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エピローグ

 誠一は春の陽気の下、高見沢駅の前の慰霊碑に手を合わせていた。家族の墓参りは、昨日叔父と一緒に済ませた。

 解放機構への復讐を果たしたことで、何かが変わったのか。清水を殺しても、死んだ両親と妹が戻って来ることはないし、悲しみが消えることもない。状況は何も変わっていないだろう。

 だが、復讐が無駄だったとは誠一は思わなかった。復讐を果たしたことによって、誠一は三年間の足踏みに終止符を打ち、ようやく家族の死を受け入れることができたのだから。

 復讐が、両親と妹が望むようなことかどうかは分からない。優しかった母と妹は、眉を顰めるかもしれない。だが、少なくとも誠一は復讐を果たしたことで過去にけじめを付け、未来への一歩を踏み出すことができた。その第一歩が、家族の墓参りであり、高見沢駅の慰霊碑に手を合わせることだった。

 誠一は、一分は合わせていた手を下ろし、ゆっくりと目を開ける。そして、後ろに向かって「よくここにいるって分かったな」と声を掛けた。


「あんたの居場所を聞いたら、ここだって聞いたから」


 誠一は立ち上がり、振り向いた。そこには約三週間ぶりに見る一ノ瀬の姿があった。右腕に巻かれた包帯や顔に残る傷跡はあるが、ぱっと見では元気そうに見える。


「怪我はもういいのか?」

「うん。お腹の中の銃弾も破片も全部取り終わって、ばっちり傷口は閉じてる」


 一ノ瀬は事もなげに言って、薄いセーターの上から腹を軽く叩く。だが、すぐに「あ、ちょっとまだ痛いかも」と言って顔を歪めた。


「あんな死にそうな感じで、俺のこと名前で呼んで来たってのに元気なもんだな」

「言っておくけど、あのときは本当に死ぬ一歩手前だったんだからね」


 一ノ瀬がそう言って左肩を叩いてきた。「痛ってえ!」と叫んだ誠一に、通行人が視線を向けてくる。


「そこ三十二口径弾が貫通したんだぞ!」

「私の七・六二ミリ小銃弾に比べたら、かすり傷じゃない」


 一ノ瀬は誠一の抗議を軽く受け流し、周囲にさっと視線を走らせて顔を険しくした。誠一も、通行人の何人かがこちらを見てきていることに気づいた。

 平山高校占拠事件から三週間が経ち、報道は落ち着いてきた感があるが、まだまだ誠一たちの顔を覚えている者は多い。世論の過半は二人のことを「平山高校の英雄」などと好意的に捉えているようだったが、見世物扱いされているようで嬉しくはなかった。


「場所を変えよう」

「何よ、デートの誘い?」

「ああ。まあ、そんなところだ」


 復讐の呪縛から解放された誠一と一ノ瀬の二人は、どこへ向かうわけでもなく、春の訪れを告げる陽光の下を歩きだした。




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