↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノエル王国の魔法のバイオリン  作者: Hamin
第7章 聖夜の光響祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/39

7.5 聖夜の光響祭 バイバイ

演奏(えんそう)の深い余韻(よいん)が、夜空に静かに溶けていく。その静寂(せいじゃく)を満たすように、広場の中央へと眩(まばゆ)い光の渦(うず)が集まり始めた。


空からゆっくりと舞い降(お)りるのは、星の欠片(かけら)のような金の粉と、胸(むね)がすっと洗(あら)われるような甘い白百合の香り。夜風がひんやりとヒカリの火照った頬(ほお)を撫(な)でる中、響(ひび)き渡(わた)る拍手(はくしゅ)を制してゆっくりと歩み出たのは、晴れやかな表情を取り戻したグランディス王だった。


「見事であった、ヒカリ殿(どの)。お主の音色は我が(わが)心の闇(やみ)を払い、このノエル王国に真の光をもたらしてくれた」


グランディス王は胸に手を当て、深く頭を下げた。王冠(おうかん)の宝石(ほうせき)が街の灯りを反射(はんしゃ)して煌(きら)めき、王は優しくヒカリを見つめる。


「この国には古より伝わる伝統がある。『聖夜(せいや)の光響祭(こうきょうさい)』を成功させし最高峰(さいこうほう)の奏者(そうしゃ)には、神の奇跡(きせき)をもって【どのような願いも一つだけ叶(かな)える権利(けんり)】が与えられるのだ」


グランディス王の言葉に、広場を埋(う)め尽(つく)した民衆(みんしゅう)から地鳴りのような歓声(かんせい)が上がった。熱気が肌(はだ)を打ち、広場から焦(こ)がし砂糖(さとう)のような焼き菓子(やきがし)の甘い匂いが再びふわりと漂(ただよ)う。

王は、静かにヒカリに尋(たず)ねた。


「ヒカリ殿……お主は、このままこの世界に残るか? それとも……元の世界へ帰るか?」


ヒカリの胸の奥(おく)が、温かくキュッと締(し)め付けられた。

ふと振り返ると、共に旅をしたかけがえのない仲間たちが、優(やさ)しい笑顔でヒカリを見守ってくれている。


映像(えいぞう)の白猫(しろねこ)アルコが、尻尾(しっぽ)をピンと立てて誇(ほこ)らしげにウインクをした。

「お前は最高の弟子ニャ。いつでも私(わたし)の音色を思い出すんだぞ」

巨大(きょだい)なゴレムが「グルル……」と喉(のど)を鳴らして擦(す)り寄(よ)り、その口の中から大賢者(だいけんじゃ)バルダザールの穏(おだ)やか声が響く。

『よくぞここまで辿(たど)り着(つ)いたのう。立派(りっぱ)じゃ、ヒカリ』

王国剣士(けんし)のカイルが騎士(きし)の礼をとり、学者ホリーが胸の鐘(かね)をチリンと鳴らして微笑(ほほえ)む。氷の魔法使いノワールが美しい雪の結晶(けっしょう)を空に散らし、トリルが楽しげに太鼓(たいこ)を叩(たた)き、時計仕掛(しか)けのチクタクがリズミカルに時を刻(きざ)んで別れの音楽を奏(かな)でていた。

そして図書館妖精のルノアが、ヒカリの頬(ほお)にすり寄った。

「ヒカリちゃんの音、絶対に忘(わす)れないわ!」


みんな大好きだ。ここでの冒険(ぼうけん)は本当に楽しかった。けれど——。

ヒカリは光の帯の向こう側で、涙(なみだ)を浮(う)かべてピアノの前に佇(たたず)む母・琴葉(ことは)の姿(すがた)、そして「光の魔法」を準備して待ってくれている父・修平の気配を感じ取った。


「グランディス王、皆(みな)さん、ありがとうございます。私……おうちに帰りたいです。大好きな、お母さんとお父さんのところへ!」


「そうか。では、神の恩寵の光よ、この愛しき奏者を導きたまえ!」


グランディス王が高らかに両手を掲(かか)げた、その瞬間(しゅんかん)。


カァァァッ……!


空の天頂(てんちょう)が割(わ)れ、巨大な光の柱が真っ直ぐに降(ふり)り注(そそ)ぎ、ヒカリの全身を包み込んだ。

視界(しかい)を真っ白に染(そ)め上(あ)げるほどの眩い七色の光。


同時に、パイプオルガンのような荘厳(そうごん)で柔(やわ)らかな和音が、鼓膜(こまく)ではなく全身の骨(ほね)を優しく震わせるように鳴り響いた。


光の中は、春の陽だまりのようなぽかぽかとした温かさに満ちていた。フワリと体が宙(ちゅう)に浮(う)く無重力の心地よさの中、舌(した)の上に蜂蜜(はちみつ)のようなかすかな甘みが広がり、星屑(ほしくず)を煮(に)詰(つ)めたような神聖(しんせい)で澄(す)んだ匂いが鼻腔(びくう)をくすぐる。五感のすべてが、至福(しふく)に包み込まれていく。


「ヒカリちゃん、またね!」「元気でな!」

光の向こうで叫ぶ仲間たちに、ヒカリは両手でバイオリンを高く掲げた。


「みんな、ありがとう! 絶対に忘れないよ! バイバイ!」


ヒカリの笑顔とともに、光の柱は弾(はじ)けるように天へと昇(のぼ)り——。

次にヒカリが目を開けた時・・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。