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僻地の門番の話。  作者: 多喜
3/22

目指すはマッチョ紳士

さて、どうしたものか。

木刀の持ち方もわからず腕を下げたままのジンにクラウンがいい笑顔を浮かべていった。


「ちなみにこれ実地試験兼ねてっから!」


「・・・・!!」


内容は単なる追い討ちであるが。


マジか。実地試験、試験ということは合格の可否があるということか。

一回も打ち合いなんてしたこと無いんだから負けは必須。

さすがに勝てとは言わないだろうが一本も取れなければ不合格かもしれない。

ソレすなわちニート!!ソレは困る!

口調や性別どころか出生すら安定していない人間がつける職業なんて限られているのである。


一撃、ともかく一発でも入れる、後はさっさと負けてしまおう。

うちあいなんかして隙をうかがうなんて高等なこと素人には無理。

つまり最初にかかっている!


試験の合否はもちろん大事である、しかしそれ以上にジンにとって大切な事がある。

かっこいいかどうか、だ。

それはBL的には大切なスペックだ。

無駄に目立つ体格で、いくらなんでもあまりにかっこ悪い姿をさらすのはごめんだ。


ぶつぶつ自分の世界に入ってしまったジンにコリーはやれやれと肩をすくめた。

いつの間にか増えた野次馬にじろじろ見られている新しく後輩になるだろう男に同情する。

しかし一緒に働くなら指揮官のこの程度の理不尽にはなれてもらわないときっと後がつらいだろう。

可哀相に生贄よろしく大勢の目にさらされている新人を救済する意味も込めて早く負かしてやろうとコリーが先に動いた。



ヒュっと風をきってコリーの木刀がジンの喉元ぎりぎりに向かってくる。

ジンはなんの構えも取っていなかったので最初は寸止めにするつもりで軽く振る。


しかし振り切ろうとしたところでジンが一歩前に踏み込んでくる、長身にみあう長い手足だ距離がつかめない。

コリーは油断してうかつに踏み込んだことを恥じつつ一歩後ろに引いたが、まだ近い。

そこへジンはおもいっきりうえから木刀を振り下ろした。



びぃぃぃぃぃんと震えながらコリーの持っていた木刀の先がクラウンの背後に地面に突き刺さった。

コリーは木刀の持ち手を握ったままだ。


最初の一撃を狙っていたジンは軽く踏み込んできたコリーの木刀を、自身の持てる力の全力をもって叩いた。

ジンは刃物と言えば薪割りに使った斧だったのでその要領で思いっきり振り下ろしただけである。

コリーはしっかりと木刀を構えた。コリーは受けきる自信があったが、本日持っているのは手に馴染んだ武器ではない。衝撃に耐え切れなかった木刀はばっきり折れて吹っ飛ばされクラウンの頬を掠めて地面に突き刺さった。



だれも声をださない。

最初にわれに返ったのは経験豊富な指揮官のクラウン。


「勝者、ジン!」


瞬間、見ていたものたちがわっと声を上げた。


ジンを褒めるもの、驚きを示すもの、やじるもの声はさまざまだがおおむね好意的な意見が多い。

野次馬の傭兵達からすれば新たな仲間が強いにこしたことはない。

他の志願者はただ今見た光景に興奮して、流派がどうとかいろいろ言い合っている。


そんななかでジンは自分の腕と木刀をみおろす。

出来たほうがかっこいいから武道は学ぼうと思ってたが、予定よりもっと早く身に着けないと不味いかもしれない。まさか木刀が折れるなんて思わなかった。


ぎゅっと口元を引き締め視線を地面に落とす。


マッチョとして体格差ネタはいいが、腕力のコントロールが効かないなんて野獣系はうっかりするとエロからグロに移行しかねない。

そんなバットエンドフラグ立ててなるものか!脱野獣!目指せマッチョ紳士!!

彼はきりりと真面目な顔で新たな目標を立てていた。



クラウンは、折れた木刀を見ているジンを横目で伺った。ジンは動かない。

木刀が掠めた頬からかすかに血がにじんだがぬぐいもせずジンを見る。

あまりにも簡単に壊れて驚いているとでもいうのか、しかし本来木刀はそんなに簡単に折れるものではない。

この男普段どんな得物を使っているんだ。



「元気なのはいいが、これから寮なんだから加減しろよ。」


また腕を下げてしまったジンから木刀を取ってぽんっと片を叩く。


「ほら、オメーもさっさと移動する。」


まだやれるといわんばかりに不満そうな副官からも木刀を奪う。切れ端だが。


「じゃ、このまま全員模擬戦しちまおう。相手はだれでもいいから、新人どうしで三戦ぐらいな。」


適当に指示をだして野次馬していた奴等にセコンドを任せる。

しかし先ほどの光景を見た後でジンと打ち合いなんてしたいものはおらず、妄想にふけっていたジンは一人壁と仲良くなっていた。

クラウンはそちらは監修していたものがフォローするだろうと高をくくっていたが、現役傭兵からしたら強いのわかったし、ジンが何も言い出さないので平気だろうと放置されていた。


そうしてしばらくしてクラウンが戻ってみると、すっかり壁と一体化しつつあるジンがいた。

周りには打ち合いをして何がしか話したのか仲良くなりつつある何名かのグループ。

ジンにちらちら視線を送るものも居たが、飛びぬけてでかい男に話しかける勇気が有るものは居ないのか放置されている。


そもそも本人が他の人たちの打ち合いを見ることを強く望んでいるのだからどうしようもない。

壁にもたれながらまくれ上がる服のすそとかを凝視しているとかかなりの変態っぷりを発揮していたが、きりりと口元を引き締めて背筋を正してるだけで真面目に観戦しているように見えるのだからお得な見た目である。


しかしはたから見れば完全なひとりぼっちである。少なくともクラウンからはそう見えた。

もしかして最初に打ち合いをさせたのが不味かっただろうかとなんとなく罪悪感を感じたクラウンの手によってジンは二人で一部屋の寮で一人部屋を与えられることになった。

体格のことも考えた彼なりの配慮である。

二人部屋でいいのにと残念に思ったジンの意見はさておき。


ジンに邪な目で見られることになるであろう同室者を知らずに救うあたり、クラウンは優秀な上司であった。

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