第一話 出逢った瞬間変わったこと
銀の煌きが甲を描き一線の鋭さを以て紅と混じる。
地獄かと錯覚する。
想像していたモノと違うことに戸惑うが後退することなどこの状況で許されるはずもなく、そんなことをすれば同行者にしばき倒されるのがオチだ。
今の状況を簡説に言うと「見たこともない凶悪面の厳ついオッサン+これまた見たこともない緑の目をした口から焔を出す狼に囲まれる俺」っと言った具合だ!
なぁ!救いようなくねぇ?
現代の日本に生まれ育った俺がこんな異世界サバイバルしてるなんて…
―事の起こりは二日前…
目の前が真っ暗。
つまり暗転…
どういうわけだか俺は見知らぬ森にいる。
さっきまでありきたりな日本の、それこそどこにでもある道路を歩いていたはずなのだが…
マンホールくらいの暗い穴みたいなのに堕ちて気付いたら此処。どこだよ!?
わけわかんねぇええええ―!!!!!!!
頭を抱え込み蹲ったところでこの場が好転するはずもなく、仕方ないので身の周りを見てみる。コンビニに行こうとしていたところだったから上下揃いの黒のスウェットに裸足にサンダル。
ポケットに財布と携帯。
周りは森。俺一人。これってもしかしなくてもまずい状況じゃなかろうか?うん。マズイネ…
どーしゅるの!(噛んだ)これ!!
ヤバいのは理解できた!理解したくないけどネ。兎に角森を抜けよう!そしたら街に付くだろう!明らかに見たことない植物があるから日本じゃないっぽいけど
どうにかなるよ!
俺は自分を奮い立たせ勢いよく立ちあがる。
かざがざ…
ん?
後ろの草むらから音がする。人か?
俺は期待し後ろを振り返りすぐさま後悔した。ナニコレ?
目の前に緑色のよだれを垂らした2メートルくらいの灰色の熊?が仁王立ちでこちらを睨んでる。標的は言われなくても俺。
積んだ。終わった…
攻撃力も防御力も皆無の俺にあれを回避することも倒すことも出来るはずもなく、かと言って逃げることも出来ずに両者一歩も引かず睨みあったまま硬直。
額から汗が滲み目にしみ、脂汗でぬるぬるの両手は握ることも出来ないまま開きっぱなし。
軽く震えてきちゃってます。
なぜ動き出そうとした瞬間にこんなことになるのか。そもそもなんで俺がこんなところにいるのか訳が分からず混乱と恐怖と不安がぐるぐると頭の中を這いずりまわる。プレッシャーで吐きそうになりながら吐けないジレンマに余計気分が悪くなる。
熊?の方も俺を睨むつけ気持ち悪い緑色のよだれが絶えず滴っている以外は変わらない。
かれこれ十分くらいこうしている。いい加減どうにかしたいがいかんせん絶対的に俺は不利っというかまず死ぬ。
段々とこの状況が多少なれたのか俺は熊?を観察してみる余裕が出来た。と言っても微々たるものだが。
動物園で見た熊とはまず違う。大きさはともかく緑色のよだれって、あり得ない。それと頭上に僅かに見えた一本角ねじり曲がった黒色のそれは先端が鋭利に尖り四足で迫れれたらその角で身体を突かれそうだ。
両手を広げた形になっている手(足?)は爪も鋭い。むき出しの口には牙も見える。
熊じゃないよね。どっちかっていうとモンスター?
誰か助けて!!!!!
俺の情けない祈り?が届いたのか、次の瞬間自体は一変した。
シュン!
熊の斜め後ろから一本の矢が飛んできた。紅い矢だ。その矢は紅い光をまといながら熊の首を射る。熊はその矢に射されたのが気づいていないのか矢を無視。
だが矢に即発されたのか俺に向かって腕を振り上げてきた。
とっさに後ろに避けと言うより転び、一撃を回避。回避されてイラついたのか熊は形相を変え向かってくる。
すると熊の後ろから矢が熊の眉間を貫いた。そこから矢を中心に焔が上がる。
ごうごうと燃え前倒しに足先数センチの所で熊が地面を響かせ倒れた。
転んだ拍子に両手を擦りむいたようだ。ひりひりと痛みが伝わってくるがそれにかまうこともなく呆然と燃える熊の亡骸を見つづけた。
こ、怖ぇ!!!!なんだよいきなり!
悪態をつきたい所だが口が回らず心の中で思うに止まる。情けないけどね!
「おい!大丈夫か!!怪我は…」
草むらから現れたのは長い緋色の髪を後ろで三つ編みに束ね、白磁の長弓を両手で支え持ち蘇芳色の瞳で此方を見つめた綺麗な少女。16、7歳くらいだろうかなんとも瑞々し肌に纏うのは無機質な鎧。所ところ古傷らしきものが見え歴戦の戦士を想わせる風貌だ。
少女は俺を見た瞬間、心配したような顔から驚愕の表情に一変し緩められた緊張を再び張り巡らせていく様子がまじまじと感じる。
何事!?っと辺りを見渡すがいるのは彼女と俺。素人目だから気配を消した獣がいるのかもしれないと思ったがどうやら彼女の緊張は俺に向けられているらしい。
っと言うか言葉よくわかったな俺…今更だがこの状況で考えることではないがいわゆる現実逃避だ。
贔屓目なしの美少女に警戒されるなんて泣けてくる。自慢じゃないが彼女なんて生まれてこのかたいた試しがない。女性と触れ合う機会なんかもほぼ皆無の絶賛ニートだ。
ここはない勇気を振り絞り話しかけてみようか?いやいやないんだから無理じゃねぇ??
ほんとどなしょうぉ!!?
「…マギルがどうして此処にいる?」
マギル?なんだそれ?俺が躊躇していると少女の方から話しかけられた。ちょこっと感謝。
にしてもマギルってなんだ?
「あの…マギルってなんですか?」
「??何を…言っているんだ?」
ん?俺の返した言葉は相手には分からないらしい。ってことは会話出来ないの?
いやいや相手の言葉は何故か知らんが勝手に日本語変換されて俺に届くんだから俺の日本語も相手にわかるように自動変換されてんじゃないのか?それとも言葉の意味が分からなかっただけで言葉は通じているのか?
「ええぇっと俺の言葉分かります?」
再び話しかけてみるが少女は困惑気味に顔をしかめた。
「すまない何を言っているのか分からないんだ。大陸語ではないみたいだが…此方の言葉は分かるか?」
頭を上下に振り分かっていることを伝える。少女は少しばかり安堵して話しかけてきた。
「どうやら此方の言葉は理解できるみたいだな。それにしても此方の言葉が分かるのになぜ話せないのか…」
まったくもってその通り。俺にも分からん。
「その様子ではマギルのことも分かっていなさそうだな。普通だったら怯えや警戒を見せるのにその素振りすらしていない。もしや…ニウォン語か?」
え?日本語?この人日本語っていった??
「そうか…ニウォン語かぁ。皇国の出身だな。だったらマギルのこともわからんか」
俺の微妙に納得した(?)表情に勝手に勘違いをしてくれたおかげなのか勝手に俺の身分を勘違いしている。
「いや…それでも此方の言葉が分かるのに話せない理由にはなりえない…?」
「え…とぉ?」
なんか雲行きが怪しくなってきた…俺は冷や汗が止まらず先ほどの危機よりもよっぽど汗が噴き出ているのではないだろうか。
少女は訝しげに此方を見ながら少し思案にふけっている様子。とりあえず俺は空気になろう!
「…う~ん。分からんなぁ…あ!もしかして術が掛かっているのか??」
「へぇ?術…?」
少女は唐突に俺の額辺りに右手を掲げてきた。え、何?
動揺する俺をしり目に少女の右手に淡い光が集まり丸い陣が空中に浮かび始める。
「Εντοπίστε το πρόσωπο της υπόθεσης του(彼の者を探知せよ)」
勝手に翻訳された俺の耳に二重に聞える呪文。最初に聞えたのは訳わからん言葉だが追尾されて聞えたのは日本語訳らしい。意味から察するに解析みたいなものだろうか?
成り行きを見ていただけの俺にはさっぱりわからんが浮かんでいた陣が中央からガラスが割れるように突然飛散し消えた。何事かと目を見開いて少女を見る。何か険しそう…
「……やっかいだ」
「はい?」
「此方の言葉は分かるらしいから一方的に話すぞ。どうやら君は中途半端な魔法が掛かっている。詳細は分からないが恐らく翻訳の一種だろう。かなり複雑に入り組んでる。解けるのは同属性の者か魔法に長けたものでしか無理だ」
少女は腕を組んで疲れ気味に話す。何か知らんがいつの間にか魔法が掛かりソレが中途半端で一方通行でしか翻訳出来てないらしい。
意思疎通の一歩通行…いやがらせ?
「このままでは不便だからとりあえず森を抜けよう。近くに町がある。そこで術を解けばいい。」
少女は苦笑い気味に俺に向かって手を差し伸べてきた。
「私はアシル・カスコーネ。アシルだ」
差し伸べられた手を握って緊張しながら名前を復唱しつつ自分の名前を言う。
「俺は澤村一輝。カズキだ」
「…カ…ズキ。カズキだな。よろしく」
朗らかに笑った少女、アシルはやっぱりとびっきり美少女だった。




