三、騎士は集う
オニキスさんを巻き込んだ私が早々に辞めるとか、ますます言い出せる雰囲気じゃない……
私が悩んでいるうちに外では一区切りついたことを察したのか扉が叩かれる。
もしかしたら入団式の打ち合わせがあるのかも。私が入団した時とは比べ物にならない規模で式が行われるらしいですよ!
「うん、まずは彼のことを紹介しておかないとね。いいよー、入っておいでー」
団長は扉の向こうにいる相手について予想がついているみたい。訪問の約束でもあったのか、あるいは打ち合わせの可能性が高い。それなら私はお暇を――
「やあ」
「カノエさん?」
もしかして、荷物を届ける引き継ぎ? ヴィスティア騎士団が嫌煙される理由はなくなり、カノエさんが騎士団に接触を図る必要もなくなった。本格的にお別れが近いのかも……それにしたって改めてカノエさんを紹介される必要はないと思う。
「僕、騎士になろうと思うんだ。これからよろしく、先輩」
「これはどういうことです!? 僕は認めていませんが!」
私が驚くよりも口を挟むよりも早く、急いで追いついたといわんばかりのフェリスさんが背後からなだれ込む。それを止めようと追いかけてきたのかアイズさんまで乱入騒ぎ。
「コホン。君たち、こちら――国王陛下直々の推薦を受けて入団したカノエ君だよ」
なんという言葉の重み。私たちは一堂唖然とするしかない。
「国王陛下直々!? どういうことですか団長!」
立ち直ったフェリスさんの剣幕に拍車がかかる。私もぜひ詳しく伺いたい。陛下の推薦状なんて、たとえ試験に落ちても合格ものだ。カノエさんの実力なら余裕でしょうけどね。
「細かいことは気にせずに。よろしくお願いしますよ、ねえ先輩方」
そんなに先輩を強調しなくても……しかも笑顔! カノエさんが先輩って言うと嫌味っぽくないですか? 決して悪い意味ではないんですけど、多分わかってやっていますよね? フェリスさんもそのつもりで捉えていることでしょう、顔が怖いので。
「ああ、よろしく頼むぜカノエ! 君が入団してくれるとは心強い」
アイズさんの婚約者であるリージェンなんて王女は初めから存在していない。二人の間にわだかまりは存在せず、爽やかに握手を交わしている。二人を見習ってくださいフェリスさん! 私を睨むのはお門違いです、大人しくアイズさんを見習って交流を深めてください。
「ねえねえ、リユ君。あれって本当にカノエ君?」
団長が内緒話のように囁いた。視線の先では先輩と後輩がじゃれ合っている。
「なんだか顔つきが変わったなーって。というか眼帯どうしちゃったの!?」
「そういえば……」
眼帯キャラはどこへ?
「訊いても教えてくれなかったんだけどさー」
既に訊いた後なんですね。私も気になるけれど素直に教えてもらえるとは思えない。
そんな疑問はあわや乱闘騒ぎに発展しかけたことでかき消されていた。
「僕は認めませんよ!」
「リユちゃんさえ認めてくれれば構いませんから」
「まあ落ち着けって」
アイズさんがフェリスさんを宥めてくれている。そのうちに私はカノエさんをひっぱり小声で問い質した。
「あの、本当に何をしたんですか?」
「何って……君を守るために入団したいと話したら陛下が推薦状を書いてくださっただけだよ。だから僕はここにいる。君のことは一生守るからね」
私は慌てて耳を押さえていた。真っ赤になったところなんて見られたくない。
「なっ、なんだかプロポーズみたいですねー……」
「別にそうとってくれても構わないよ。お互い初めての相手だし丁度いいんじゃない」
私は笑って流そうとしたんですけど!
突如、肩を掴まれ私とカノエさんは引き離された。私の肩には手が乗っている程度だけど、カノエさんの肩には爪が喰いこむような鋭さがある。カノエさん、肩みしみししてません? それでも表情は涼しげなままとか、さすがの凄さです。
「おい、てめぇどこのもんだ?」
犯人は鬼の形相を携えたエルゼさんでした。
「うちの娘とどういう関係か吐いてもらおうか」
「関係、ですか? ……初めての相手、でしょうか」
臆することなく答えるカノエさん強い、強すぎる……そして私に意味深な視線を投げかけるのは止めてください。巻き込まないでください。エルゼさんが言葉にならない単語を発して青ざめているじゃないですか!
エルゼさんが想像しているような関係じゃありませんよ!? カノエさんの言う初めてって多分……初めて殺した相手と初めて殺された相手とかいう物騒極まりない関係ですよね?
「彼女を傷ものにしたのは僕です。責任を取るのは男として当然ですよね」
まあこの流れだとそうなりますよね。何も間違ってはいないんですけど……
この胸には、今も彼にもたらされた傷が残っている。あの出来事が嘘ではないと告げるように。そう、間違ってはいないのだ。だからこそ性質が悪い。
背後に回ったカノエさんは見せつけるように私の肩を抱く。頭が痛くなった。部屋の温度がぐっと下がったように思う。
「エルゼさん、誤解なんですよ。カノエさんもわざと紛らわしい言い回しは止めてください」
「何も間違っていないよね?」
「それは……」
どうしたものかと私は顔を引きつらせる。
刺したとか、刺されたとか、むし返せばややこしい。そもそも歴史は変わってしまったので、この場合どうなの? カノエさん罪を背負わせたくはないし、刺された本人がそれでいいならもう掘りおこす必要もないと思うし……でも厄介なことにこの二人は過去の事件を忘れていないわけで……頭が痛い。
剣の束に手を伸ばしたエルゼさんを拘束したのは団長だった。まるでそうなるタイミングがわかっていたように素早い。執務室で流血騒ぎを起こされてはたまらないだろう。
「てめぇこら、おい放せロクロア! 大事な娘に手ぇ出されて黙ってられるか! 沈める、いや刻む!」
お世辞にも丁寧とはいえぬ口調は、紛れもなく伝説の騎士のものだ。昔はやんちゃだったとかで時折素が垣間見える。それは取り繕うことのできない心からの叫びということ、つまり本気です。
「いや君、病み上がり!」
「るせぇ、だからなんだってんだ! こんなのちょっと傷作っただけだろ」
「ちょっとって、結構重症だったよね!?」
「んなことどうでもいいんだよ! 今すぐ仕留めてやる。くそ、俺が傍にいればこんなことには!」
「君、せっかく顔は美人なのに鬼みたいな形相――ちょ、だから落ち着いてってば!」
賑やかになった騎士団を前に喜びと気苦労がひしめき合っている。この一日で一気にメンバーが濃くなってしまった。
「ま、待って、いい加減、私を間に挟んで言い争うのは止めましょう! 二人とも仲間、同僚なんですから、仲良くしましょう! ね!?」
「無理だろ」
「嫌だね」
エルゼさん、カノエさん……お二人とも逆に息が合うのでは? あまりにもぴったり重なったので吹き出しそうでしたよ。団長も苦笑いされていますし。
とにかくカノエさんとは一度ゆっくり話す必要がある。できれば早急に。
「カノエさん。ちょっと来てください!」
一触即発の状態からカノエさんの腕を引っ張った。
「ああ、どうやら直々にご指名のようです。失礼しますね、育て親さん」
にこやかに手を振られ、またもエルゼさんの苛立ちは増量。何も見なかったことにして私は部屋の扉を閉めた。後に残してしまう人たちには申し訳ないことをしてしまったけれど……検討を祈ります。
「え、ちょ……だ、誰か! 縄持ってきてぇー!」
そう、私には何も聞こえない。本気でキレているエルゼを止めるのは至難の業だ。
ここまでお付き合いありがとうございました。
次で最終話の予定となります。ここまで読んで下さいました皆様、どうか最後までリユの物語を見届けていただけると有り難いです!




