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銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
エピローグ
49/51

二、姫騎士の活躍

日にちはまたいでしまいましたが、少しでも早くお届けできますように!

「亡霊が天に召された」

 えっと、なんですかその発表……

 会場中の心境はまさに一致していたと思う。誰もが首を傾げているけれど、正面切って馬鹿馬鹿しいと一蹴できないのが王の発言という重みの厄介さ。

 しかもその立役者というのが、この私であると宣言されてしまった。

 要約すると、銀の姫騎士の加護のもと亡霊は成仏しました! ということだ。この発表により今後亡霊の名を語る者はすべて偽物ということになる。犯罪抑止効果を期待出来るのはいいことだけど……銀の姫騎士って、それってもしかしなくても私のことですよね?

 女神の再誕、地上に舞い降りた女神などと私の噂は尾ひれを増していく。こうして銀の姫騎士の名は知れ渡り、エルゼさんと並び英雄扱いである。さすが女神の加護を受けた少女だと注目の的になっていた。


 あれ、私の平穏は?


 ――という経緯を得て、あらゆる方面からダンスを申し込まれ続ければさすがに疲れもする。疲労と我慢が限界に達し、バルコニーでの休憩という名目で逃亡を図ったところだ。

「はあ」

 生誕祭に溜息とか、重い。

「疲れた?」

 何となくいるような気がしていたなんて毒されてきた証拠かも。濃い十九日間だったから。

「さすがに少しは。ただ私は……」

 ちらりと様子を窺うとカノエさんも正装に身を包んでいた。黒いタキシードに胸元には花のコサージュを付けている。会場に潜りこんでいたのかな?

 けれどあくまでいつものカノエさん――ううん、正確にはいつも通りじゃなくて。正装には笑顔を添えてくれる。物陰から拝見するじゃなくて、私に向けられたものだということが何より嬉しい。

「ただ?」

「ここ、剣の持ち込み禁止なんですよ!」

 私にとっては切実な、けれどカノエさんにとっては予想外だったのか呆れていた。

「いや、さすがに、その恰好で帯剣はないでしょ。背中にでも背負うつもり?」

「それもいいですね。最近はずっと色々隠し持っていたので、逆にあの重みがないと落ち着かないんですよ」

 さすがに私だって女性の発言にしては残念だと思うけど、女らしさはどこかに置き忘れてしまった。

「これで元お姫様なんて、僕じゃなかったら信じてないよ」

「そうですね」

 くすりと笑いが零れる。

 カノエさんは背後から隣へと移動を始めた。そこに居座るつもりだろうか。

「今日は生誕祭ですね」

「そうだね」

 ごく当たり前の事実、ただの世間話だ。カノエさんも当然のように返してくれるけれど、もうそれだけの日ではないことを彼も知っている。私にとっては遠い未来のことで、カノエさんも全部知ってしまったからこそ、しっかり肯定してくれるんだと思う。

 ……もう誤魔化しじゃなくて、本当の理由を話してしまおう。もちろん剣の件も本気だけど。

「本当に今日の先も明日が続いているのか、少し不安になっていたんです。みんながリユと、私の名前を呼んでくれるから……まるで、夢みたいで」

 夢の続きか、それともこれこそが夢なのか。随分臆病になってしまったみたい。

「そんなに不安なら僕が朝まで傍にいてあげようか?」

 なんて贅沢で怖ろしい提案でしょうね。でも約束を破ってしまったのは私の方。

「約束、守れなくてごめんなさい。せっかく誘ってくださったのに、こんなことになってしまって……」

 とてもじゃないけれどカノエさんと過ごせる雰囲気ではなくなってしまった。「ではまず言いたいことをお願いします。その上で当日カノエさんが約束を忘れていなければご一緒させてください」とか上から目線で啖呵切ったくせにこの始末って! カノエさんはちゃんと憶えていてくれたのにくれたのに!

「いいんだ。別に今年とは言わなかったし、また来年があるよね」

 それって……?

 責めるでもなく、非難もせずに次があると許されてしまった。期待しても良いんですか、また来年も傍にいてくれるんですか?

「カノエさんは、これから……どうされるんですか? 以前、あなたは国を出ていくとおっしゃいました。今でもその気持ちは残っていますか?」

 ここで別れてしまったら、次はどこで会えますか? 訊いてしまうのは怖いけれど、言葉にしなければいけないこともある。

「カノエさん。カノエさんは――」

「リユ・クローディア、そこにいるのか?」

 なんてタイミングでいらっしゃる! 主役の不在に痺れを切らした陛下が登場されるとは思いませんでしたよ。

 カノエさんは私が陛下を招いているうちにまたしても姿を眩ませてしまう。この繰り返しか……

 ――って、落胆するのもおそれ多いことだ。公務でお忙しいところ、親子の時間を作ろうとしてくれたんだから。陛下は私の姿を見つけると懐かしそうに目を細めるものだから、涙が込み上げそうになる。

「まるで昔の彼女を見ているようだ。よく似ているよ」

 誰がとは言わないけれど、こんなことを言われてしまったら不満は抱けない。お母さまが存在していた証は私の内にもあることが嬉しかった。私が着ているのはお母さまのドレスなのだから。


 翌日、始まりはいつでも晴天だ。雨なんて締まらないものね!

 生誕祭当日はエルゼさんの代理で出席するという大役のため仕事を免除されていたけれど、今日からはまたヴィスティア騎士団のリユに戻る。

 でも一つ悩みがあるんです。あ、聞いてくれますか? そうですか……


 とてもじゃないけど退職を切り出せる雰囲気じゃないっ!


 ほら私、生誕祭後は普通に村娘になろうと思っていたんです。ところがですね、いつか亡霊確保と夢見ていた新聞の見出しが『誕生! 銀の姫騎士』『帰還! 伝説の騎士』で持ちきりなんです。『光輝く銀の剣を振りかざし、彼女は勇敢に戦った』と国王陛下のインタビューまで載っているんです。たしかに光輝く剣を振るいはしましたけど……


 さらに言い出しにくい展開は続いた。

 私は特等席から見下ろす光景に圧倒されていいるところだ。特等席というのは本部の最上階に位置している団長の執務室。

「みんな君に憧れたんだって」

 団長が促す「みんな」とは、本部の前に集う入団希望者たちのことだ。

「エルゼも帰ってきたし、いよいよ騎士団の再出発だね」

 その中にはジゼさんの姿もある。私に気付くと軽く手を振ってくれた。

「あれ、リユ君ジゼと知りあいなの?」

「以前少し――って団長、彼の名前を知ってるんですか?」

「え、うん、もちろん。一緒に働いていた仲間だからね。憶えてるけど、それがどうかしたの?」

「やっぱり団長は偉大だなーと実感しただけです」

 というか、もう一つ触れずにはいられないことがあるんですが。

「あの……あそこの彼って、王立騎士団に所属していたオニキス・クランベルさんでは……」

 集団から少し離れるようにして腕を組んでいる赤髪の騎士は否応にも目立つ。表情こそ不機嫌ではあるけれど、ここにいるということはまさか……

「うん。前職は王立騎士団だって話してたかな」

「うちに!?」

 来ちゃったんですかオニキスさん!? 

 どうして団長はそんなにあっけらかんと話せるんですか! 一応、王立騎士団あちらも出世コースなわけで、それを蹴ってまでうちに来たんですよ!

「なんか、入団を進められたから、とか言ってたけど」

 はい私の責任ですね! そんな気はしていました……つんけんしているけれど根は素直な人ですね、本当に。

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