花好き青年
待ちに待った休日。今日は何処へ行こう?大きな本屋、服を買いに、近場のショッピングモールへ。この辺にはたくさん遊べる場所があり、迷ってしまう。そういえば近くの公園でお姉ちゃんが冬のフラワーフェスティバルがあるって言っていたような。まだその公園に行ったことがないからそこに行こう。
花は大好きだ。その花一つ一つに意味がつまっている。例えば、薔薇にはあなたを愛していますという意味がある。それに対してトリカブトという花は、あなたは私に死を与えたという花言葉がある。まあ、綺麗な花でも見かけによらないということだ。
「こんないっぱいの花に囲まれたら昼寝したくなっちゃうよねー…」
そういいながら芝生の上に倒れこむように寝転んだ。こんなゆっくりとした時間を過ごすのはいつぶりだっけ?きっとこの世界に来てからは慌ただしく生活してたのできっと凄く久しぶりなのだろう。
まだ一月なので少し肌寒いが花達を見るとそんなことも忘れてしまう。
目を閉じて思い出そうとする。現実のことを。私は女子高生で…。あれ?本当の名前は?家族構成は?わからない。頭の中の記憶を手繰り寄せ、思い出すのはこの夢の事ばかり。現実のことを思い出そうとすると激しい頭痛が襲ってくる。頭を手で抑える。次第に涙が溢れ出す。どうして?
「どうして思い出せないのよっ!」
「どうした?」
涙で霞んで相手の顔は見えないが確かに男性が私の顔を覗き込むように様子をみていた。
「あなたには関係のないことです」
すたっと立ち上がりまともに相手の顔を見ようとせず私は、帰ろうとした。しかし、それは相手の男によってはばかれた。その男は私の腕を掴んできて自分の胸に引き寄せたのだ。
「泣いてる」
「なんで初対面の男性に抱きしめられないといけないんですか」
「泣いてる女の子には優しくしろって結城が言った」
だけど抱きしめることはないでしょう。…えっと。まてよ?この声聞き覚えがあるような…。しかも結城って言った?ちょっとまって!
私は力ずくで相手の腕から抜け出し顔を見た。ああ…もう嫌です。攻略対象全員に会ってしまいました。最後の1人は御子柴紫苑。由緒正しい家柄の長男だ。肩までの白髪で瞳は紫色。言葉が少なくてちょっとぬけているところもあるが、まあやるときはやる男。テストの成績はいつも首位で武道にも長けている。
「ちょっとまってろ」
そういって彼は近くの花壇へ行き、白い花を5本ほど丁寧にハサミで切ってきて、私に渡した。そしてハンカチを取り出し私の涙を拭う。
「何で花を…」
「その花の香りは人を落ち着かせる効果がある」
貰った花のを鼻に近づけてみる。…本当に落ち着く香り。しかし、無断に花を切ったりしてもいいのだろうか。
「花、切ってよかったの?」
「俺の家が催したから」
成る程ね。流石花好き一家だわ。あまり花が咲かない冬に花の催しものを開催するだなんて。
「私帰ります。ありがとうございました。ハンカチ返しますね」
「いい」
彼は私にハンカチを押し返した。まだ使っていろということだろうか?もう泣いてはないはずなのだが…。
私がハンカチをどうしようかとハンカチと睨めっこをして、やはり返そうと決意し、彼の方をみたら、そこにはもう誰もいなかった。なにをしたいのかわからない人だ。
*
私は今、高等部の正面玄関にいる。何故私がここにいるかというと、御子柴紫苑を待っているのだ。彼にハンカチを返さないといけない。この前、篠崎君に自分で借りたものは自分で返せと大口を叩いてしまい、お姉ちゃんに渡したかったが思い止まり結局自分で返すことにした。
まだなのかしら?ここにいるとけっこう目立つんだけど。
「あれ?ひーちゃん!どうして高等部に!?」
「おはようございます。有栖川先輩。ちょっと御子柴先輩に用があって…」
「ああ!しーちゃんね!もうそろそろ来ると思うんだけど」
どうやら有栖川先輩は人の名前の頭文字をのばし、それをニックネームにする癖があるらしい。鳳先輩のこともけーちゃんとかと呼んだりしたりしているのか?
「ひーちゃん、きたきた!おーい!しーちゃん!可愛いお客さんだよー!」
有栖川先輩が大きく手を振って御子柴先輩に場所を知らせる。すると気がついたのかゆっくりと歩み寄ってきた。
「おはようございます。この間はありがとうございました。これ、貸してもらったハンカチとお礼のクッキーを焼いてきました」
これ以上高等部にいたくないので御子柴先輩の手に持たせ私はダッシュで中等部に戻った。
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「ええ!しーちゃんいいなぁー!ひーちゃんからのクッキー!…で、この間ってなんのこと?」
「泣いていたから抱きしめた」
「泣いてた…って!?えええ!!!抱きしめたって抜け駆けは駄目だよしーちゃん!」
「お前が泣いてる女には優しくしろと言った」
「言ったけど抱きしめろとは言ってなーい!!!」
「あいつの顔。どっかでみた。あいつの名前は?」
「おーちゃんの妹の雲雀ちゃんだよ。てか、知らない人なのに抱きしめたの!?」
桜花の妹。姉の金とは反対の銀の髪。とても綺麗だった。抱きしめた時もいい香りがした。もう一度会いたい。桜花の家に行けば会えるだろうか?今度、雲雀に会いに行く時は薔薇の花束を持っていってやろう。きっと大きな瞳をもっと大きく開いて驚くだろう。
次回会うのが楽しみだ。
攻略対象全員出揃いましたがもう2人主要人物がいます!