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【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し  作者: 有栖 多于佳


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第49話 1度目の世界線 アレス国王オーギュスト

第一身分と第二身分に課税するという議案を扱った三部会が散開してしまった。

これによって、オーギュストを支持していた平民たちに失望が広がった。


アレス王国 国王オーギュストは、代々のアレス王族とは全く違っていた。

アレス王族は、黄金を煮詰めたような濃い金の髪と澄んだ海のような紺碧の瞳が特徴で、父の王太子も、兄たち2人も、心底嫌悪しているが父の弟、叔父シャルルも父の妹の3人の叔母たちも、みな同じ色を纏っていた。

体も背も高くスラッとしていて、舞台俳優のような見目形に、その寵愛を受けたいと多くの者が群がった。

故に、叔父と叔母たちは神聖教の教えに叛き、姦淫に耽り道徳心は無くなっていった。


そんなアレスの王宮で、母の色味のグレーの髪に紺のような深い青の瞳を持ち、ネプトス王国民の特徴である骨太の巨体な体躯をしたオーギュストは王族内では浮いていた。

王宮に住んで何をするわけでも無い、大嫌いな叔母達はあからさまに、自分達の色を纏わぬオーギュストをハズレ王子と蔑んでいた。


アレスの王宮で、国王の愛人が王妃を蔑ろにして我が物顔で闊歩し、それに腰巾着が揉み手で取り巻いている様子などを見れば、国にも王族にも愛着も尊敬も持ちようが無かった。


どうせ第三王子だ、父に頼んで小さくても良いから出来るだけ王都から離れた領地を拝領するか、他国の大使として国を離れるかを願い出ようと考えるほど、冷めた子供であった。


そんなオーギュストが、両親、兄弟を相次いで亡くし、たった一人の王族として、戴冠することになり、後見として帝国の姫君と婚姻を結ぶことになった。

輿入れとして婚姻の半年前にやって来た姫は、白金の髪に薄い青瞳の美しい少女で、王宮で見かけるようなけばけばしく、鼻が曲がるような香水を振りたくった女狐たちとは異なり、朗らかににこやかに笑いかけてくれる、その素直な姿に荒んでいた心が癒されるような気がした、のだが。


幼いとは言え、国王である。宰相に倣って執務を行わねばならない。

婚約者となったマリアンナとは会えぬまま、迎えた婚礼の式典の場に立っていたのは、あの大嫌いな叔母達を模倣したような佇まいの子狐姫君であった。


変わってしまった彼女に失望して、初夜の閨で、

「お前を愛することはない、弁えろ!」

と言い捨てて、部屋を出ていってから長く没交渉が続いた。


顔を会わせることも稀な王妃の悪評は、聞きたくなくても耳に入ってくるもので、その度に胸に広がる苦い不快感に顔を歪めた。

しかし、ある時、聞き捨てならない噂が飛び込んで来た。

王妃が他国の貴族を愛人として囲っている、そんな噂が王宮内で急速に広がっていた。

只でも浪費家、横柄、身分を笠に着た態度と悪評に暇が無い、悪役王妃がとうとう愛人まで囲っているとは見過ごせないと、王妃に面と向かって叱責をすれば、

「わたくしは、乙女です。証明してご覧にいれましょう」

などと、目を吊り上げて反論してきた。


帝国から兄皇帝のカールヨハン1世が、宮廷医師団を引き連れてやって来ると、

「もし、乙女であったと証明された暁には、我が妹姫を返してもらおう。また帝国への誹謗と受け取り、それ相当の慰謝料も請求するから覚悟せい」

冷たい目を向け、横柄に背を反らしてそう言い放ってきた。


これには、アレス王国側の閣僚達から、

「お、穏便に穏便に。陛下、帝国と袂を分かつのは悪手でございます。何卒、穏便に事をお納め下さい」

そんな声が上がったのだった。


皇帝カールヨハンは、夫の自分と皇帝自らが証人となり、双方の医師団に見聞させて、一辺の疑いも無い乙女の証明をさせた。

まだ、閨も共にしていない、自分の妻を多くの耳目に晒す行為に眉を顰めたが、

「それをお主らが求めたのだろう。もし、少しでも疑いがあれば、また嘘をばら蒔いて我が妹を貶めるのだろう。私は正しく真実を知らしめる、それに文句があるのなら、お主らの不備を認めて膝を突いて謝罪しろ!」

強い言葉での叱責に、アレス側も折れる訳にもいかず、皇帝の言う通りの検査となった。


王妃マリアンナの乙女の証明が為された。

離婚して、帝国へと連れて帰ると言って引かぬ皇帝に、全閣僚が宥めすかして、離宮での別居をすることとなった。

帰り際の皇帝から、

「時が戻るなら、お前はどうする?」

そう問われ、

「あの初夜の晩に戻って、王妃と仲違いせぬように努めましょう、いや、もっと戻って父や家族が死ぬ前に戻って私がアレス国王などにならぬように努める方がみなの為でしょうか」

そう答えた。

「ふん、お前の周りは悪党ばかりだ。せいぜいこれ以上マリアンナに近寄らせぬようにな」

そう厳しい言葉を残して、帝国へと去っていった。


離宮で暮らしている王妃の悪評が、なぜか止まらない。

悪意の全てを王妃へと仕向けているような、そんな企てを感じていた。

自分の周りには、幼馴染みの護衛騎士ロランしか信用をおける者が居ない。

どうにか、出所不明な王妃の悪評の火消しを図っても、それを凌駕する勢いで悪い噂が出ては広がり、また新しく出てきては広がっていく鼬ごっこだった。


そんな王宮でのことなど、気にかけることもなく過ごしている王妃から、再三手紙が舞い込むことになった。中身は市井の人々が苦しんでいる様子の報告であった。

最後の言葉は、毎回、陛下の御慈悲を賜りたく、と横柄さの欠片も見えない。


そんな王妃には生活費が離宮へ届けられていない事実を知る一方、居ない王妃が王宮内で今までに王妃の歳費以上に増し、その全てが浪費されていることも知った。

その矛盾を財務官に調査をさせてみれば、あの大嫌いな叔母たちとその取り巻き達が王妃の名で勝手に使っていたことがわかった。

過去に遡ってみても、王妃個人の浪費と言えるようなものは、夜会の衣装代位のもので、それだって離宮へと行ってからは夜会に出ないので、使用されるはずが無いのに、同じ科目で使用されていた。


国費の私的流用の証拠を手に入れ、過去に遡って叔母達の罪を問い財産を没収して弁済させた。

王宮からも追い出して、アレス王国で1番厳しい聖レナード島女子修道院へと追いやったのだった、禁固刑相当であった。


そうしてようやく、王妃の下へと謝罪に赴き、初めて話らしい語らいをした。

王妃は、マリアンナは、王宮で見かけたようなけばけばしいドレス姿ではなく、柔らかい木綿の布を何枚も重ねたシュミーズドレスと言う簡素な服を着て、素顔に近い薄化粧であった。

それは、初めて会った日の面影のままで、忘れていた恋心が疼き出すのがわかった。


マリアンナについて、平民の市場を見学すると、市場に物は無く、商人街ではかつての数倍の値段がつけられていた。

修道院に併設された孤児院には子供が溢れ、みな腹を空かせていた。

いや、腹を空かせているのは孤児ばかりではなく、平民はみな痩せ細り空腹に喘いでいた。


いつからこんな状況になっていたのか!

自分の無策に愕然として、王宮に戻ると宰相始め閣僚たちに現状の打破を指示した。

指示に従う者は無く、裸の王様であることを痛感して項垂れた。

項垂れて済む問題では無い、根本的な解決にはならなくとも出来ることからやろうと、私費で平民への炊き出しを行った。


王宮で執務を行い、夜間や休日に離宮でマリアンナと過ごす日々。

マリアンナは、信心深く優しく、華美を好まず自然と芸術を愛する、そんな女性と知った。

彼女に過去の自分の非道な態度とわざと聞かされる、マリアンナの悪評に囚われてしまった自分の不甲斐なさを詫びた。


離宮の庭の芝生に夕日を見ながら二人で座っていた。

マリアンナの横顔は、夕日に赤く染まりとても美しくて、自制しようにも、言わずにはいられなかった。

「マリアンナ、どうか、もう一度わたしにチャンスを貰えないだろうか。貴女を生涯愛し、何物からも守ると誓う」

初めて彼女に愛を告げた、私たちの顔は先程よりももっと赤く染まっていただろう。


マリアンナに愛を乞い、それを許される幸せ。

一時の、瞬きほどの短い幸福な時間。


私とマリアンナは、真の夫婦となった。

マリアンナは家族のいない私に、愛する妻という家族になってくれたばかりでなく、王女と王子という宝物まで授けてくれた。

私は、国王として、いつ倒壊するかわからないこの国を支えなければならない。

しかし、心の底では、そんなものよりも、愛する妻と子供たちだけを護れさえすれば良い、私は所詮ハズレ王子なのだから、そう思っていたのだ。


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