プロローグ
彼女の原風景は戦場であった。
赤く爛れた空の下、絶え間なく剣戟が鳴り響き、鮮血がそこかしこで飛び交っていた。
彼女は、戦場を闊歩する。
悠々と、あくまで優雅に、彼女は戦場に君臨していた。
腰ほどまでに伸びた長い白髪に、雪のようにきめ細かく美しい肌を純白のドレスが優しく包みこんでいた。
戦場の戦士たちは、死闘の最中でありながら、彼女の美しさに見惚れていた。
しかし、ここは戦場である。
赤い十字架をエンブレムとする白い礼服の男達と、馬に乗った鉄の鎧を纏う騎士達が彼女へ殺到する。
「つまらないわね」
「霜槍」
瞬間、戦場は空と同じ色に染め上がった。
薄暗く荘厳な雰囲気の部屋に、一人の男が兵士からの報告を受けていた。
「此度で4回目となる遠征だが、結果はどうなったのだ」
決して若いとは言えないが、歳を感じさせない覇気を醸し出す男は部下に問うた。
「失敗、とだけ」
「ハァ、、、、、、、」
しかし、報告を受けた男は硬い雰囲気を崩し、肩を落とした。
「しかし、一つだけご報告があります」
「ほう?」
男の目が鈍い光を取り戻す。
「今回の遠征ですが、味方、敵軍の両軍ともに全滅しております。」
「何だと?」
男は驚愕に目を見開く。
「貴様、全滅というのがどういうことかわかっているのか?相当な人員を割いていたはずだが」
「ええ。ですので敵軍も全滅しております」
男は理解に苦しむといった様子天井を仰ぐ。時刻はもう夜に差し掛かっており、普段ならもう帰っている頃合いであった。
「味方の斥候を派遣したところ大量の兵士たちの死体と一人の女がいたそうです」
「女?戦場にか?」
「はい。斥候が直接話したようなので間違いないかと」
「フム、、、、」
男は受け入れられない報告に思わず唸ってしまった。
「ちなみにその女は斥候を見た途端、自らの名を名乗ったそうです」
「名前は?」
男は、厳しい表情のまま、その女の名前を聞いた。
「女の名は?」
「スカーレットと」
日本の高校生にとっての月曜日は例外なく憂鬱なものであると思う。
これはごく普通の高校生の俺、氷室新の持論である。
「暇だなぁ、、、、」
帰りのHRが始まろうとしていたが、俺には遊びの誘いもない。
別にクラスの雰囲気が悪いとかではない。シンプルに俺がボッチなだけだ。かなしい。
「最近はこのあたりで不審者が目撃されているそうです。皆さんも登下校の際は注意するように。」
堅物な教師の一言で帰りのHRは終了した。
「まったくもってすることがないな本当に。部活にでも入っとけばよかったかな。」
実は中学時代までは運動部に所属していたのだが、諸事情により高校では帰宅部として日々精進している。
「とりあえず蒙古タンメンでも買って帰りますかね」
いつも通りの帰り道、しかし違和感を覚えた。
見渡す限りおかしい所はないはずだが、異様な気配を感じる。
いつもなら涼しくすら感じる夕刻に、下着が肌に張り付くのを感じながら、歩を緩めた。
「うわっ」
角を曲がった先で、なにか生き物が車に轢かれた残骸をみた。
犬か猫か、ここじゃあまり見ないがイタチか、それが判別できないほどにその骸はぐちゃぐちゃになっていた。
(嫌なもん見ちまったなぁ、、、、、、、、)
俺は短く手を合わせ、その場を去ろうとした。
「そこの紳士殿、少しいいだろうか?」
「!?」
突然俺は後ろから声を掛けられ、驚きながら後ろを振り向いた。
「驚かせてすまないね。この辺りで白髪の少女を見なかったか?」
後ろには、底知れぬ夜の闇のような目で俺を見つめる男の姿があった。
服の隙間から覗く蛇のタトゥーが、妖艶な男の雰囲気を醸し出していた。
(しかし白髪の少女か、、、そんなものここらで見かけることなんてないんだが、、、、)
「見てないですね、、、白髪の子なんてここらでは見かけないですね」
そう言うと男は少し目を細め
「そうか。ありがとう少年。最近は物騒だそうだ、気をつけて帰るといい」
男はそのまま帰路とは反対へ去っていった。
(ガチで怖かったぁ〜〜〜〜〜っ)
あの男からはただならぬ雰囲気を感じた。もしやあの男こそが不審者なんじゃないかとも思える。
「しっかしここのところ物騒なもんだなぁ、、、、、、」
俺は気を取り直して帰路に着いた。




