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【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し  作者: 有栖 多于佳


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第53話 1度目の世界線 マリアンナの最期

処刑されるまで、その身を拘束する為に入れられる幽閉塔。

そこへと向かう夫オーギュストから、鈍い鉛色の塊を形見として渡された。


マリアンナは、それが《時の扉》を開く為の錠前、時の扉の鍵を挿す為の鍵穴であると、本心から信じていた。


離宮で別居をしていた頃、随分と夫との距離が近づいているように思えていた時分に、

「私が、国王として唯一手に入れた宝物を君に見せよう」


そう言ってある日、人払いをした離宮の応接室で、懐から取り出したのは、古ぼけてボロボロになった紙切れだった。


「まあ、陛下の宝物とはこの紙切れのことですの?」

マリアンナが驚きの声を上げると、

「はは、私には何も無いのは君も気がついているのだろう。いつ倒れるともわからぬこの国で、私が唯一国王として保有している物がこの古ぼけた紙1枚だ」

オーギュストは、そう自嘲気味に笑いながら答えたのだった。


その歪んだ笑顔に、マリアンナの胸がギュッと掴まれて苦しくなり、

「陛下が仰るのですもの、大切な物なのでしょう?」

折り畳まれた紙をそっと広げて、マリアンナがそう言うと、


「ああ、先々代の国王が、莫大な非公式融資の代わりに、バスク王国の国王から受け取ったと言う、《時の扉の設計図》だそうだ。莫大な融資、その金が今アレス王国にあれば、私が出来ることももっとあったのだろうが、今やこの紙のみ」

その紙をオーギュストは指で撫で、


「だが、もしも時の扉を開くことができたなら、私は君を自由な姫君に戻してあげたい」

マリアンナの目を真っ直ぐ見つめながら呟いた。


マリアンナは元より、敬虔な神聖教の信者であるし、神聖典はまるで童話や寝物語のように幼い時から読み聞かせられてきた物であるから、死した後、審判の扉が開かれる時に、その死が正しく無いと神が認めた時に、《時の扉》が現れ、そこに飲み込まれ、正しい時期まで時が遡ると言われていることを知っていた。


時の扉をオーギュストが出現させると言うのなら、その設計図が国王として唯一手にしている宝物だと言うのなら、何を否定することがあろうか。


「では、正しい時まで遡ったその時は、貴方もその背負わされている重荷を放り出してお仕舞いなさいませ。そうして、わたくしと共に自由に幸せに暮らしましょう」

そうオーギュストの手を握って、訴えたのだった。



だから、某かの謀事に嵌められ、離宮に軟禁されるようになった時、夫が寝食を忘れて錠前作りに没頭しているのも、マリアンナの幸せを願ってのことだと素直に信じられた。


オーギュストにしてもマリアンナにしても、神に祈りを捧げる位しか、神の御慈悲に縋る位しか、為す術が無い所まで追い込まれていたのだから。


それでも夫であるオーギュストは、マリアンナに誠実であり、子供たちにも慈しみを持って接してくれているのだ。

彼をとことんまで信じよう、マリアンナはそう思って日々を暮らしていた。


オーギュストが処刑され、マリアンナも子供たちも幽閉塔へと連行された。


粗末な牢獄の中で、マリアンナは朝に晩に神へと祈りを捧げた。


ある日は、子供たちが酷い目に遭っていませんように。

ある日は、真実の悪党が正しく裁かれますように。

ある日は、亡くなった夫オーギュストが神の御下に行けますように。


そうして迎えた処刑の日。

半年にも及ぶ幽閉で、マリアンナの髪は白金から真っ白な白髪に変わり、体は骨と皮だけの見窄ぼらしい姿になっていた。


人民裁判では、嘘ばかりであったがその全てをマリアンナの罪とされ、108の罪状でギロチンでの処刑が決まった。

マリアンナは裁判の席で、

「わたくしは身に覚えの無い嘘ばかりを言い募られてますが、神に誓ってそのようなことを行っていないと断言致します。真実は、神様と亡き夫オーギュスト国王陛下だけはわかっておいでです」

胸を張り、しっかりした口調でそう答えたが、結論有りきの形だけの裁判であったから、マリアンナの声は誰にも届くことは無かった。


処刑台へと一歩一歩と昇った時も、ギロチンに首を固定された時も、刃が首に落とされた時も、マリアンナは背筋を伸ばし、しっかりと目を見開いていた。


処刑に向かう道中のマリアンナは、彼女の周囲にオーギュストの気配を感じていた。


(ああ、貴方そこに居るのね、わたくしを待っていてくれたのね。わたくしは決して嘘は申しておりませんわ、貴方はわかってくれるでしょうね。ああ、愛しい貴方。一緒に神の御下へと参りましょう)


そうして、体から首がゴロリと離れて床へ落ちた瞬間、凄まじい風の渦に飲み込まれ、上も下も右も左もわからぬ濁流に流され、意識が薄れて行き、遠くへと運ばれるような、気がして、視界が暗転したのだった。



目が回る、吐き気が込み上げる。

馬車酔いのひどいもののような、気分の悪さに襲われる。


「気持ち悪い、吐く」


急に起き上がるや否や、盛大に嘔吐した。


「まあ、マリーが吐いてしまったわ、誰か来て!マリー、マリー大丈夫?」


気がつけば、すぐ上の姉カロリーナが、記憶の中の幼い姿で、マリアンナの背中を擦ってくれていたのだった。


(こ、これは、時の扉が開いたのかしら?神はわたくしの祈りをお聞きくださったのかしら?貴方、わたくしのオーギュスト、貴方は確かに国王としての宝物をお持ちであった。そうして、約束通りわたくしを自由な姫に戻して下さった。貴方の、大いなる愛に感謝します)


一瞬で脳裏に浮かんできた夫への感謝と愛であったが、酷い吐き気によって何も考えられなくなり、その思いは、幼いマリアンナの記憶の奥底に封じ込めてしまったのだった。


そして、その恋心を、夫の深い愛情を思い出すのは、マリアンナが成人して婚約者を決める年頃になった時、それには長い長い時間を要したのだった。









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