1-9 責任放棄して逃げる
村は全壊、村人は全滅。
「くっそ、重ぇ・・・」
とりあえず逃げる事にした。
ここにとどまるメリットとデメリットを天秤にかけた時。メリットは火事場泥棒、おもに金を回収できる。
つーか、まだトカゲニンゲンを追い払った報酬貰ってねえ‥‥‥。
でもなぁ。あんだけ壊れに壊れた建物から目的物を発掘するのっておそらくすっごくしんどいだろうなぁ。
そしてデメリット。これはどういうものが考えられるだろうか?
例えば、近隣のあるかもわからん集落がクッソ爆音に様子見に来るとか、この村と只今絶賛トラブルっているトカゲニンゲンが偵察に来るとか、実行犯の弟の顔を見られる事がまずいのはもちろんのことだが、俺の顔を見られるのもなんかうまくない。
自警組織や法律みたいなものがあるかはわからんが、少なくとも殺人という行為がなんら咎に問われぬはずもない。
目撃されることにメリットを感じない。
そんなわけで弟と復活したらしきコドモトカゲニンゲンを背負って逃げているわけである。
正直コドモトカゲニンゲンは置いて行ってもいいと俺は思っている。
だけどなぁ、弟が顔見ている可能性あるしなぁ。
弟が目覚めて、コドモトカゲニンゲン捨てて来ました。なんて言った日にゃ、ブチ切れそうだしなぁ。
しつこいくらい繰り返すようだが、俺のこんなクソみたいな異世界生活は選ばれすぎた主人公である弟にかかっている。
だからなるだけ機嫌は損ねたくない。
どころかこのコドモトカゲニンゲンを連れていくことで機嫌も取れるかもしれないというそういう算段だった。
そんなわけでズルズルと二人を背負ったまま進んでいく。
平均以下の怠惰おじさんにしてはがんばっていると思う。いやマジで。
ぜえぜえと息が切れる。
身体中が悲鳴をあげてやがる。
目に汗が入るってひっさびさだ。
ちょっと小高い丘を必死こして上った時点で力尽きてぶっ倒れた。
「くっそ重ぇ、どいてくれ‥‥‥」
俺の身体に無造作に乗っかった弟とコドモトカゲニンゲンをどかすと俺がこいつらを引きずった跡が点々と見えた。
なんだか、こんなに頑張ったのは久しぶりな気がする。
いや、こんな異世界に拉致られる前は就活がんばってたよ。でもそれには別に生死がかかっていたわけじゃない。
両親が残した家もある。どちらかというと放任主義のオヤジが好き勝手使えと残してくれている金もある。
就職できないけどただちに生死にかかわるわけはないし、生活レベルに影響するわけでもない。そんなわけから就活にどこまで本気だったのかと思えば首をかしげる所だ。
もしかして俺は心のどこかで就職なんて出来なくとも、いまだ現役でなんらかの役員といてバリバリ稼ぐスーパー稼ぎ頭オヤジとなんやかんやで世界とか救っちゃう系男子の弟に巻き込まれるのを言い訳にしていたのではないだろうか?
「いや、してたな確実に・・・」
あーいやになる。
なんで俺の悩みはこんなファンタジーまで来てくっそ小さいのだろうか?
器がちっさいから‥‥‥。
「うっさいわ」
こんなセルフツッコミまで出る始末だ。
世界は黄昏時。まもなく夜がくる。
こんな道端には外灯設備など一切なく、月や星の光しか頼りにならない。
俺達がいた世界では化学という侵略者にいっさい殺されてしまった暗闇という神秘がここ異世界では容赦なく襲い掛かる。
ぶっちゃけ月も星も見えない時の暗闇はマジで怖い。
挙句にまわりからなんらかの遠吠えやうめき声なんか聞こえてきた日にゃあ容易に失禁する自信がある。
そういうわけで火を起こさねばならぬ。
幸いにしてこの世界に拉致られるときにもっていたライター様が、本来であれば技術と時間を必要とする火起こしという作業をすさまじく楽にしていた。
文明の利器万歳である。