残念王子の執念(テリー視点)(1)
この踵から、どこの職人がこの靴を作ったか探せだと?
シリアン様はすっかり『シンデレラ』という物語の王子様気取りで浮かれている。
王都の靴屋から順番に当たって行けば、おそらくすぐに判明するだろう。
折れた踵を預かり、それを部下に渡して探すよう指示を出した。
こちらは「シンデレラ探し」よりも大事な仕事がある。
夜会でのボヤ騒ぎの件だ。
王室に仕える側近・付き人たちが集う朝の定例会で、参加した面々を睨みつけながら釘を刺しておいた。
シリアン王子の命を狙うのは構わないが、関係のない人間を巻き込むような真似はやめていただきたいと。
「まるであれが放火だと決めつけているような言い方だね。設備の老朽化が原因だと聞いているけど?」
ふんっと鼻を鳴らしてそう言ったのは、第一王子・リチャード様の側近だった。
周囲もその発言に頷いている。
「白々しい態度はおやめください。ひとつネタ晴らしをしますと、あの夜会は全て陛下直々の指示で催されたものです。万が一、犠牲者が大勢出るような惨事になっていた場合、泥をかぶるのは陛下だったのですよ?もしもこの中に真実を知る者がいるのなら、しばらくおとなしくしたほうがいいでしょうね」
その場が静まり返る。
一瞬顔色を変えたあいつの主は…まあいい。
当分は無茶なことはしないだろう。
主が道を踏み外しそうになった時は、それを正すのも側近の仕事だと思うのだが、そういう気概は持ち合わせていないらしい。
第三王子の側近だなんてハズレくじを引いたな。
よくそう言われるが、別にそのようには考えていない。
配属された先でその主に忠誠を誓い、仕事の補佐をし、緊急事態には自らの命さえも顧みずに主の盾となる。
そういう仕事を選び、初めて仕えた主がたまたまシリアン様だったというだけだ。
いずれシリアン様がめでたく王室を離脱する日が来たら、俺は任を解かれてまた別の主の元で働くことになるだろう。
今はただ、全力でシリアン様の命を守り、幸せになってくれることを願っている。
そんなシリアン様にとっては朗報だった。
赤いヒールの靴を作った職人がすぐに見つかったのだ。
王都の商業区に店を連ねる靴店の職人だった。
早速店主に確認したところ、買い求めたのは若い女性で、名前はわからないが午前中に店の前を歩いているのを何度か見かけたことがあるとのことだった。
ということは、王都が生活圏内であるということだ。もしかすると靴の修理に訪れるかもしれないと踏んで、なんとシリアン様自らが靴屋に張り込んだのだ。
店主には、第三王子であることは伏せて「高位貴族のご令息が、この靴の持ち主を探している」ということにした。
こういう時は、顔が知られていないのが幸いする。
シリアン様は「麗しいお顔」として有名だが、実物を間近で見たことのある国民はほとんどいない。
念のためフードを目深にかぶり、来店する女性客をこっそり窺うこと7日目にしてようやくターゲットが現れた。
長かった。
店主からは「あなた方、本当に貴族なんでしょうね?」と胡散臭そうな目で見られて、迷惑をかけているお詫びにと金貨を渡さなければならなかったし、側近定例会では「シリアン王子は毎朝どこへお出かけされているのか」と聞かれるし、散々だった。
側近たちからの質問には、半分正直に答えた。
どうせごまかしたって筒抜けだろう。
「お忍びで、先日の夜会で見初めたご令嬢を口説いているところです。市民を巻き込むボヤ騒ぎなど起こさぬよう、そっとしておいていただけると助かります」
抜かりなく再び釘を刺しておいた。
しかし、再会してみてわかったことは、シリアン様から聞いていた話とは随分違うということだった。
相思相愛なのかと思っていたら……彼女は明らかに迷惑そうにしているんだが!?




