残念王子の執念(テリー視点)(2)
夜会で見初めたご令嬢と運命の再会を果たし、二人は結婚して幸せになりました。めでたしめでたし。
そうなるんじゃないかと考えていた俺も、シリアン様に影響されていつの間にか乙女思考になっていたようだ。
夜会には、まだ婚約が成立していないと思われる貴族のご令嬢に広く招待状を出したが、参加の返事をもらえたのはわずかで、大半は何かしらの理由をつけて不参加だった。
中には駆け込みで婚約したご令嬢もいると聞いている。
これでは夜会が開催できないと慌てた陛下の側近が、代役でも何でもいいから人数を揃えろと各方面に圧力をかけてどうにかかき集めたらしい。
きっとこの彼女も、頭数を揃えるために召集された一人だったのだろう。
そんな彼女が困惑しながら何度も「困ります」「違います」と言っているのに、シリアン様はお構いなしに「私のシンデレラ!」と言ってグイグイ迫っていく。
これではダメだ。
我が主の恋愛経験の無さが痛すぎる。
そもそも『シンデレラ』という物語の内容だって知らないだろうと思われる彼女からしてみれば「シンデレラって誰よ!?」だ。
「ほかの女性の名前を呼んではなりません」
見兼ねてそっと耳打ちすると、シリアン様は小さく頷いた。
「きみはサクラ・デ・モブだろう?」
夜会の日に聞き出したというその耳慣れない名を、シリアン様が確認するように言うと、彼女は何のためらいもなくあっさりと「その通りです」と認めた。
偽名ではないかと思っていたんだが、その態度を見る限りどうやら本名のようだ。
もう一度、王城の『貴族名鑑』を血眼で見なければならないな…。
その後もシリアン様は、足腰の丈夫な女性は安産だの、自分の付きまとい行為は理にかなっているだのと、じゃんじゃか墓穴を掘って好感度を下げ続けた。
我が主に代わり表情だけで謝罪の意を伝えると、彼女の方も「あなたこそお気の毒に」という顔で応えてくれたのだった。