リリーベル=フォン=ロイヤル
ワタクシ達がバサラの異様に言葉を失い慄いていると、その巨体からは想像もつかないスピードでワタクシとホルスの居る場所に飛び付いて来ましたわ。
ワタクシとホルスは急いで反応しまして、その場所を離れましたの。
次の瞬間、バサラが着地した地面が弾け飛び周囲に瓦礫が飛び散りましたわ。
「な、何だよアレ」
ナイフがあまりの恐怖から膝を震わせて呟きますのよ。
「ナイフ、下がってろ」
ジョニーがナイフの前に出て庇いますわ。
そんな二匹を見た後にレインさんがワタクシに向けて言いましたわ。
「サマンサ様、アレは既に猫である事を辞めております、皇帝バルバロッサによる【覚醒者】です、ああなった猫はもう‥‥‥」
クリムゾン‥‥‥ですの?
あの禍々しい姿、アレは皇帝バルバロッサの仕業だと言うのですか。
時折バサラの身の内から聞こえる、伐叉羅一族達の怨嗟の鳴き声がワタクシの魂を揺さぶりますわ。
ワタクシがまだ悪役令嬢であった時の、世の中全てを恨み、諦め、ただ終わりを待つだけでした哀しみの声を聞いている様ですの。
「‥‥‥いけません、それではいけませんわバサラ!」
いつの間にかワタクシはバサラに向かい駆け出していましたの。
「姐さん!」
「サマンサ様!」
「無謀だサマンサ!」
ナイフ、レインさん、ホルスがワタクシを止めようと叫びますが、ワタクシは止まりません。
ワタクシにはバサラの、伐叉羅一族の悲痛な叫びが理解できてしまうのです。
そんなワタクシにしか、あの悲しき一族の暴走は止められませんわ!
「サマンサァアァッ! 死"ネェエッ!」
バサラから吹き出す漆黒の闇がワタクシに纏わりつきますの!
しかし、ワタクシの純白の鎧はその闇を打ち払います!
「バサラ! 貴殿方の呪われた呪縛、ワタクシが解き放って差し上げますわ!」
ワタクシは叫びましたの!
その時、ワタクシの全身を眩い光が包み込みましたわ。
光の中から現れたのは、美しく長い金髪を縦ロールに巻いて純白のドレス型の鎧を身に纏い、蒼い瞳をした美少女、リリーベル=フォン=ロイヤルの姿でしたわ!
ワタクシの変身した姿に、もっふもっふ団とバサラが驚愕して固まっておりましたのよ!
「バサラ! 貴方の悲しき魂‥‥‥ワタクシが救います!」
ワタクシの両手に現れた光の槍が、バサラの体を貫きました。
貫かれたバサラを光が覆い、バサラが叫び声を挙げながら暴れています。
やがて、光が収まりましたら中から憑き物が落ちたかの様な表情で眠るバサラと伐叉羅隊の猫達が横たわっておりましたわ。
ワタクシは、そんなバサラ達を見て涙が止まりませんでしたのよ。
もっふもっふ団の皆様がワタクシに駆け寄ってくると、ワタクシは元のスコティッシュフォールドの姿へと戻りましたの。
バサラ達の安らかな表情をワタクシは何時までも眺めていましたわ。




