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銀の姫騎士リテイク!  作者: 奏白いずも
カノエルート
40/51

十七、入団の勧め

お待たせしてしまった分、更新することでお返しできればと思います。

 私とカノエさんは無言で走り続けていた。

 先導するのはカノエさんで、ルートは王妃様にでも教わったのか、王家のトップシークレットにもかかわらず足取りには迷いがない。

 その背中は頼もしくて……

 こうして追いかけていると込み上がるのは切なさばかり。けれど余計なことを考えて判断を鈍らせている時じゃない。

「さて、どの道を選ぶ?」

 いくつかの分かれ道に立てば判断を仰がれた。選ぶ道によって出口が変わる。

「王妃様の所へ出るにはこっちですね。でもあそこも入口専門なので、手引きがないとこちら側からは出られません。なので邪魔が入らない出口を……こっちです!」

 それは王宮の地下へと続く道だ。


 地下の食糧庫から這い出た私たちが目指すのは王宮の庭園。最終決戦はいつもあそこだ。

 王妃様が大好きだった、私たちの思い出が詰まっていて、そして悲劇の起きた場所……呼び名を上げればきりがない。それくらい因縁のある場所ということだ。

 時が満ちるのを待つだけ、邪魔が入る予定もない。となれば王宮は静まり返っていた。ほとんどの人間は固まっているはず。つまり動いている人は王妃様に忠誠を誓ったということで……

「…………どうしよう」

 壁に身を隠し窺う。通路の先には美しい赤髪の騎士がいるのだ。すぐにでも走り抜けるべきなのに、私は立ち止まってしまった。

 彼は窓の外を眺めていた。その瞳には時が止まった世界が映っているはずだけれど、瞳に陰りがあるのは迷っているから?

 幸いにもこちらはまだ気付かれていない。相手も一人、どうとなり対処することは可能だと思うけれど……どうしても見過ごせそうにない。

「カノエさん、戦力を分析したいので正直に答えていただきたいのですが。あそこの彼、お一人で足止め可能ですか?」

「まあ余裕だね」

 悲しいのやら喜んでいいのやら、余裕と称された彼のためにも反応には困るけれど頼もしいパートナーだ。

「わかりました。ではよろしくお願いしたいです」

「リユちゃん?」

「彼のこと、今日まで無視してしまいましたから。最後くらいきちんと話しておきたいんです」

 だから私は彼の前に姿を見せるの。そうすることで彼にも希望が生まれてくれることを願って――


「オニキス・クランベル、――さん!」


「え? あ、あんた、なんでっ!?」

 一度顔を合わせたきりだったけれど、れっきとした攻略対象であるオニキス・クランベルその人だ。

「こんにちは」

「嘘だろ、無事なわけが……」

「その様子、私が殺されることを知っているんですね。でも残念でした。そう簡単にやられたりしません」

「……逃げこむとこ間違えてるんじゃない。俺にやられるとか考えないわけ? それとも見くびられてるのかな。王立騎士団あいつらに追い回されたなら誰が黒幕かわかるだろ!?」

 どうして来たと咎めるような口調だ。

「オニキスさん、これで良いのか疑問に思っていますよね?」

「はあ、何言ってんの?」

 動揺を隠すように視線が逸れる。

「王妃様の命令に従うことが正しいのか、わからないんですよね?」

 オニキスさんは名誉に拘る人、だから彼は周囲に流されるように王立騎士団を選んでしまう。けれどその心には迷いがあって、何が正しいのか自分でも迷っている。

 ゲームでもオニキスさんとは対峙することになるけれど、あくまで二人の間には絆が生まれていた。けれど今こうしている私たちの間には何もない。それを放棄してしまったのは私の罪だ。

攻略対象あなたたちに向き合うことが主人公わたしの役目。でも私は、万能にはなれないから……今日まであなたを一人にしてしまいました。私は最後まであなたと向き合うことをしなかった。ずっと申し訳なく思っていたんです」

「はっ、意味わかんないんだけど」

「わからなくて良いです。少しでも覚えていてくれればそれで。もしもこの状況を憂い、迷う心があるのなら。そしてすべてが終わった後も道に迷っているのなら、どうかヴィスティア騎士団の門を叩いてください。そこにはあなたの仲間がいます」

「仲間? あんた俺にあの役立たずどもの一員になれって、バカにしてる?」

「まさか。私、その騎士団の一員ですからね。それにもう役立たずではなくなります」

 団長、アイズさん、フェリスさん――そしてエルゼさんが帰ってくるんですから。

「騎士団に入ればきっとあなたの世界は変わります」

 彼らならオニキス・クランベルの世界を変えてくれると思う。

「こんなのは言い逃げで自分勝手なこともわかっています。ただ今のあなたを見ていたら、どうしても放っておけませんでした」

 だってなんだか迷子の子猫みたいな雰囲気で……

 抱き上げてヴィスティア騎士団まで連れていくことは出来ないけれど、帰る道を示すくらいはしてあげたい。

「話は終わった?」

 さらにオニキスが息を呑む。

「あんた、見たことあるよ。昔王妃様の傍にいただろ、裏切りかよ」

「うん。僕は君とは違うから」

「あ、なんだって?」

 あ、まずい……オニキスさんが怒っている気配。

「見ないふりも、自分に嘘を吐くのもやめたんだ。おかげで身軽になった。でも君は……ノロマのようだね」

 うわあ、火に油注いでる感じがひしひしとー!

 オニキスさんて見たままに短気なんですからね、私知りませんよ!? ここお任せしちゃうつもりですよ、いいんですか!?

「行きなよ。彼の相手は引き受けてあげるからさ」

「だ、大丈夫でしょうか……」

 カノエさんが負けるとは思わないけれど。

「それは僕への心配?」

「いえ、全面的にオニキスさんです」

 主にオニキスさんの血管が。怒りすぎてプッツリいったりしません?

「カノエさん、お手柔らかにですよ?」

「妬けるね。君は自分の心配だけしていなよ。平気? 迷わずに行ける?」

「さすがに自宅で迷うほどじゃありません。というかそもそも根本から違う! いいでしょう、ここで私の迷子キャラ扱いを払拭させて頂きます――お先に!」

 剣に手を振れ、オニキスさん目掛けて詰め寄る。当然彼も応戦しようと手を伸ばすけれど、私は呆気なくその横を通り過ぎた。正面切っての素早さならカノエさんにだって劣らない自信がある。

「おいっ!」

 オニキスさんが叫んでいるけれど、後はお任せしましたカノエさん!

閲覧ありがとうございました。

久々の登場すぎて忘れられているかもしれないのでデータを貼っておきますね!


オニキス・クランベル(19)

髪:赤  瞳:琥珀

「王立騎士団様の登場だぜ? もっと喜びなって!」

乙女ゲーム『銀の姫騎士』攻略対象の一人。新設された王立騎士団に所属しているが、仕事に対してはあまり積極的ではない。

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