fratricide
朝日が昇る。
人間の時間だ。
俺は昨日見た夢を思い出す。
「ひでぇ悪夢だったな・・・・・・」
今日も学校だ。早く準備をしなければ。
「あら、夢じゃないわよ?」
「うわっ!」
ベッドに座る女を見て驚愕する。
「まさか、昨日の出来事を夢で終わらせようとしていないわよね?」
「やっぱ現実だったかこんちくしょう」
俺は現実逃避に失敗し、自らの置かれる状況を再認識した。
「てか普通に今日も学校なんだけど。帰ってもらっていいか?」
コイツの手伝いをする代わりに普通の生活を送る保障はされているはずだ。
「うーん、申し訳ないけれどしばらくは厳しいかもしれないわね」
「は」
「仕方ないわね。私の眷属になっちゃったんだし、そりゃ教会から狙われるわよ」
「ふざけんなよ!話が違うじゃねぇか」
「あら、勘違いしないで頂戴?」
「ッ!」
首に手刀を突きつけられ、首筋を汗が伝う。
「貴方はもう人間じゃないの。それなのに私の手伝いが終わったら普通の生活をさせてあげると約束してあげたじゃない。従わないなら別に今ここで殺してしまってもいいのよ?」
やはりコイツは化け物だ。決して理解することはできない。
「降参だ。俺は今日から何をすればいい?」
今は従順にしておくべきだな。今の俺ではコイツに勝つことはできない。
「まず、貴方を狙っている教会の吸血鬼を殺すわ」
「はぁ?」
それはおかしい。教会は吸血鬼を討伐するための組織のはずだ。なぜそんな組織が吸血鬼を擁している?
「言ってなかったわね。教会は吸血鬼を瀕死まで持っていった場合、首輪をつけて傀儡として戦闘に使うのよ。人的被害を最小限にする方法の一つだからね」
「教会だからって人道的なことばっかじゃねぇんだな」
何気ない俺の一言に彼女は一瞬驚きの表情を見せた。
「当たり前でしょ。吸血鬼は人間じゃないんだから、人権なんてある筈無いじゃない」
そう言う彼女の顔は、少し寂しそうだった。
「まぁそんなことはどうでもいいわ。今から貴方にやってもらうのは最低限の自衛と、今貴方が置かれている状況を理解することよ」
「なるほど」
確かに、今の俺は盗み聞きした情報以外はコイツに関しても吸血鬼そのものや男の組織についてもほとんど知らない。情報は武器だ。知っておくに越したことはない。
「じゃあ、よろしく頼む」
「あら、意外と素直に聞くのね」
「こんな状況だしな。あまり軽口を叩いている暇も無いだろ?」
「賢明ね」
彼女の講義を真面目に聞いていたら、空は茜色に染まっていた。
「もうこんな時間か」
「大体今言うべきことは伝えたわ。何か気になることはある?」
「特にないかな。今日の夜はどうする?」
「教えた通り、貴方自身の権能を磨くことに専念しなさい。貴方の基礎的な身体能力で十分普通の教徒とは戦えるレベルだから」
「了解」
そう言い残すと、彼女は窓から去っていった。
権能。吸血鬼が生きるための能力。
俺はまだそれが判明していない。正確には、自らの能力を自覚していないからだが。
俺はあくまで半吸血鬼状態であり、人間生活に支障はほとんどない。
故に、吸血鬼として当たり前の権能が未だ表に出てこず、身体能力が高いだけの人間だと言われてしまった。
しかし確実に身体に刻まれてはいるようなので、いつか発顕するとは言っていたが・・・・・
「とりあえず今日は寝よう」
一日中スカーレットからの講義を受けて、正直学校に行くよりも疲弊している。
今日のところは早く寝よう。
俺は何事もなく眠りに就いた。
夜が更ける。
「さぁ、仕事の時間だぁ」
オレはいつも通り、街が静まり返った頃に行動を開始する。
「あまり派手な動きはするなよ、今日は偵察程度で構わない」
電話の先からは憎ったらしいご主人様の声が聞こえる。
「わーったよ。殺しはしねぇ。ただ、確実に交戦はさせてもらうぜ」
「バレなければ最悪殺してしまっても構わないが、『吸血姫』に遭遇しないように留意せよ」
「りょーかい」
ブツッ
電話を切り、標的が住む家へ狙いを定める。
「『同胞狩り』コールマン、ターゲットの殺戮を開始する」
「同胞狩り」コールマン
吸血鬼でありながら、最も多くの同胞の命を奪ったと言われている厄災。
彼は氷室新の部屋の窓を割って、戦闘を開始した。




