第32話 アレス王国の王族たち
申し訳ありませんでした。予約日時を間違えておりました。
「リーナ姉様、アレス王国は、アレス王族は今どのような感じになっておりますの?」
2度目の世界において、マリアンナ自らがアレス王国について尋ねたのはこれが初めてであった。
「ふふ、悪夢の恐怖に怯え閉じ籠もっていた殻から、外の世界に出てきたのかしら」
カロリーナはそう言って笑うと、流行りのスウィーツを教えるような軽やかな口ぶりで話し出した。
「まず、あなたがとーっても嫌いなアイツ、いえあの野郎でしたかしら、国王シャルルについてね」
「え、そこから?」
「まあお聞きなさいって。あの野郎は、現在、国王の権利を極限まで強めていてね。王宮内、王国内の至る所に秘密警ら隊を放ってて、少しでも王族に批判的な事を話そうものなら、直ぐ様捕らえられて政治犯収容所へと送られてしまうのですって。だからあの首飾り事件で批判的な記事を書いた新聞社は取り潰しの上、全従業員が監獄行き。ちょっと夜会や茶会で批判した貴族も夫人もみな捕縛されて取り潰し、その身分は裕福な商家に売ってお金と支持を得ているそうよ」
表情の抜け落ちた顔、抑揚の無い声色で話すカロリーナは、兄皇帝に良く似ていた。
「それじゃ、とても息苦しそうね」
「そうね、しかも秘密警ら隊はアレス国民への緊急時殺傷許可も持っているから、かなりの数の市民が亡くなっているそうよ」
「まあ、なんてこと!」
マリアンナは眉を寄せて非難した。
「まあそんな調子だから、表立って批判的な者は居ないようだけれど、全く人気や人望は無いわね」
「そうでしょうとも。でも確かオフィー姉様がお茶会で後数年で内乱になるとか仰ってらしたわね」
マリアンナはカロリーナに、そこのとこはどうなの??と目線で質問を投げた。
「そんな状況だから政治犯収容所は常に満杯、平民もブルジョワも貴族も一緒に詰め込まれているのですもの、普通はそこで出来てしまうのでない?批判的な革命組織が」
カロリーナは、当然のことと言わんばかりにそう答えた。
「そりゃそうでしょうとも」
納得のマリアンナが目を見開いて、首をコクコクと振っている。
「第3身分の課税も強化され、今も重税って苦しんでいるアレス国民ですもの、今後不作や疫病などが広がってより生活が苦しくなっていったら、革命が起きるのも時間の問題でしょうね。ま、革命というか、国王シャルル退任を求めた武装決起か」
カロリーナが目を細めてうっそりと嗤った。
「その時、正統な王位継承者として名乗りをあげる者が居たら?」
「あ!」
「そうよ、シャルル国王は兄王太子とその子を殺して無理やり王位を奪ったと噂されているのですもの、正統な後継者にすげ替えたいと思っている者たちはどこにでもいるでしょうね」
「じゃあ、その時まで、」
「その時初めて神聖帝国に亡命していること、王位簒奪者の糾弾、国王としての正統性を主張する声明を出すのでしょう。どちらかの王子が」
「どちらかって、」
「だって普通にいったら、次代の国王は次男のシャルルフリップ王子殿下でしょ?」
カロリーナは然も当然と言い切った。
普通に考えれば、スペアは次男の王子に決まっている、マリアンナもそれは理解するが1度目の世界とこうも変わってしまって良いのだろうかと不安になる。
「悪夢と違って当たり前でしょ?オフィー姉様たちの活躍で、母親の元王太子妃もご存命なのよ。来る時までお二人は辺境伯領で力を蓄えておられます」
カロリーナが優しく微笑んでそう告げた。
「オフィー姉様の領地で?」
「そうよ、あそこでヘルメス公国、ネプトス、クロノス両王国なんかの王候貴族と繋がりを深めておられるわ。そうして、三男のオーギュスト王子は、オーグと名乗って我がリンネ王国のシロスク地区で機械設計技師として働いているのよー。うふふ」
カロリーナの目が三日月のように細くなりとても楽しそうに笑って言った。
「ええー!技師って平民として働いているの?」
マリアンナは驚き過ぎて飛び上がって叫んだ。
「マリー、声が大きいわ。淑女失格ですわよ」
如才なくそう注意したものの、カロリーナはしてやったりの顔つきである。
「い、いつからですの?」
マリアンナはじっとりとした半目で睨む。
「そうねえ、始めにお会いしたのは2年前ね。帝国との共同作業所に見慣れない技師が働いてたので、声をかけたのよ。そしたら、どこかで見かけた顔だなと思ってね。フリード王にお聞きしたらニヤニヤして、『誰だと思う?』って。オーギュスト王子殿下とやっとのこと思い出したのよ。陛下は本当に秘密がお好きで性格がお悪いのよね」
その時の憤りを思い出したのか、急に怒りのスイッチが入った姉に、
(リーナ姉様も似たり寄ったりですわ)
と心で呟くマリアンナであった。
「で、彼は何を作っているの?」
マリアンナが問うと、
「石炭燃料による蒸気利用の機械。マリーが陛下にお願いしたのでしょう?豆を絞る機械を作ってって。それを彼が責任者でやっているのよ。ちょうど最近、成功したので陛下がわたくしを迎えに来る時に彼も連れて来てマリーに説明させるおつもりなの」
カロリーナはニタリと笑いながら答えた。
「ええええー!」
マリアンナはのけ反ってもう一度叫んだのだった。
ジャンルを恋愛に変更しました。




