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56:それゆけアリアン王女の大冒険!

 私が……私がキャスバルの無念を晴らしてみせます!

 そのためにも彼にペンダントが必要でしたわね。


 まずは自室に戻り、どうやってペンダントを手に入れるか考えなければ。


「姫――アリアン姫様」


 後ろから呼び止められ、その声がジャスランだというのは振り向かなくともわかりますわ。

 私を「姫」と呼ぶのは、この城でもジャスランだけですもの。


「ジャスラン、どうかなさいましたか?」

「いえ、私のほうこそ、どこに行っておいでなのかと思って心配しておりましたところです。何分、キャスバル王子の件もございますので」

「え、えぇ。そうですわね。心配をかけてごめんなさい。今から部屋に戻って休むつもりでした」

「左様でしたか。ではお部屋までお供いたしましょう」

「えぇ」


 ここは大人しくジャスランに従いましょう。

 きっと彼が親衛隊の部下に命じて、部屋の前の扉を見張らせるでしょうが……問題ありませんわ。

 私の部屋から中庭へと通じる隠し通路がありますもの。


 ジャスランに見送られ、そして案の定警備の兵が扉の前に。


『これじゃあ外に出れないわね』

「ひゃっ」

『あら、ごめんなさい。驚かせてしまったようね』

「あ、いえ、大丈夫です。私も、扉の件も」


 まずは動きやすい服に着替えて……うぅん、どれもこれも動きやすいとは程遠い服ばかりですわ。

 あ、そうだ!


 乗馬の練習用の服でしたら、殿方のようなズボンですし……よしっと。


「さぁ、みなさま行きましょう」

『え、どこへですか?』

『王女様、計画はあるですかぁ?』

「はい」


 自室の奥にある寝室に向かい、ベッドの下に敷かれたカーペットに手を入れて――床に隠してある小さなハンドルを回すと――。


『あら。壁に隙間が』

『わぁ、これって隠し通路ってやつですか?』

「はい。王族の寝室なんかには、こういった隠し通路があるのが常識なのですよ」

『お城のあるあるですぅ。なんだか大冒険みたいでワクワクするですぇ』

『カルネ、ワクワクなんて失礼でしょ。王女様は……』

「いえ、大丈夫です。私は……キャスバルのためなら、大冒険だって立派にやってみませますっ」






 レイジさまが護衛にとつけてくださった幽霊のみなさんと隠し通路を行きながら、これからのことを話します。


「ペンダントはおそらくニライナの使者の方の部屋にあるはずです。キャスバル王子の品ですから、我が国で管理するとは考えられません」

『じゃあ、その使者の部屋を、ひとつひとつ調べるしかないわね』

「はい……使者の方は、今頃全員、謁見の間で父と一緒だと思います。キャスバルの捜索の指揮を取るため。そして父が不穏な動きを見せないか見張るために」

『問題は誰の部屋にあるかですね』

『あら、そんなの、アタシたちでちょちょいっと見て調べればいいじゃない』

『ですぅ。私たちなら壁もすり抜けられますし、もし箱に入れて保管されていても――』

『覗けますね♪』


 まぁ、なんて頼もしいのでしょう!


 死霊使いは禁忌の魔法を用いて死者を強制的に従える、呪われた職だと聞きましたが……。

 彼女らは強制的に従えさせられているようにも見えないし、むしろ楽しんでいるようにすら見える。

 それに……死者というには、あまりにも活き活きとしていて、まるで生きている人のよう。

 不吉だ。呪われている。

 そういったものを何一つ感じさせない。

 きっとレイジ様がそういう方だからなのでしょうね。


 私は彼を信じます。

 キャスバルを見つけてくださった彼を……。


「キャスバルがレイジ様にお仕えするようになったら、彼も見えるようになるのかしら……」

『え? アリアン王女、今何か言ったかしら?』

「あ、いえ。なんでもありません。では三人には使者が寝泊まりするお部屋の位置をお教えします。まずこの通路の先が中庭になっています――」


 幸い使者の方が泊まる部屋は、中庭に面した部屋になっています。

 ペンダントが見つかれば、あとは私がこっそり忍び込んで――あ。


「ペンダントが見つかったら、そのままあなた方が持ち出せないのでしょうか?」


 と尋ねてみましたが、三人は揃って首を振るだけ。

 え、幽霊さんは物に触れない?

 はぁ、すり抜けるだけ……。


 そ、それでは……キャスバルがレイジ様にお仕えして見えるようになっても、彼の胸に飛び込むことは出来ないのですね……。

 キャスバル……。


「い、いいえ。今はそんなことを考えてる場合じゃありませんわ」

『何を考えてたの?』

『何ですかねぇ?』

「さぁ、行きましょう!」


 通路の終着点にあるレバーを下ろせば、中庭に面した壁が静かに動いて抜け出すことが出来る。

 この壁もつる草によって隠されているので、そっと顔を覗かせても外から見つかる心配はない。

 誰もいませんね……では――。


『行ってくるわね』

『王女様は待っててねぇ』

『カルネちゃんはあっちの部屋に行きま〜す』


 三人を見送って暫くすると、魔術師のように見えるカルネさんがペンダントを見つけたと。


『特に箱に収められていたりもありませんでしたですぅ。なんていうか、すっごい雑な感じで机の上に置いてあったですぅ』

『あら。王子様の持ち物なら、大事に扱うはずでしょ? 万が一紛失でもしたら、それこそ首でも飛ぶんじゃないかしら』

「く、首が飛ぶかどうかはわかりませんが……そうですね、財産没収、お家断絶ぐらいは……あら? みなさん、どうかなさいましたか?」


 三人が私を見る目が、どこか怯えているような。

 私、変なことでも言いましたかしら?






『では王女様。私がサポートしますから、楽ぅにしてくださいですぅ』

「は、はい。よろしくお願いします」


 カルネさんはやっぱり魔術師だったのですね。

 呪文を詠唱し彼女が杖を振ると、私の体がほんの少しだけ地面から――。


「浮きましたっ」

『しーっ。声を出さないの』

「はっ。す、すみません」


 手で口元を抑え、辺りを見回して人がいないかを確認。

 だ、大丈夫ですわね。

 それでは、参ります。


 勢いよくジャンプすると、私の体は大きく飛び跳ねる。

 そして二階の部屋にあるバルコニーまで到達し、そこからこっそり中へと忍び込む。


 だ、誰もいませんね?

 いるわけありませんものね?


 部屋に明かりはなく、窓から差し込む月明かりだけが頼り。


『こっちですぅ』


 案内され向かったのは、部屋の隅に置かれたベッド脇の机。

 そこに青い瑠璃石が嵌め込まれた、キャスバルのペンダントが置かれていた。

 布に包まれている訳でもなく、また布の上に置かれている訳でもなく、ただ雑然とそこに置かれただけのペンダント。


 ペンダントを見て不自然だと感じるのは、私だけではないはず。

 王家の者の所有物を、傷がつくかもしれない状態にしておくなんて……。


 でも、このペンダントにキャスバルが。

 そう思うと、どこか暖かさを感じる。

 彼が今、私を包み込んでくれているのかもしれない。

 あぁ、キャスバル……。


 ペンダントを手にしようとしたその時――。


『誰か来ますっ。王女様、隠れてっ』


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