幕間-光指す海-
青く光指す広大な海原。
その海原をあなたとなら泳いでいける。
本棚の一番上の段の本を取るのに限界まで背伸びをする。手足が震える。見かねて代わりに本を取り出すのを手伝う。「ありがとうございます。」そっと耳元で囁かれる。毎週同じ時間に大学図書館のいつもの棚で会う女性。後に私の妻になる女性-竹花光-との最初の出会いは大学の図書館だった。お互い名前は知らなかったが会う回数を重ねる度に会釈をするようになった。彼女はいつも図書館の貸出冊数の上限まで借りていく。借りた本を愛おしそうに抱える。本にとっても彼女のような読み手は嬉しいだろう。
図書館への道で光が友達と二人で話していた。光は手話とキュードスピーチで話をしていた。友達は口を大きく空けて読話と手話、キュードスピーチを交えて話をしていた。二人はダンスの様に軽やかに会話を続けていった。図書館では話し声は厳禁だったので彼女の聴覚障がいは気が付かなかった。光が私を見つけて笑顔を見せる。私も思わず笑顔になる。
図書館で光と光のノートテイカーの一人の藤代望に手伝ってもらって手話の本を数冊借りて膨大な量の手話から必要最低限の手話を絞り込んでもらう。また同時に藤代からキュードスピーチの方法も習う。光とコミュニケーションを取るのに必要なスキルの取得は年単位かかった。しかし、苦ではなく楽しかった。同じ本が好きな、時には本の貸出でライバルとなる光と片言の手話とキュードスピーチを交えながら話すのが楽しかった。
静寂が支配する図書館-本の海-で出会った光は自由に永遠に泳いでいた。光さす海。彼女といつまでも泳いで行きたかった。
プロポーズの時に光に時計をプレゼントをした。いつまでも一緒の時間を歩んでいきたい。光は結婚してから10年経つ今でも時計を大切にしている。
私の病気が原因で子供には恵まれなかった。その代わりに光は私の研究室生に愛情を注いでいった。光は藤代と組んで大学や市民講座で歴史や文学、美術史を教えている。いつも光の世界は明るく照らされている。-光あれ-
FIN.
麻生教授と光さんの物語です。
手話は私も勉強していますがなかなか覚えられません。仕事でビジネス手話集を作っていきます。
夏の訪れを感じる土曜日の朝
BGM:G線上のアリア
2017/7/8
長谷川真美




