5-6 コドモトカゲニンゲン。プレゼンする。
「アキシゲ‥‥‥ん」
ふと、コドモトカゲニンゲンがどこから取ってきたかもわからない赤い果実を弟に差し出してきた。
「ありがと。これは?」
弟はそれを受け取りつまんでニオイを嗅ぐ。
見た目は野イチゴに似ている。ただここは異世界、なんど外見で痛い目にあってきたかはわからない。
嗅ぐ。それは喰えるかわからないものに対して俺達が今までとってきた方法の一つだ。
「なんだか、かすかに甘い匂いがするなぁ」
コドモトカゲニンゲンがせっかくくれたものなのだ。無下には扱いたくない。しかし食えるものかわからない。
恐らく思い出しているのは食あたりからくる地獄のような脱水症状だろう。
アレは辛い。かるく死にたくなるくらいには辛い。
「‥‥‥」
弟と目があった。
アイコンタクト的には。兄ちゃん、これなにかこの子に聞いて? といったところだろう。
「なあ、それなんだよ? 喰いもんか?」
俺もその赤い果実が気になっていたので聞いてみる。
「ん、チゴのみ。たべれる。あまい。おいしい」
現地民の食べれられる発言の信憑性は8割と言ったところ。
異世界といえ見た目上はかわらないニンゲンというカタチ。身体構成上食せるものにそれほど違いはないはずだ。
怖いのは地方独特の特産品。これらは残りの2割で俺達の胃には合わない可能性がある。
外国の名物が合わないようなものだ。
このチゴの実とやらを薦めてきたのは来たのは旧トカゲニンゲン。人と見た目が違う、ウロコとかかぎ爪とか体組織が違う。
そうなると胃の性質がまったく同じということはないだろう。
コイツ等が平気なものでも俺達にとっては毒である、というのは十分にあり得る。
しかしこのコドモトカゲニンゲン。今となっては半分以上ニンゲンである。
「このチゴの実、お前最後にいつ食った?」
半分以上ニンゲンであるコドモトカゲニンゲンが食せるならさすがに毒にはならないだろう、そう至り尋ねる。
「‥‥‥きのうたべた」
コドモトカゲニンゲンが「あそこ」と草むらを指さす。
確かにそこにはチゴの実とやらが群生していた。草むらに生えている赤い点々は中々に目立っている。
「弟よ。これはどうやらチゴの実というらしい。そこの茂みから拝借してきたみたいだ。甘い実でコドモトカゲニンゲンも昨日たべた、と言っているからさすがに毒ということはない‥‥‥と思うたぶん」
弟から目を逸らしながら正直に今得た情報を告げる。
「おい兄ちゃん。なんで目ぇ逸らす?」
「いや、俺は真実を伝えたぞ。ただ、がんばれって思って」
現地民の言葉の信用率を弟も考えているに違いない。あとコドモトカゲニンゲンの好意を素直に受け取れない自分にも若干嫌気が差しているに違いない。
弟はチゴの実とコドモトカゲニンゲンを交互の見比べていた。
喰うか、喰わざるべきか、そう悩んでいるのは明白だった。
「ちごのみ、あまい」
再三になるが弟とコドモトカゲニンゲン間では会話は成立しないお互いにそれはわかっている。
それでもコドモトカゲニンゲンはチゴの実は弟にプレゼンし続ける。
「‥‥‥‥‥‥」
弟は悩んでいた。
何度もチゴの実とコドモトカゲニンゲンを見直す。
「わかったよ‥‥‥」
そうして観念したように覚悟したように。
「せっかくこの子がくれたんだ。食べてみるよ」
そう呟いて。
「ありがとうね、いただきます」
言葉も通じないのにコドモトカゲニンゲンにお礼をいって頭を撫でる。
「ん」
それをまんざらでもないように受け入れるコドモトカゲニンゲン。
チゴの実が本当に食べれるのならば微笑ましい場面である。
食べれるならね。




