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コーヒー砂糖ミルクあり  作者: 長谷川真美
13/15

【時の光跡】

 壁一面の本棚に圧倒される。麻生(あそう)教授夫妻の自宅の書斎の本棚は和洋を問わず古典から近代文学まで揃っている。文学だけではなく、歴史書、美術書、哲学書などで埋め尽くされている。本の特有の匂いが部屋を支配する。 


 一面の本に囲まれる様になったのは麻生教授の一言によるものだ。「椎名(しいな)、研究を進める上で言葉だけではなくて文化などのバッググラウンドが異なる人達とも接する事があるから、人文科学の授業も受けたらどうだ?」48歳にして教授の任に付いた麻生教授ならではのアドバイスを受け、後期のシラバスを見た。何がなんだか分からない。暗号にしか見えない。


 途方に暮れていると教授の奥さんの(ひかり)さんに教授夫妻の家に招待された。光さんから真新しい日本史と世界史の入門書を渡される。「昔の教科書があるから大丈夫です。」と本を渡されて申し訳なくて断る。「歴史の解釈は研究の進展によって変わっていくの。この本は私が大学や市民講座で文学や西洋史、美術史の講師をした時に頂いたお金で買ったから大丈夫。」そう光さんは話し、眼鏡をかけ本棚の本について愛おしそうに説明していく。


 「知世(ともよ)ちゃん、気になる本はある?」そう言われて、私は一冊の美術書を本棚から取り出す。タッシェンのモネの図録。油絵で書かれた睡蓮に惹かれた。光さんに促され、世界史の本を開く。美術書の解説文を歴史書を紐解きながら光さんが解説をしていく。分からない文字の羅列が意味のある言葉になっていく。世界が広がる。楽しくて自宅までの長い電車の中でいつもの研究関係の専門書ではなく、歴史書を読みふける。歴史がアニメや漫画の背景にも繋がっていることが分かり、本を読む手が止まらない。私の好きな作品は聖書を背景とした作品が多かったので聖書の入門書を購入する事にした。生協で新約聖書と旧約聖書の違いが分からず慌てふためいていたら大森君に見つかった。研究室で生協で買ったジュースを飲みながらレクチャーを受ける。「椎名さんが好きな漫画やアニメは旧約聖書からの引用が多いから旧約聖書からで大丈夫。俺も聖書の解説書難民をしたから気持ちは良く分かるよ。俺のお古で良ければ貸すよ。」やはり持つべきは同士だ。


 後期に受けたい授業が決まった。文学部の『比較文化論』と『西洋美術史概論』。恐る恐る麻生教授に打診する。「了解。担当の先生に頼んで優先的に入れさせてもらう。担当は結構ハードな先生だぞ。まぁ、椎名なら大丈夫だな。」あっさりと許可が降りた。大森君も同じコマの文学部の授業を受けるようになった。『漢詩特論』と『東洋史概説』三国志と水滸伝が愛読書の大森君らしいチョイスだ。余りにも趣味に走ったセレクトは麻生教授には特例にされたらしい。


 自宅で悠人(ゆうと)Skype(スカイプ)で会話をする。思わず西洋絵画と西洋史について熱く語ってしまう。悠人のどこか楽しげ声を聴く。「花火の前に日程が合えば上野に行こうか?モネが好きなら国立西洋美術館がオススメだよ。東京国立博物館も捨てがたい。国立科学博物館は理系なら絶対楽しめる。大学の友達に特別展の情報を聞いておくよ。特別展の会期終了間近は混むからね。知世さんと二人で行きたいな。」悠人が饒舌(じょうぜつ)になる。悠人の博学多識振りに驚かされる。また、悠人が高専在学中よりも大学進学後の方が笑顔が増え、雰囲気も和らいだ理由が何となく分かった。悠人は高専在学中、特に研究室では必要最低限のコミュニケーションしか取っていなかった。悠人が大学で共通の話題を持つ友人に出会えた事が私も我が事のように嬉しい。スケジュール帳を広げながら話していく。


 8月の上旬に上野の噴水前で待ち合わせた。悠人の指示でパンプスではなくスニーカーを履いてきた。理由はパンプスだとヒールが無くても室内では足音が響くからだ。悠人のエスコートで上野を散策する。迷路を悠人は慣れた足取りで迷うことなく進んでいく。美術館では驚きの連続だった。本ではわからなかった描写の細かさや筆のタッチに唖然とする。悠人は近くで見て、次に遠くから眺める事を繰り返していた。ミュージアムショップでさっきまで見ていた絵でお気に入りになった絵のクリアファイルが売られていた。実用品だからと言い訳をして思わず買ってしまった。悠人は分厚い図録を見ていた。何回も開いては閉じてを繰り返していた。しばらく悩んで何度も財布の中を確認して最終的には意を決して図録を抱えレジに向かった。


 上野恩賜公園の洋食屋でランチを摂る。看板メニューのオムライスとハンバーグを頼む。悠人が買った図録を広げる。上質な紙と印刷でさっきまで見ていた絵画が再現されていた。二人で絵画を指差しをしながら語り合う。絵画は時を経てもなお人の心を動かす。それは長いときの間インフラとして人々の生活を支える土木工学と似ている。私達は時の光跡を残していく。FIN.


連日の投稿です。


麻生教授と光さん夫婦は別の作品で書いていきたいほどお気に入りです。二人の馴れ初めは頭の中にあるのであとは書くだけです。


大森君は三国志と水滸伝はゲームから入りました。知世さんもゲーマーなので話があっています。今回の話では知世さんは歴史と戦っています。基本ヲタ体質なので歴女になりそうです。


あまりの蒸し暑さについにクーラーを解禁しました。しかし、扇風機には敵いません。


BGM:DEPAPEPE


2017/7/1

雨上がりの蒸し暑い午後


長谷川真美

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