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17 俺。ちっちゃなお姉ちゃんと帰路につく。

 ゆっさゆっさと身体を揺さぶられている。

 せっかく気持ち良く寝ているのだ、邪魔をしないでほしい。

 揺さぶりから逃げるように身をよじった。


「あっ」


 困ったような、艶めかしいような声が聞こえる。

 誰かが俺を揺さぶっている、ソレは誰だ? 検討もつかない、いやマジで誰だ?

 目を瞑ったままであるがそこで冷や水をぶっかけられたように意識が覚醒した。


「ああ、ようやく起きましたね。まったくお寝坊さんなのだから。こんな所で寝ては風邪をひいてしまいますよ」


 そしてその誰かを確認するために目を開く。

 見あげると、そこには少女がいた。

 中学生くらいだろうか? 半分オトナかもしれないが半分以上がコドモ、意味わかんないがそんな印象だ。

 肩まで届くぐらいの髪、特質すべきはその色で、薄い灰色とでも言えばいいのだろうか? 風に遊ばれて鈍く光る、地毛と主張するにはあまりにも眩しく鈍く輝く。夜だというのにうるさいくらいに自己主張が強い。月明かりでもあったのならもっと眩しく輝くことだろう。

 総じて、美少女と形容していいような少女だった。

俺はそんな少女にひざまくらされている。どんな状況だコレ?

 状況を整理すると、俺はどこかの森の中で寝てしまっていて、目を覚ましてみれば美少女にひざまくらされていて‥‥‥いや整理しときながら意味不明なシチュエーションだ。


「ああ、すいません。今起きます」


 いつまでも少女の膝を占領しておくわけにはいかない。

 なぜか後ろめたさ、犯罪臭がある。


「いえ、膝を貸すのは別にいいんですが、もうこんな時間ですから、みんなも待ってますので早く帰りましょう? 別に膝枕くらい家でいくらでもしてあげますから」


 マジで!? いくらでもやってくれるの? なにそれ最高じゃん。

 少女に促されて立ち上がり、衣服についた埃を払う。


「んっ」


 少女が起こしてくれとばかりに掌をこちらに向けて掲げる。

 今まで膝枕してもらっていたのだ、別に手を差し伸べるくらいお安い御用だ。

 少女の手を取り助け起こす。少女の掌はひんやりしていて、なんかドキドキした。


「はい、ありがとうございます」


 まるで笑顔が花のようだ。

 なんだか気恥ずかしくなって、目を逸らした。


「では、帰りましょう?」


 少女はそう言う。

 帰るねぇ。まぁこんなに暗いのだ、常人であれば帰宅は当然である、と思われる。

 そこまで思考を巡らせて、ふとどこに帰るだという思考に陥った。

 家とはどこなのか?

 この少女は誰なのか?

 つーかこれが一番致命的なのだが。


「帰るのはいいんだけど。ちょっと聞きたいんだけど、そもそも俺は誰?」


 コレに尽きるのだった。

 色んなことを思い出そうとしてみるのだが、全然思い出せない。

 逆に現状覚えていることはなんだろうかと考えてみるが、そっちはさっぱりだった。

 俺が今までどれくらいの年月を生きてきたかは思い出せないが、それらも含めてすべてが水泡に帰しているのはなんだかフワフワしているような、自分の積み上げてきたものがふと見渡してみるとすべて瓦解していたような。

 超不安じゃん、こんなん。


「‥‥‥自分が誰か思い出せない? 面白いことを言うんですね。アナタは私の可愛い弟くん。ソレ以上でもそれ以下でもありません。大切な家族の一人です。だからほら、帰りましょう?」


 そう言って手を差し伸べてくる少女。もとい俺の姉さん。

 その言葉をまだ完全に信じたわけではない。


「ほら、お姉ちゃんと一緒に帰りましょう?」


 だけどその小さな掌を握って、一緒に歩き出すと俺の抱く疑問は小さな事なのではないかと、些事なのではないかと思ってしまう。

 一緒に手を握って歩くと、俺とお姉ちゃんとの身長差がだいぶあることに気付く。

 俺よりだいぶ小っちゃいお姉ちゃん。

 果たして俺が年齢の割に背が高いのか、お姉ちゃんの成長期が来ないままここまできてしまったのかは不明だがものすごい身長差だ。

 手のひらに握りしめたちっちゃな手からわずかながらでも体温を感じて。きっと俺は元来こういうのに慣れていないのだろう。

 めっちゃドキドキする。

 この鼓動が相手に伝わっていやしないだろうか。

 お姉ちゃんはそんな俺の心情を察しているのかどうなのか、繋いだ手をぶんぶん振り子よろしく振って天真爛漫に歩く。


「どうしたんですか?」


 いつの間にかじっとお姉ちゃんを見てしまっていたようで、不思議そうに首を傾げて問いかけてくる。

 そんな仕草すらあざとく可愛くてなんかズルい。


「いや、ごめん。なんでそんなに上機嫌なのかなって思って」


 別に隠すようなことじゃないから、正直に告げた。

 わからないことを隠してしまうような自尊心は意外な所で足を引っ張ってしまうものだと思うのだが、いかんせん今の俺は記憶がない。挙句にそれをこのお姉ちゃんとやらに申告してしまっている。

 多少の無礼な質問でも流してくれるだろうと思ったのだ。


「なんでって? 家族と一緒にいるだけでそれだけ幸せになるってものじゃないですか?」


 おかしなことを聞きますね? とお姉ちゃんはまた首を傾げる。

 それだけで幸せになれる、というのならばどんだけ幸せの沸点が低いというのだろうか?

 或いは、このお姉ちゃんにとっては家族というのはそれだけの存在だというのだろうか?

 それは明らかに俺が家族を想うよりも強い。いや他の家族がどれだけいるのかも思い出せないが。


「そうだね。きっとそれが一番なんだろうね」


 まだ俺の記憶は戻らない。戻る兆しも全然わからない。なんだったら戻らないかもしれない。

 正直こんなに幼く見える少女がお姉ちゃんを自称するのもなんらかの事情があるのだろうと思う。

 だけど、この花のような笑顔に絆されてしまったのは事実で、もうちょっとこんなにちっちゃな手のひらの天真爛漫な少女をお姉ちゃんと呼ぶ日常を生きてもいいかな、と思った。


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