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僻地の門番の話。  作者: 多喜
15/22

見えるものと、見えないものと

他人から見た二人のお話です。

ここの店主は見た目50代ぐらいのイメージです。

人間は魔族の本名を正しく発音することが出来ない。

ソレは各々聞こえる音域の幅が違うためだ。

正確にすべての音を聞き取ることが出来ないのだから、発音も聞こえる範囲でしか出来ない。


ジンがルーク鳥バージョンの鳴き声を変な音と感じたのもその辺に理由があったりする。

きちんと聞き取れたところでさらに耳障りな度合いが増すだけの可能性もあるが。


固体差は聴力だけでなく、視力にもある。


そして人間に聞こえない範囲が魔族に聞き取れるように、魔族に見えないものが人間には見えたりすることもよくある。

ルークがかけられた呪がジンには糸のように見えていたことがソレに当たる。

とはいえ人間で魔力が見えるものはごく一部のものだけであるが。


そういったものは潜在的に魔力が高い。

魔力が高く特殊な能力を持った魔族と契約したがる人間が多いように、魔族の中にも能力の高い人間を求めるものが居る。


店主のワーグナーは縦に長い瞳孔をさらに細めて自分の店に入ってきた客を見ていた。

薄い黄緑色の肌にオレンジ色の髪、中にはちらほら白髪も生えている。彼は暴走したルークの被害からうまいこと逃れた商人である。


彼が扱っているものは薬に香辛料、武器に火薬とさまざまである。

なかでも魔族相手にだけ特別に扱っている商品がある。

ソレは人間だ。

とはいえ荒事は彼の得意とするところではない。彼は魔力の高い人間を振るいにかけ目印をつけて、ほしいというものに教えるだけだ。


方法は簡単、商品の一部に呪をかけておく。内容はなんでもいい。持ち主に祝福を与えるものでも、力を与えるものでも狂わせるものでも。まあ変な噂が立つと困るのでたいていは祝福や力であるが。

それに反応した人間に売りつける、それだけだ。


後は自分が仕掛けた呪をたどって情報を魔物に売りつけるだけでいい。

無茶をして返り討ちにあう魔族もいたし、契約が成されず姿を見なくなった人間も居た。

長いこと同じように商売し続けてきたが結局契約が成功したのは一組だけっだった。


彼にとって魔族も人間も等しく客であり、それ以上もそれ以下も無い。

しかし人間と契約を結ぼうとする魔族の気持ちは全くといっていいほど理解できなかった。

人間は必要も無いのに嘘をつく。そして酷く移り気だ。

たった数十年しかない一生を態々誓い、数年もしないうちに目移りする様子は滑稽を通り越して哀れでさえある。あの種族はいつだって新しいものを探しているように見えた。


大切なものを大切に出来ない。

そうして失って嘆くなんて分かりきった展開、もはや喜劇だ。


カラン。


入り口に取り付けた大きなベルが来客を知らせる。

おや、これは久しぶりに上客だ。

ワーグナーは笑みを浮べる。売りつける人間は魔力はもちろん大事だが、見た目だっていいに越したことはない。

交渉材料は多いほど値があがるというものだ。


入ってきたのは男。人間には珍しいほど長身でしっかりと鍛え上げられた筋肉に長い手足と均整の取れた体をしている。

顔は少しいかついが、そこそこ整っていて醜男というほどではない。むしろ身体つきからすればちょうどいいぐらいだ。


さて、問題は魔力だとワーグナーは眺めていると男はすぐに反応を示した。

ああ、それに気が付くなんてなかなか良い目をしている。


男が手に取ったのは一振りの剣である。

装飾の派手さも無ければ業物でもない。影にひっそりと置かれたソレは魔力に気が付かなければ存在自体気が付かないような代物だ。


想像以上に上客らしい。

ますます笑みを深めたが、男が自分に近づくにつれ二種類の魔力を感じた。

男には既に契約者が居るらしい、残念ながらそれでは売り物にならない。

しかし珍しい。そういった客として騎士や術士を相手にしたことはあるが紹介意外で契約者が店を訪れたのは初めてだった。

相手のものと思われる魔力は男に良く馴染んでいる。仲がいい証拠だ。


ワーグナーは店の奥から石を取ってきた。

2センチほどの球体の赤い石。

かけられた呪は魅了だ。持ち主に魅了の力を与えるわけではない。待ち主を魅了するものだ。

かけた人物は分からない。とても古い呪で、持ち主どころか周りに居る者たち、人間どころか魔族まで巻き込んで一つの国を滅ぼした代物だ。今は多少効果が薄れてきてはいるが一個人には十分すぎる力が残っている。


手袋越しに石を取りにんまりと笑む。


「おにいさん、なにかお探しかね?」


ちょっとした悪戯心だ。


魔族は所有欲が強く嫉妬深いものが多い、対して人間は移り気で新しいもの好きな傾向がある。

契約はお互いの魂を縛るが、所詮は目には見えないものだ。

魔力としては一生つながり続けるが物理的に側に居るかどうかは気持ち一つである。


「綺麗だな」


石を受け取った男の後姿をワーグナーは見るともなしに視界に入れる。

さて、どうなるか。


そんなものでは何も変わらないという事を信じたいのか

所詮人間なんてそんなものだということを示したいのか


ワーグナー自身よく分からなかった。




翌日、昨日の男が石を返しにやってきた。


「なにか気に入らなかったかい?」


「いや、俺は綺麗だと思うが。」


「嫌がられたかい」


ワーグナーは誰に、とは言わない。

人通りは少ないが誰に聞かれるか分からない場所で魔族だ何だとは口にしないほうがいい。

騎士や術士でもなく契約を結んでいる男なら何か事情があるのだろうと考えてのことだ。

ソレぐらい察することが出来なくては商人なんてやっていけない。


「別にお客さんが持っていて、見せなければいいのではないかね。そうそう手に入る代物じゃあないよ。」


「止めておく。嫌がるものをそばに置きたくない。」


「いいものなんだよ、お客さんなら大切にしてくれると思ったんだがねえ。」


「なら余計にお返ししなければいけない。俺にとって大切なものはもう手に入っているから、それと比べたらどうしたって後回しにしてしまうと思う。」


どうやら意思は固いようだ。

そこまで思われている契約者は幸せなことだろう。しかしそうなるとなお更この石を持っていってほしいような気がする。

あくまでただの装飾品の一環として扱ってくれるなら店の奥にしまわれているより余程石だって幸せなことだろう。


「ただ置いておくだけでも駄目かい?」


「・・・大切なものは唯一無二だからこそ余計に価値があるというものだろう。」


そういって男は薄く唇の端をあげる。

男は見た目よりもずいぶん情熱的なようだ。若さゆえ、とも取れるがその暑苦しさはそう嫌いではない。


もっと男が年をとって、それでも変わらずに居たのなら。そのときは客として歓迎してやろう。


男が店を出た少し後。

入れ違うように入ってきたものが居る。頭からすっぽり布をかぶっていて、口元しか見えないが魔力からして男の契約者のようだ。

契約者は少し考えた後あたりを気にしながら口を開いた。


「あの石にかけられた呪は生き物にかけることは可能か?」


「・・・申し訳ありませんがワタクシがかけたわけではないので。」


「そうなのか。」


肩を落とす契約者を見送る。


生き物、といったが多分自分にかけるつもりだったのだろう。ならばもちろん対象はあの男。今以上にどうなろうというのか。


それもまた若さゆえだろうか。それもまたいやではなかったが二人そろうと実に暑苦しい。


数年したら歓迎するから、それまで少なくとも数年間は店に来ないでほしいとワーグナーは切実に思った。



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