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第四話「七歳と、適性鑑定と、笑うな」

七歳の誕生日が近づくと、村に緊張が走った。


 正確には、俺の家庭だけだったかもしれない。ガイは口数がさらに減り、アリスはなぜか頻繁に俺の頭を撫でた。エルナだけは相変わらずで、「てきせいかんてい、たのしみだね!」と跳ねながら言った。


 適性鑑定。


 この世界では、七歳になると王国が派遣する「鑑定士」が各村を回り、子供の魔法適性を記録する。適性の有無が、その後の人生を大きく左右する。冒険者、魔導士、騎士──どの道に進めるかの、最初の選別だ。


 俺はすでに知っていた。自分に何かがあることを。


 でも「何があるか」は、まだわからなかった。


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鑑定は村の集会所で行われた。


 鑑定士は四十代くらいの男で、旅慣れた雰囲気を持ち、腰に鑑定用の水晶球を吊るしていた。名前はベルトと名乗った。


 子供たちが順番に並んだ。エルナは三番目だった。俺は五番目だった。


 エルナが水晶球に手を触れると、球は淡い緑色に輝いた。


「風。強い適性だな」


 ベルト鑑定士が静かに言った。エルナのお母さんが目を潤ませていた。エルナは「やっぱりかぜだった!」と笑顔で振り返り、俺に向かって親指を立てた。


 俺は頷いた。知ってた、とは言わなかった。


-----------------------------------------------------------------------


俺の番が来た。


 集会所の中が、少しだけ静まった気がした。ガイとアリスが並んで立っているのが視界の端に見えた。ガイの腕が、わずかに固くなっているのがわかった。


 水晶球に手を触れた。


 何も起きなかった。


 一秒。二秒。五秒。


 球は光らなかった。透明なままだった。


 ベルト鑑定士が眉をひそめた。もう一度、と言って、俺に球の別の面に触れるよう促した。


 また何も起きなかった。


「……適性、なし」


 鑑定士の声は淡々としていた。記録係が淡々と書き留めた。


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集会所の外に出ると、空気が変わった気がした。


 さっきまでざわついていた村人たちが、俺を見る目が少し変わっていた。哀れみとも、困惑とも取れる目だった。


 ガイは何も言わなかった。アリスは「大丈夫よ」と言ったが、その声は少し震えていた。


(わかってた)


 俺は自分に言い聞かせた。七年間、毎日魔素を感じ、循環させ、観察してきた。だが一度も「属性」を発現させたことはない。炎でも水でも風でもない。ただ、魔素が動く感覚だけがあった。


 前世の知識があっても、これだけは読めなかった。


 この世界のシステムは、単一属性に強く反応する水晶球で適性を測る。では、単一属性に偏らない俺の魔素の動きは──どう判定されるのか。


(答えは「なし」か)


 俺は空を見上げた。夏が終わりかけた空で、雲が薄く流れていた。


-----------------------------------------------------------------------


「アレン!」


 声がして振り返ると、エルナが走ってきた。


 人の集まりの中を、まっすぐこちらへ。人目なんかまったく気にしない走り方だった。


「あのおじさん、変なこと言ってた。アレンは魔素いっぱい持ってるじゃん」


 エルナが俺の目の前に立った。七歳のエルナはすでに俺より少し背が高い。そのぶん、見下ろす形になっているのに、不思議と圧迫感がなかった。


「どうしてわかる」


 俺はぼそっと言った。


「だって手があったかいじゃん。ずっと前からそうじゃん。魔素が動いてる時の感じって、わかるもん」


 エルナは腰に手を当てた。「あのおじさんの水晶がおかしいんじゃないの」と、本当に信じ切った顔で言った。


 俺は少し笑った。笑うつもりはなかったのだが、笑えた。


(おまえ、ありがとうな)


 声には出さなかった。


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その夜、ガイが俺の部屋に来た。


 三歳の夜以来、何度かあったことだ。ガイは話すのが得意ではないが、たまに来る。


「鑑定の結果は、気にするな」


 俺は布団に寝たまま、ガイを見上げた。


「気にしてない」


「……嘘くさい」


「本当に」


 ガイは少し黙った。それからゆっくり、床に腰を下ろした。珍しかった。


「俺も昔、鑑定で火の適性が出た。普通の、弱い火だった。パーティの連中に笑われた。使えない炎だって」


 それは初めて聞く話だった。


「でも俺は、毎日使い続けた。使い続けたら、十年後には誰より安定して燃やせるようになっていた」


 ガイは俺の顔を見た。


「適性なしと言われた子供が、その後どうなるかは、俺は見たことがない。だが」


 一拍あった。


「お前が毎晩魔素を動かしているのは、俺には見えている。そういうやつが、何もないわけがないと、俺は思ってる」


 それだけ言って、ガイは立ち上がった。


「まあ、好きにしろ」


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ガイが出ていった後、俺はしばらく天井を見ていた。


(好きにしろ、か)


 この人はいつも、そう言う。どこへでも行けとも言った。型にはめようとしない。自分がかつて型にはめられた側だったから、そうするのかもしれない。


 俺は手のひらを見た。


 魔素が動いている。循環している。変わらない、毎日の感覚。


(適性なし、か)


 でも俺には、七年間積み上げてきたものがある。前世の三十五年分の粘り方がある。


(笑いたいやつは笑えばいい)


 俺は目を閉じた。


 アレン・ミラー、七歳。


 「適性なし」の烙印を押された夜に、何もあきらめていなかった。


-----------------------------------------------------------------------


(次回)

第五話「老剣士と、山の朝」


 村外れに住む老人と、最初の出会い。

 あの人は、俺の何を見ていたんだろう。

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