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3-3 大したことが起きない貴重な夜。

「明日にはつけそうだな」


 建造物を発見しそれに向かうことさらに幾日が過ぎた。

 目的地が定まったということもあり、早めに野営の準備をして、今は夜である。

 近づけば近づくほど建造物は群であり、巨大であり、今まで訪れたどこ村よりも大きく、街とか国といったほうが正しそうだ。

 夜とかでもめっちゃ明かりとか灯っていて栄えているっぽいことがうかがえる。

 この異世界生活において初めての巨大集落に正直テンションはあがっていた。

 まるでここからなにかが始まるような予感すらする。


「‥‥‥」


 さらに上機嫌なわけとしては、コドモトカゲニンゲンの発作が起こらないこともあった。

 しっかりと休めるっていうのはやはり旅において重要である。

 横では弟とコドモトカゲニンゲンがおとなしく寝息をたてている。

 火の番交代まであとわずか、そろそろ弟を起こそうと手を伸ばし‥‥‥やめた。


「まぁ、いっか」


 コドモトカゲニンゲンの呪詛とやらに四六時中かかりっきりで、さらに何度か野生動物に襲われ(ものすごいデカい野犬の群れだった)疲労困憊なのは間違いがない。

 この異世界生活において弟の比重が重すぎるのだ。せめてこういう時だけでも兄貴ポイントを稼いでおかないと肝心なところで見捨てられかねない。

 そうすると俺の異世界生活は詰みである。


「うぅん‥‥‥」


 コドモトカゲニンゲンが低く唸った。

 発作か? と危惧したが、そういうわけではなさそうだ。


「‥‥‥」


 ただ目を覚ましただけだった。驚かせやがって。


「どうした?」


「ん」


 このコドモトカゲニンゲンはどうにも言葉が少ない。

 このくらいの子供ならもうちょい語彙があってもよさそうなものだが、もともとがトカゲニンゲンであるということと他人の命で生かされているというほかとは共有もできそうもない背景のせいで発達障害の恐れもある。


「なまえ」


 たまに喋ってもこれである。言葉覚えたての幼子だ。

 主語とかいっさいない。


「俺の名前か?」


 やたらと大げさにふるふると首を振る。


「なら、こいつの名前か?」


 弟のほうへ目くばせをすると、今度は大きく頷いた。なんかすっごいバカっぽい。


「こいつは秋重だ」


 オヤジは俺達子供にはまったく興味がなく、ただただ病的に狂ってんじゃねえかっていうくらいお袋ラブだった。だから秋に生まれた弟の名前の第一候補は「秋」だった。ひねりとかまったくない。ホントにクソオヤジである。

 お袋もお袋でオヤジのことを世界一愛していたから、オヤジに意志を尊重し「秋」という文字は生かす方向であと一文字なにか足すというカタチで落ち着いたようだった。


「この子は秋に生まれて、何回も秋を繰り返すから、重ねるから『秋重』にしましょう」


 そんな感じで決まった俺の弟の名前。


「アキ‥‥‥シゲ」


 コドモトカゲニンゲンはその響きを何度か反芻する。

 それに込められた意味などわかりもしないのに、なんども繰り返し呟く。


「わかったらさっさと寝ろ。明日はあそこにたどり着くまで歩くぞ」


「ん」


 コドモトカゲニンゲンは素直に寝息をたてはじめた。

 こんな感じでなんの進展もない夜が明けていく。


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