時の表情は何故かどや顔だった。






場所は変わってクロム村を出たジンとエルは大きな畑へと来ていた。


「ここにゴブリンが現れたんだな」

「へい、今朝見たらこの有り様で」

村人の男に連れられた一区画の穀物は荒らされていた。


「確認したらゴブリンの足跡がありやしたのでギルドにたのんだんでさあ」

「なるほど」

村にギルドを構えると村人達の要望を基本的にギルドは叶える方針をとっている。


その内容は大概ゴブリン等の弱いモンスター被害であるためギルドは低ランク冒険者の訓練も兼ねて依頼として発行している。


ジンはその依頼を受けてこうして畑に訪れていた。


「分かりました。本日はここで見張りゴブリンを討伐しましょう」

「助かります。かあちゃんに言って飯もってくるんで食べていってくやさい」

「有り難く頂戴します!」

「……ん かんしゃ!」

ジンとエルは村人のおじさんが引くような勢いで食いつく。


というのも、ジンとエルが早急に依頼を受けたのには理由がある。

異世界に来たジンと奴隷だったエルには生活する上で必要になるお金が一銭もないのだ。


捉えられている時には出されていた3食のご飯も途絶えた今、食いっぱぐれしない程度には稼がなければならなかった。


「へ、へい。直ぐに用意いたしやす」

ジンとエルの勢いに圧倒された男は逃げるようにその場を立ち去った。




「……ん、おいしかった」

「だな」

日も暮れた頃、男の奥さんが作った野草たっぷりの雑炊で体を温めたジンはエルを伴い畑に座っていた。

一応体を冷やさないための布切れ一枚を羽織っているが効果のほどは少しも感じられない。



暖をとるための火は点さない。

警戒してゴブリンが現れないのを考慮して――――というわけではない。

寧ろその反対、人等を恐れないモンスターであるゴブリンの数が一匹ではない事を考慮しての事だ。


ジンが今回の依頼を選んだのには食い扶持を得るという他にもスキルによって強化された自分の力量を計るという目的もあった。


自分が強化されたのを自覚しているからとはいって多数のモンスターに勝てるとはジンは思えなかった。


或いはエルなら多数相手でも問題ないだろうが一度に捌ききれない数のモンスターがいた場合間違いなくジンは殺される。


それを回避するためにゴブリンに発見されずなおかつゴブリンの数を把握するためにジンは火をつけず闇に溶け込むようにしていた。


「エル、どうだ。【見えるか?】」

「……ん、まだ」

今回のジンの作戦を達成するには一つの条件があった。その条件、即ち闇の中でもモンスターを捉えることができる目が必要だった。


その条件を請け負ったのがエルだ。

エルは闇の中でも真昼とは云わなくても朝のうっすらと霧がかかったくらいには見ることができると発覚した。



強化されていても現代の日本で過ごしていたジンでは黒い影がある程度にしか認識できないことを思えば凄いことだ。


「エル」

「……ん」

「いや、なんでもない」

闇の中で数時間も動かずにいたからか放心していたジンは思わず――――何で奴隷になったんだ?

と言おうとしてしまったのを堪える。


踏み込むつもりはないとはいえ好奇心があったのは否定できないが少なくとも今いうことではない。


「……ん」

「ああ……」

それから二人は無言になる。


「何だって?」

更にどれ位の時が経ったのだろうか曖昧になった頃、エルが口火をきった。


「……ジン、ふくしゅう、する?」

「何でそんな……ああ、あの時か」

ジンはクラスメイトの影を掴んだ事はエルには言っていない。しかし、ジンの笑みと言葉からエルはジンが裏切った者を見つけたのだと確信していた。


「……ジン、みつけたら、ふくしゅう、する?」

エルの言葉を聞いたジンはニヤリと口角を吊り上げて笑う。


「ああ、勿論。殺してやる――とは今のところ考えてはいないよ」

浮かべていた笑顔をジンは沈める。


「エルとはこの先しばらくはいるだろうから言っておくが俺は今回の件で復讐なんて露程も考えちゃいない」

「……ちがう」

「違う? 何故そんな事エルが言える」

ジンは確かに現時点では復讐の事なんて、ましてや殺そうなんて考えてははいない。

そうにも関わらず違うと断言するエルにジンは興味を示す。


「……しばらく、ちがう、ずっと」

「は?」

「……ずっと、いっしょ、しばらく、ちがう」

ここにきてエルの言いたいことを理解する。

エルが否定したのはジンの考えなどではなく。

しばらくはいるという発言の部分だったと。


「はは。お前、ばかだな」

突っ込む箇所にも本気でこの先ずっと一緒だと考えていることにも思わずジンは笑ってしまった。



――――なんて、なんて幸せで阿保な奴なんだ。

可笑しくて可笑しくて、ジンはずっと胸に抱いていた想いを口にした。


「そんなお前にも分かるように俺も断言してやるよ。俺とお前はずっと一緒には居れない」

「……っ、なんで」

「理由は色々あるだろうさ。例えばエル、俺かお前が死ぬからだ。ああ、勿論寿命等ではないぞ」

「……っ」

ジンの話にエルは驚愕している。

ジンからしたら何故驚いているだと不思議だった。


「当たり前だろう。エルに何があったかは聞かないがお前は死ぬのを見たくないんだろう? なら、モンスターも倒せない。それではこの世界で生き抜く事ができるはずがない」

「……で、でも、エル、いきてる」

「それは、奴隷だったからだろ。籠に閉じ込められて人の死を見ず、手にかけることもなかった」

皮肉な事に自由を奪われていたことで死を見ずに済んだのだ。


「だけど、お前は解放された。そして、残念なことに俺では死を見せないであげることができない」

「……ころさないで」

「ああ、殺さないでおくことも可能だろう。だが、相手が強かったらどうする。手心なんて加えてみろ油断したところを殺されるぞ。いや、もしかしたら、その前に俺が殺される事になるかもしれない……どうする? 俺が死んでしまったぞ」


「……でも」

エルは狼狽えながらも何か口にしようとする。

しかし、ジンはそれを許さない。


「でもなんだ? 俺が言ったことは間違ってるか。いや、あの森では現実にそうなるところだったはずだぞ。それにあの時モンスターが死んでなかったら俺が殺されていた。まぁ、結局何かが死んだことにかわりない。いいか、戦闘を行えば生き物は死ぬんだよ」


此方を殺そうとしてくるモンスターを撃退するには此方が先に殺すしかない、当たり前の事だ。


「……でも、エル、あきらめたくない」

「ははは、本当にめでたいな。あきらめたくない? 何を言っているんだ。お前は既にそんな事言えないだろ――――だって、馬車が襲われたとき一人隠れていた臆病者なんだから」

その言葉にエルは押し黙り体を震えさせる。


この矛盾にジンは閉じ込められた三日の間、エルを思うときに気づいた。


この矛盾に気づいた時は嬉しかったものだ。

やはり人は何かを生け贄に自分は生き抜こうとするとしれたのだから。


エルは俯き言葉を発せないでいる。

心が折れたのか反論が浮かんでこないのか分からないがそれで構わなかった。


――――これで、こいつとはお別れだな。でも、仕方ないか。


力を渇望し生き抜く事に執着するジンと他者の死を見たくないが為に自らの命を差し出したエルでは遅かれ早かれ破綻するのは目に見えていた。


ジンは今までその事を知りながら口にしなかった。ジンにとってはエルという存在は面倒ではありつつも実害はなかったからだ。


だけどジンはこのままの二人に将来が無いことを口にした。


その理由をジンは自覚していない。

理由は分からないがこのまま一緒にいると何か後悔するような気がしていた。


俯き言葉を発っせずにいるエルと自分自身の心中が分からず僅かに戸惑っているジン。


そんな二人をよそに闇夜の依頼は続いていく。































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