ジンの長い休日-鳥は不在-
前にあげたものと全とっかえです。
ジンがここに来てようやく一ヶ月。
訓練所の使用許可が下りるに伴い、自宅組がぞくぞくと寮にやってきていた。
ふむ、新しく来た子は理数系眼鏡か。なんか見たことあるぞ、総務にいたこかな。
あ、しかも同室はちょっとアホっぽいやんちゃ系じゃないか!なんだここの寮の部屋割りの素敵過ぎる組み合わせ。
ジンは自分が最初から寮に居るのをいいことに全力で入居者ウォッチングをしていた。
朝からエンジンは全開である。
他にはガテン系&兎っぽいちびっ子、知的眼鏡&黒髪硬派と素敵なラインナップがそろっている。
ちなみにジンの隣にも越してきた。
ジンは引っ越してくるのを見たとき速攻で挨拶しにいった。
黒髪細マッチョの方がロキ。蜂蜜色の髪の美少年がウィルといった。
彼らは幼馴染で他にもう一人スバルという青年が居るらしいが彼の部屋は別の棟にあるらしい。
ソレはともかく。
本日は休日だというのにルークが逃走中である。
もふもふする計画が台無しだ。
ルーク可愛いよルーク。でも擬人化はしない!
拾った鳥を擬人化しつつおなかとか撫でまわすのは俺の紳士像から反する!
そんなん紳士は紳士でも完璧な変態紳士である。まあそう呼ばれても強く否定はしませんけども!
とりあえず言うなら本当の紳士は職場に触手植えようとしたり、上司を脳内で女装させた挙句似合う事を嘆いたりしないだろう。
女装はちょっと合わないぐらいがいいんだ。ニーハイで隠れきらない筋肉質な足とか、化粧じゃなんともならない骨格とかで、
嫌がってる姿が可愛いとおもう。
とはいえ嬉々として着ている姿も決して嫌いじゃないから悩ましい。
だって男の娘は普通にかわいい。可愛い少年が可愛い衣装着て可愛くないわけが無い。
とはいえ着てくれる人が居ないのが一番のもんだいである。
相手がどんな体型でも服のほうを合わせて見せるのに!
被服科卒の本気だ。ちなみにジン、モリー&グリム夫妻にお世話になっていたときの服も自作である。
なんかもうルークの作ってしまおうか。
いやしかし相手は鳥。そんなことをしたら確実に飛べなくなってしまう。
でも確か鷹とか鷲でヤギかっさらってる動画とかあったから、多少の重量ならありか。
そんなことを考えながらジンはただいま買い物中である。
「いらっしゃい、今日は珍しいのが入ってるよ。」
明るく声をかけてきたのは果物や野菜を扱っている店の看板娘である。
彼女は健康的に日焼けした肌にそばかすの似合う明るい女性だ。実際彼女目当てに買い物に来る客も少なくは無い。
「へえ、見せてもらえるか?」
「ええ、ちょっとまってて。」
ジンが微笑むと彼女は満面の笑みで答える。
ジンはこの店の常連だ。鳥を拾ったその日からほとんど毎日の様に通いつめている。
あまりに頻度が高すぎるので看板娘の彼女に恋でもしてるんじゃないかと近所の店のおば様がたなどはおもったが、そんな憶測は一週間と持たず消えた。
フラグをへし折ったのはジン自身である。
店に通って数日。はじめは店主が警戒しながら接客していたのに、途中からやたらと娘さんが出てくるようになった。
さらにお隣の露店のおば様方の反応を見てジンは気がついた。これはいらんフラグが立っているなと。
実際にジンが男なら気がつかなかったかもしれない。しかしジンは寧ろ過敏なぐらいフラグを気にしている。主に男同士の捏造フラグであるが。そんなことはかまわない。
女の子は確かに可愛い。しかしあくまでそれだけだ。まあ身体だけなら何とかなるけど、それはそういったお店に行けば済む話しだ。
そんなわけでジンに女性とのフラグなど無用の長物である。
ちなみに娘さんは俺に興味はないようだった。そんなわけでおもいっきり行かせて頂きました。
「最近よく来るね、果物好きなの?」
「俺はそうでもないんだが、家で待ってる奴が好きなんだ。」
嘘は言っていない。にっこり笑顔で言えば奥で女将さんが残念がってるのが見えた。
家で待っているもののポジションなどは限られている。無事にフラグはクラッシュされたようで一安心だ。
ちなみに娘さんは俺にはじめから興味など無かったので「そっかー、気に入ってくれるといいね!」と笑顔を向けられただけだ。
そんな感じにジンは行き先々のお店で立ちそうなフラグをことごとくへし折って歩いていた。
今ではすっかり有名になってしまい。フラグすら立たない有様である。
いいわけには何種類かバリエーションがあるが基本的には家に大切な奴が居るから火遊びはお断り。というスタンスだ。
「そういえば昨日からなにか凄いスピードで飛んでる鳥が居るらしいよ。」
「鳥、どんな?」
「分からないけど、見たことの無い羽の色だから渡り鳥かもしれないって話みたい。」
果物を袋に詰めながら娘さんは思い出したように言った。
ルークは家出中だが、大丈夫だろうか。
そんなことを考えながらジンが帰ろうとすると声をかけられた。
「また果物かい、たまには花でも贈ってみたらどうだ。」
そういってきたのは鍛冶屋のおっちゃんだ。
彼はすっかりジンが毎度毎度恋人に果物貢いでるとおもっている。現物支給もいいところだ。流石にソレは無いだろう。
しかし考えてみれば確かに、これからも家で待つ人が居るという風に思わせ続けるにはそのほうが都合がいいかもしれない。
「それもいいな。」
ルークが喜ぶかは別だが。
そう軽い気持ちで同意した。すると今度は別のところから声が上がった。
「なら宝石は?嫌いな女の子は居ないとおもうんだ!」
「ええ!?」
「それなら服もそろえたほうがいいんじゃない!」
「は?」
「靴はどうする?」
わちゃわちゃと露店を出していた女性人が集まってくる。
彼女らは何らかの形でジンの噂を耳にしてから興味深々だったのである。
もちろんそれで商売が出来れば一番いいが、これだけ毎日顔を出す男の大切な人ってどんなのだろうと憶測を立てていた。
「・・・・。」
うかつだった。
露店などという噂が飛び交いまくる場所でそんな事いえばネタにされるだろう事ぐらいジンは確り分かっていた。
しかもこと恋愛関係の話なら食いついてこないはずが無い。
しかしジンは最近このあたりに来たばかりであるし、大きいし、警戒されていたため突っ込まれないだろうとおもっていた。
だが、露店のお姉さん達はそれこそ毎日いろんな人を見ている。ましてや店であるから人見知りなんてするはずも無かった。
根掘り葉掘り質問を投げかけてくる女性陣。
一対一なら何とかなるとおもうが多勢に無勢というものだ。
ちらりとお店の男性陣に助けを求める視線を送ってみる。
しかし全員から目をそらされた。売り上げには結構貢献しているとおもうが果物屋まで目をそらすとか薄情者!
逃げようと思えば逃げ切れる。
しかし相手はか弱いご婦人方だ。下手なことをしては怪我をさせてしまう。
「・・・・。」
身の丈190は超えようかという大男に集団で押し寄せて質問攻めにしてくるご婦人方。
かよわい、かな。
はなはだ疑問ではあったが逃げられないことには変わりないのでジンは諦めて露店を巡ることにした。
所はかわってここはジンの部屋。
室内だというのに体育すわりで扉の前で出待ちする青年が一人。特徴は背中にある薄い灰色がかった大きな羽だろう。
ようやく鳥の姿から戻れたルークである。
散々飛び回りこの近辺には自分以外に魔物が居ないことを確認した。
もしうっかり街に入り込んだ不幸な魔物がいたら彼の攻撃の餌食になっていただろうが、幸いにもそんなものは居なかった。
国から認可を受け街で商売している魔物も本当は存在していたが、彼はたまたま買出しのため国外に居た。商人として生きていくためには運も必要であるという実例だ。
さらに捜索範囲も広げ、縄張りの範囲にいる鳥まで借り出し、ジンの持ち物から見知らぬ魔力が無いか徹底的に調べたりもした。もちろん部屋の中もしっかり捜索済みであるし、微量でも魔力が検出されたら分かるようにトラップも仕掛けてみた。ルークは彼の思いつくすべてのことをしてみたが結局魔力を見つけることは出来なかった。しょんぼりである。
尋問だって何通りか考えていたのに、徒労で終わった。
ちなみに普通はそこまでしない。今日も彼の思い込みはフルスロットルである。
そうしてようやくあの痣の契約相手は自分なのではないかという事実におもい至った。
探してみるとやはり同じ痣があった。
痣は腰と臀部の中間という、実にセクシーっぽいところにあった。
しかしルーク的には見つけるのが大変だったので正直おなか側にあってほしかったところだ。
ということは私は勘違いで飛び出してきたということか。きっと驚かせてしまったに違いない。
昨日の自分の行動を思い返し頬を赤らめる姿はなんともかわいらしいが、そこに至るまでの経緯はストーカーも引くレベルなので差し引きで言えばマイナスだ。
そもそも魔力が見える相手をはめることなんてできるはずないというのに、私としたことが動揺しすぎたようだ。
しかし、何故名乗らず契約が成立したのか。もしやジンははじめから私のことを知っていたのだろうか。
流石にソレは考えにくいか。ならばどこかで知ったのかもしれない。
そんな感じで上機嫌で出待ち待機中である。
ドアの外、なんだか知らんがいろいろ押し付けられたジンが大荷物で帰ってきた。
色々聞かれて当たり障りなく答えたら商品進められて、お金ないですと最大級のお断りをすれば「じゃあこれを」とかなんとか色々おしつけられた。
気に入ったら次は買いに来てねとうウィンクされたが、ルークは鳥だ。
多分行かない、すまん靴屋と服屋。
それにしても疲れた。なんか一日が凄く長く感じた。今日はもうルークもふもふして寝たい。
フルーツとかいっぱいあるし、いろいろ食べさせたらお腹に顔うずめさせてくんないかな。
とりあえずまだルークの機嫌が悪かったら全力で謝って撫でさせてもらおう。
疲れているジンは知らない。長いと感じていた一日がまだ終わっていないということを。




