ジンの長い休日-ルークの帰宅-
今更ですがこの小説のヒロインポジションはルークです。
多分いつか攫われたりして酷い目に合います(犯人が)
いつもならばルークはドアを開けると羽を広げて飛んできてジンの腕に止まる。
ジンは羽をたたんだその身体をぎゅぎゅっと抱きしめて目元の毛色が違う部分に唇を落とし羽毛の柔らかさを全力で堪能する。
今日もジンはそのつもりで部屋の扉を大きく開け放ち荷物を中に放った。
「ルークー!昨日はごめん、謝るからとりあえず抱きしめさせてー」
いつもならここで耳障りな鳴き声と広げた腕のどちらかにずっしりと重い衝撃が来るはずであった。
「私こそ、早合点で飛び出して申し訳ありません!」
そして体当たりするような結構な衝撃をもって抱きつかれた。
何が起きたこれ!!
ててててて、天使が俺の部屋に居る!!
いやだって翼はえてるもん!声とかめっちゃ澄んでるし、天使以外のなんだっていうの!え、ってかなんで天使!?
どういうこと、なにが起きてるの、俺疲れすぎてまた死んだ!?そういう感じ!?
慌てふためきながらジンはとりあえず目の前の天使に気づかれないように、後ろ手で部屋のドアと鍵を閉めた。
思わずやったにしては手馴れすぎである。
よしこれでオッケーだ。なにがオッケーかは知らんがオッケーだ。
だきついたまま天使は不安そうにジンを見あげてきた。
はからずも上目使いである。ジンの理性に1000のダメージ
理性はほうかいした!!
ってだめだろ落ち着け俺!俺は紳士俺は紳士俺は紳士。
後ろ手で鍵を閉める行為が紳士的であるかは別として、表面上は無表情を貫くあたり紳士な暗示は効いているといえる。
しかし混乱しているのはなにもジンだけではなかった。ふだんなら挨拶とハグと目元キスはワンセットなのに今日は抱き返されない。どういうことだとルークは困惑していた。
まさか私の容姿が気に入らないとでも。そんな馬鹿な。
自問自答であるが答えが即効過ぎて解決する気配が無い。
再度ぎゅっと腕に力を込めてみる。
するとジンはいつものようにぎゅうっと抱きしめてきた。
いやだってここは抱きしめるところでしょ。
目の前で天使がこんなにかわいらしいのがいけないとおもいます!
抱き心地は・・・硬い。これたぶん腹筋六つに割れてる。そのぐらい硬い。
だが部屋に天使が待機していた事実に比べたらまったく瑣末なことだ!
天使の柔らかそうな髪に顔をうずめて匂いをかぐ。髪は柔らかそうっていうかめっさ柔らかいです。
フローラルの香りとかマジ天使!
「フローラル・・・」
なんかこの匂いかいだことあるな。
なんだろう、ものすごい既視感だ。
髪に鼻をつっこんでクンクンと匂いをかぐ。
ジンは既視感を確かめる意味半分、柔らかい髪質とか堪能する気持ち半分である。
相手がルークであるからまだいいものの実際初対面の人間にやったら明らかに変質者だ。
ふわふわふかふか・・・・
「ルーク!?」
ルークと同じ匂いだ!天使のフローラルな香りは俺がルークを洗うときに使ってる石鹸と同じ香りだ。
っていうかルークどこいった!?
「はい」
腕の中から返事が返される。
ああ天使もルークって名前なのかと心のメモに書き付けておく。
「いや、お前じゃなくて。」
「私ではない・・・?」
ちょ、こわああああ!
何が天使の逆鱗に触れたのかはわからないが、なにかものすごく目つきが怖くなった。
「私以外にルークという知り合いが居る、と?」
俺を抱きしめている腕にさらに力がこもる。ぎりぎりみしみしと自分の身体が締め上げられているのが分かる。
ウエスト細くなる!これウエスト細くなるから!くびれる!ひょうたんみたいになる!
しかし腕の力よりなにより目の前の天使の豹変振りが怖い。
「いや、しりあいっていうか。鳥だ。見なかったか、けっこう大きいから部屋に居れば目立つとおもうんだが。お前と同じ色の羽で」
天使はパチパチと大きく瞬きをした。ぽってりと厚めの唇は半開きだ。
わあ睫長~!きょとん顔めっさ可愛い~ってそうじゃなくて。
ルークは賢いから知らない人が部屋に居て逃げたのかも知れない。
いや、気性荒いから思いっきり攻撃するほうだった。
天使は無傷なのでまだ帰ってないのか。
「悪い、離してもらえるか。」
「え」
いつもはどんなに暴れてもお風呂の時間までには帰ってくるのに何かあったのかもしれない。
凄いスピードのなんかもいたらしいしどっかで怪我してるかも!
初めに出会った時だって怪我をしてなんか糸に絡まってたし、あれが誰かの悪戯ならまた同じ目にあってないとも限らない。
そう考えると、いてもたってもいられなくなりグイっと天使の肩を押して離れさせる。
硬かったので筋肉質だとおもったが天使の肩は思いのほか薄い。
ちなみに腹筋は服で隠れて確かめられなかった。
天使は肌を見せたらいけない国の女の人の衣装を白くしたようなのを着て居たので捲くるのは自重。
「待ってください。」
「ごめん、話は後で聞く。」
なんで天使が俺の部屋に居たかとかよく考えたら聞きたいことはいろいろあったが、今はルークを探しに行くのを優先したい。
部屋にほっといても悪いことはしないだろう。だって天使だから!!
「私がルークです!」
「いやソレはわかったから。」
「わかってません!なら、なにを探しにいこうというのです!?」
「鳥」
「私がその鳥です!わざとですか!?この姿はそんなに気に入りませんか!?」
初日にそっぽ向かれた時の事をルークは思い出した。
その後ベッドに引っ張りこまれたので見たくも無いほど嫌というわけではないだろうとおもっていたが、やはり鳥の姿のほうが好きなのだろうかと不安になる。
「いやその姿はものすごく好みだ!」
褐色の肌に銀に近いような薄い色の髪、きりっとした眉にグリーンの瞳ときゅっと上がった目元、美しい横顔には欠かせない絶妙なバランスの鼻のライン。
全体にきつそうな印象なのを和らげるぽってりと厚い唇。
きっちり男らしくありながら可愛いとかもうこれ天使だろ。
翼の有無とか関係なく天使でしかないから!!
「えぇ!?あ、いえ、その・・・ありがとうございます。」
自分の頬を両手で押さえて俯きながらもこちらをチラチラ見てくる天使。
とりあえずもう一回抱きしめてもいいかな。
ああだめだ。天使見てると思考がそれる。
これは早急に探しに行かなくては。
「って、そこで何故また出かけようとしてるんですか!」
「ルークを探しに」
「だから私がルークだと言っているだろう!!」
ルークは力いっぱい怒鳴った。
いけない、口調があらくなってしまった。
だが、ジンがいつまでもそんなこと言い出すのが悪い!
ああしかしどうしたら納得してもらえるのか。
そうだ!
「しるしを、契約の印を見ていただければ納得してくださいますか?!」
「印?」
もちろんジンには覚えが無い。
するとルークはジンの服に手をかけた。
「ちょ」
ジンの痣は腰骨の辺りにある。正面から見て足の付け根の上の両サイドにある出っ張った骨のあたり。
ぎりぎりズボンで隠れる位置のソレを出すためにルークは下着ごとぐいぐい服をずり下ろした。かなりきわどい位置まで下ろされたズボンをジンはがっちり押さえる。
「鳥の姿では見せられませんでしたが、今なら見えます。これと全く同じ模様なので比べてみてください!」
びしっとその痣を指差す。
いや確かにあるけど、なんか花の蕾っぽいけど。
そもそも鳥の姿で見せられないもの、あったところで鳥と目の前の天使が同じって事にはならなくねえ?
ジンは少し冷静になった。
「ってなんで脱ごうとしてんだ!!」
「脱がないと見せられません。」
そう簡単に肌とかみせるんじゃありません!
ってかそんなきっちり隠れる服着てるのに肌見せオッケーなのかよ!
しかし上半身の服を脱ぎだす天使の動きに迷いは無い。
この天使、本気だ!!
このままだと天使のストリップが始まる。
なんだそれ楽しい!すげー見たい!
・・・いや落ち着け、見たいけど!相当見たいけど!!
えっと天使はルークで、ルークは天使で、俺が信じないから何かあられもない方法で証明しようとしてて。でも今、信じるから服を着ろといったところで天使の動きが止まる気がしない。
ああああ、なんていったらいいものか。
天使がルークなら俺はソレを知ってないとおかしいわけで。知ってってあえて分からないフリしてるとか天使的にはそういうかんじなのか。
「からかって悪かった、分かってるから服を着ろ。」
天使は手を止めて俺を見た。どうやら正解のようだ。半裸なのでストリップを止められたかは微妙だが。これで納得される俺って天使の中でどんな印象だったんだ。
「酷い。」
天使は怒ったのか軽く膨れてみせる。その際唇も不満そうに前に出されているわけだが、正直なんの御褒美ですかって話だ。
なんかあまりにも可愛かったので下唇をむにっと摘まんでみる。
抵抗されないな。
「いまさらですが。」
「?」
むにむに唇いじられて喋りにくそうだ。やっているのは俺だが。
「口、好きですよね。」
「・・・・・」
別にフェチとかじゃないからなと今否定したら余計にソレっぽい気がするので無言を貫く。
「嘴もしょっちゅう触ろうとしてましたし、私の羽を自分の口に当ててましたし。」
最初食べてるんだとおもいました、と天使は眉を下る。しかし思い出したように不機嫌な顔を作った。
あ、その怒りまだ続行中なんだな。
っていうか・・・いま嘴とかいったか、この天使。
「えっと、ルーク?」
「何でしょう。」
「ルーク、か?」
「そうですね。」
「ルーク」
「はい。」
おかしいな、暑くも無いのになんか背中に汗かいてきた。
「昨日のフルーツの味は?」
「すっぱかったです。」
ちょとまて。
そんなわけはないとおもいながら俺はいくつか天使に質問を投げかけた。
「どうかしたんですか。」
天使は相変わらずちょっと不機嫌そうだ。
しかしそれどころじゃない。
ルークだ!!!こいつマジにルークだ!!
「なんでもない。」
つまり愛情込めて鳥を飼育すると天使に進化するってことでオッケー?
問いに答える声はもちろん無い。
まあもともとがこっちなんだから美女と野獣のパターンのが近い気もするけど。
ルークは今まで俺の言葉を理解していたからあんなにすんなり生活が成り立ったわけか。
なんか俺いらんこと言ったりしたなかったか心配だ。
ちゅうかこれなんてエロゲ?だれか攻略法プリーズ!
助けた鳥は魔族でこれから宜しく御願いしますって一つ屋根の下とかもはやエロゲでも無いだろそんな展開。
俺、見た目鳥とはいえ中身青年の身体洗ったりしてたのかよ!
わかってたらもっと色々、しないけど!出来ないけど!
怪我した青年部屋にお持ち帰りとか絶対ない。そこは医務室か病院だろう!!倫理観的に!
そういう意味では知らなくてよかった。
それにしてもこの青年は色々勘違いしている。いや、今はルークか。
まず俺魔力とかないし、契約方法とか知らないし、彼がおもうほど強くないし。
他にも叩けばいろんな勘違いが出てきそうだ。ともかく俺はなぜかこの青年に過大評価されている。敬語なのが良い例だ。
正さないと将来的に俺が大変な目にあう予感がひしひしする。
しかし誤解を正せば契約なんてなしにされる可能性がある。一生物だとか言ってたけど多分何とかする方法はさがせばきっとあるだろう。
そしたらルークは多分出て行くだろう。ルーク鳥バージョンの行動力は半端無いのでこっちも即行のはずだ。
寮にはいってからこっち、カッコイイ男も可愛い男も沢山見つけたけれども。
ちらりとルークを見れば彼は不機嫌を主張するように眉を上げふくれている。
しかし俺が視線を逸らせば伺うようにこっちを見てくる。
なんかもう抱きしめたい。
ハグしてちゅーして嫌がられたい!でもやめない!!絶対にだ!
脳内に蔓延るお花畑に妄想という肥料を与えながらジンは考えた。
今後ルークほどの者を見つけることは出来るだろうか、と。
「ルーク。」
「何ですか。」
「まだ怒ってるか。」
当たり前だと言わんばかりにルークはムッと口をゆがめる。ジンにとってそれは御褒美にしかならない。しかし怒っているという仕草としては決して間違いではない。
ジンはそんな様子に小さくため息をつき入ってくるなり放り投げた荷物を拾う。
すべて無事であることを確認し戻ってきた。
「お土産。」
花屋で予定より多く購入させられた大きな花束を手渡す。
戸惑うルークにジンはさらに色々手渡していく。
こっちでは珍しいとお姉さんがおすすめしてくれたフルーツ、もちろんルークにたべさせて反応がよかったものもセットで買っている。
ルークの羽の色に合いそうだとおもったかわいらしい小物入れ。靴屋では皮製のポーチ、ほかにも今日回った露店で気に入った品々をルークに手渡す。
ぽんぽん乗せるからルークは落とさないように必死だ。
最後にジンはルークの後ろに回りこんだ。
翼がおもったより大きかったためやりにくそうではあるが、なんとか留め金を止める。
つけられたのはルークの瞳に似た色の石がついたペンダント。
これは最後につれていかれたアクセサリーの店で一目ぼれしたものだ。
ルークはつけられたペンダントとジンを交互に見る。こころなしか瞳が潤んでいるようにも見える。
驚いているルークにジンはにっこりと笑顔を向けた。
「さっきは悪かった。よかったな、元に戻れて。」
「・・・・・!」
せっかく無事が確認された品を今度はルークが放りだして、そのままジンに抱きついた。
直ぐに抱き返される腕に安心して、ルークはぎゅうぎゅう抱きつきジンの胸に顔を押しつけた。
しばらくは顔を上げられそうにない。
気障なやつめ!大切にすると言ったくせに私を泣かせるのが好きなのか?
どうしてくれるんだお礼もいえないじゃないか!
ルークが内心悪態をつく中、胸の辺りの服が湿ってくるのを感じながらジンはおもう。
俺に紳士は無理があったなあと。
今頃ルークの中ではどんな誤解が展開されてるのか。
今までの俺の過大評価っぷりをみると、きっとハードルだだ上がりなんだろうな。
今後を考えるとかなり不安だ。
まあでも今は腕の中の天使を堪能しよう。
ジンはルークの額にちゅっと唇を押し付けた。
先ほど頭をよぎった疑問。
今後ルークほどの者を見つけることは出来るだろうか。
答えは否。
今手放したらきっと二度と会うことは無いだろう。
友人とかだったら誤解が解けても友達でいられるかもしれないが、どうあってもルークの性格ならきっと怒る気がした。鳥の姿のとき、沸点の低さと攻撃性の高さは何度も経験済みだし。
手元に残しておく方法は思いつく限り一つだけだ。
誤解をそのままにしておくこと。
タイミングも非常によかった。ものでつるわけではないがちょうど贈り物もあったわけだし。
やっと魔力が回復して元通りになれた日、というなら忘れようも無いだろう。
ペンダントはもちろんルークに買ったものだ。
これなら飛ぶのに邪魔に為らないんじゃないかとおもったからだ。そう、ルークはルークでもジンは鳥のルークをイメージしていた。
だが、それをルークは知らない。
ジンがこのままルークを鳥だとおもっていればルークもいつかは気が付いたかもしれないが、知ってしまった以上バレるような事をする気は無い。
やっと泣き止んだルークがジンを見あげる。
考えてることはともかく、状況としては帰ってきたときと同じだということに気が付いてジンはルークの濡れた目元にちゅっと唇を落とした。
「ただいま。」
いまさら過ぎる挨拶だがルークは心得たように笑った。
「お帰りなさい。」
余談だが。
いつもどおり並んでベッドに入るとルークは思い出したように言った。
「どうしてさっき鍵をしめたのですか。」
どうやらばれていたらしい。しかもジンは普段あまり鍵をかけない。
「・・・・なにかあったら危ないから。」
「なにか?」
「ああ、昨日の晩あたりから凄い速度でなにか飛んでいたらしい。」
「ソレは危ないですね。」
ルークは神妙な顔でうなずいた。もしジンになにかするようであれば叩き潰そうという決意である。
ジンはそういやあの鳥捕まったのかなと今更少し不安になったが、噂の鳥は暴走中のルークであるから何の心配も要らない。
今のところお互いにとって一番危ない存在は、隣に並ぶ相手だけであった。




