兄貴と僕の会話
「──“お兄ちゃん”ねぇ。‥‥僕は無理だなぁ」
椅子を左右に揺らしながら、呟く。
「何がだよ?」
結構小さめに呟いたのに、ソイツには聞こえてしまったみたいで。
ソイツ──兄貴が、読んでいた雑誌から顔をあげて聞いてきた。
僕は手を頭の後ろで組ながら答えた。
「兄妹でセックス」
「あ、そりゃ無理だわ」
それだけ言うと兄貴は、雑誌を置いて僕に近づいてきた。
多分そんなことを呟いた原因となるものが知りたいのだろう。
僕は今夢小説を読んでいた。
夢小説とは、主にウェブ上で公開されている、特定の登場人物の名前を読者が自由に設定 して読むことの出来る小説の事で、それには裏と言うエロの入ったものが存在する。
読者はそれを見て、一人でハァハァすると言う淫らなものだ。
何故僕がそれを読んでいたのかと言うと‥‥はっきり言って僕にも分からない。
飛んで飛んで飛びまくっていたら、何故かエロスの方へと着地していた。
着地した僕は一応、中身を見てみるわけで。それで偶然見たのが兄と妹の禁断恋物語。
そうして冒頭の台詞を吐いたのだ。
「よく、恋愛に発展するな」
兄貴が横から僕のパソコンを覗き込みながらそう言った。
「一応ソイツら、血ィ繋がってねぇぞ」
こういう物語にはよくある話だ。
親が離婚して母親の方についていったら、その母親は再婚して。その男にはその主人公ちゃんと同い年の子供がいて。
そうして生活していくうちに、二人は惹かれあい親に黙って‥‥みたいな展開だ。
「だけど、中には血ィ繋がっててもヤる奴らいるよな」
「‥世界は広いからな」
「どーやったらそんなことに発展するんだろうな」
「んなこと知るか。つか、知りたくもねーよ」
「確かに」
そう言って笑うと、兄貴は雑誌が置いてある場所へと戻っていった。
僕は何だか見る気が失せて、そのサイトを消しパソコンの電源を落とした。
そうして絵でも描こうかと思い、紙とシャーペンを探す。
「あ‥‥ほらこれとか」
と、後ろで声がした。
振り返ってみると、携帯の画面をこちらに向けている兄貴の姿が。
どうやら雑誌を読んでいたのではなく、兄と妹で‥な小説を探していたらしい。
僕は無言で兄貴の携帯を取り、文を読む。
そこには卑猥な言葉と共に「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!」と連発していた。
「コイツら血ィ繋がってるぜ? すげぇよな」
その横から兄貴の声が響く。
おうおう、凄いよ。うん。
でもさ‥‥。
「一々見せなくても良くない?」
僕は兄貴の携帯を兄貴に返しながらそう言った。
兄貴は「だって、血ィ繋がってるやつ見たことないだろ?」とか言ってまた携帯をいじり始めた。
‥‥あれ、何か僕すんっごい余計なことした?
僕は嫌な予感を抱きつつ、紙とシャーペンを探す作業に戻った。
◇
「いいから、これ読んでみろよ!!」
「だから、嫌だつってんだろ!」
「んでだよっ!」
取っ組み合い中。
理由。
兄貴がやたらと裏夢を進めてくる。
何だかAVを進められてるみたいで、何か、読むのに気が引いてしまう。
一応内容はそりゃ、AVとそうそう変わらないが。
そんなものをこの馬鹿兄貴は進めてくる。
高1の、妹に。
「いいからっ、やめろっ! しつけぇーんだよっ!!」
「お前が読んでくれないからだろ!」
「何で一々読まなくちゃなんねーんだよっ!」
「そりゃ、お前、これも避けては通れぬ道なんだよ!」
「どういう意味じゃ、ボケェ!!」
もう何分が経過したのだろうか。
それでも兄貴は引いてくれない。こんなにも嫌がってるんだから引いてくれても良いような気がする。と言うか普通なら引いてると思う、もうすでに。
「せっかく親切に読ませてやろうと思ってんのにっ! お前はその親切心を踏みにじるのか?!」
「んなとこに親切心なんていらねぇーよっ!!」
この馬鹿兄貴、どんなとこで親切心発揮してんの?
‥‥何で僕はコイツの妹なの?
ほんとに血が繋がってるのかな?
実は父親が違うのよ。
とかならない?
え、ならない? そっかーそっかー。
‥‥この目の前にいるこの男は、正真正銘僕の“兄貴”なんですね。
それでコイツと一緒の血が流れてるんですね。
「‥‥うわー、血ィ抜きたいわ~」
「そんな自殺したくなるほどに読みたくないのか」
僕の呟きを勝手に勘違いした兄貴は、胸ぐらを掴んでいた手を放し俯いてしまった。
‥‥お、落ち込んでる‥‥?
や、でも勝手に勘違いしたのは兄貴だ。それに嫌々言ってる奴に無理矢理読ませようとする奴が悪い!
そんな考えに辿り着いた僕は、まだ俯いてる兄貴を無視してパソコンの電源をつけた。
パソコンが立ち上がってる間、自分の引き出しからお菓子を引っ張り出す。
今日はmovies tubeを見よう。
何か新しいのアップードされてるかな‥。
僕はお菓子の袋を開けながら、まだ立ち上がり中のパソコン画面を見つめる。
お菓子を1つ掴み口の中に放り込む。
そして、僕は何故かちらりと兄貴の方に視線を向けた。
兄貴は相当ショックだったのか、まだ顔を俯かせていた。
‥‥そんな落ち込むこと無いだろ。たかが読まなかったくらいで。
とか思ってても何だかいたたまれない気持ちになっていた僕は兄貴に声をかける。
「‥‥兄貴。んな落ち込むなよ」
「‥‥‥‥」
「たかが僕が読まなかっただけだろー?」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
え、どんだけ落ち込んでるの?!
何回声をかけても反応しないので、僕はもう放っておくことにした。
こういうのは放って置くのが一番の良い対処法だ。
僕はもう既に立ち上がっているパソコンに向き合い、マウスをカチカチと動かしてmovies tubeを開く。
お、結構アップロードされてるされてる。
「なぁ」
「ん~?」
兄貴が話しかけてきたことに、適当に返事を返す。
落ち込んでいた奴が話しかけてきた、ヤッホーイ機嫌直った~♪と言うようにはならなかった。何故なら僕は動画に夢中だからだ。
「おら、これならどうだ?」
夢中すぎて、さっきのやりとりを忘れた僕は、素直に兄貴の方向を振り向くわけで。
そして素直に差し出してある兄貴の携帯を受け取った。
視線を画面に向け、ずらりと並んでいる文字を読む。
「‥‥‥‥なっ!?」
そこには、まさかの兄妹のいやらしいものではなく、母と子であった。
「え、これ血ィ繋がってんの?」
僕は目線を画面に向けながらそう兄貴に問うた。
「あぁ。凄いだろ? 俺も読んだときは驚いたぜ」
「‥‥や、もう驚き以前の問だ──ってちげぇよ!! お、お前、ほんっと、何してんの?! 落ち込んでたんじゃねぇのかよ??!」
あまりの衝撃の内容にもう少しで危ない会話を交わすところだった。
僕はハッと我に還り、暴れだす。
兄貴は耳を両手で押さえて、僕が落ち着くまで待っていた。
「っ、はぁ、はぁ‥‥」
「‥‥だ、大丈夫っすか?」
「‥‥なんとか、な」
なんとか僕は落ち着き、暴れた拍子に立った腰をダランと椅子に腰かけてやった。
もう何もする気なくなった僕は、力なく携帯を兄貴に返した。
「‥‥にしても、母子でそんな関係とは凄いな」
どうでもよくなっている僕は、さっきの話を持ってくる。
兄貴はまた別のものを探してるのか、携帯を弄りながら会話を交わす。
「あぁ。流石に引くわ」
「確かに。しかも血ィ繋がってるって‥‥」
「普通は再婚した男に子供がいて~みたいな話が多いけどな」
‥‥コイツどんだけ、読み漁ってんだ?
や、でも普通は分かる、か‥‥?
僕はmoviestubeを閉じ、そしてパソコン自体をシャットダウンさせ、兄貴の方向を向く。
そして兄貴と僕の奇妙な会話は続けられた。




