55:ロクな背後霊じゃないなまったく
今晩一晩だけお城に泊まり、明日、どうぞ出発されよ――なんていう有難いお言葉を代理人から頂戴した。
つまり、真相究明は今日中にやらなきゃいけない。
国王不在、しかもこじんまりした食堂で俺たちは豪華な食事をいただく。
その席にアリアン王女もおり、食後は彼女と団らんを装って作戦を練ることに。
「ジャスランを味方に付けてはどうでしょう? 彼、剣の腕は一流ですのよ」
「いや、味方どころか、王女の身を案じて反対されるだけですから」
「そうですよ王女。現に王都までの道のりだって、やたら王女の身を案じてのろのろ移動でしたもの」
「そ、それもそうですね。では、私ひとりで頑張りますわ」
ひとりってのはどうにも心配過ぎる。
なので王女にはコベリアとチェルシー、それに冒険者だったカルネを傍につけさせよう。
といってもゴーストやレイスは一般の人にも見えてしまう。だから気づかれないよう、天井裏とか壁の中に隠れて貰う必要がある。
『レイスとしてもうちっと力を付ければ、姿を消す能力を身に付けるじゃろう』
「そんなものがあるのか?」
『まぁ! ふふ。だったら……姿を消して、レイジ様の入浴を……ふふ。んふふふふ』
「おい、セクハラは止めろ」
『なによぉ。ちょっとぐらいいいじゃない。ソディアには見せたんでしょ?』
「わぁーっ」
「きゃーっ」
『あらぁ、思い出したのかしらぁ?』
顔を手で隠して赤面するソディア。
お、思い出した!?
「おほんっ。作戦中ですわよっ」
腰に手をやり俺たちを叱咤するアリアン王女……様になってるな。
話を戻して作戦内容を告げる。
「まず、アリアン王女には、キャスバル王子のペンダントを入手してきてもらいます」
「ペンダントですの? それをいったい」
「俺は死霊使いですが、そうなる前から幽霊の類が見える体質だったんです」
まずはペンダントに憑りついた王子の霊に語り掛ける。
何故王子が殺されたのか、その犯人が誰なのか。
出来れば彼の遺体がどこにあるのか、それも教えてもらって見つけてやらなきゃな。
「猶予は明日の朝までです。それを過ぎれば俺たちは城を出ていかなきゃならないので」
「えぇ、そうですわね。ニライナの使者の方々も、既にこの件を国に報告しているでしょうし……もし我が国の誰かが……そ、そんなことは無いと信じていますが、万が一そのようなことがあれば……」
アリアン王女は、ドーラム、ニライナ両国が衝突するのを危惧しているようだ。
そりゃあそうだろうな。
自国の王子が行方不明で、王家の紋章の入ったペンダントが相手国で見つかったってなれば……。
「誘拐したのはドーラムだ……と、向こうの王様に報告してるよな」
「暗殺も疑うでしょうしね。急ぎましょう」
暗殺……その犯人がいったどちらの国の人間なのか。
今のところ有力なのは、残念だけどドーラムの人間だ。
誰が王子を暗殺したのか、それも彼のペンダントがあればすぐに……。
うぅん、なんか引っかかるんだよなぁ。
暗殺者……ね。
「暗殺……あ……」
「どうしたの、レイジくん」
「私、急いでペンダントを取りに行ってまいりますっ」
「あ、あぁ。三人とも、王女の護衛頼んだぞ」
『任せて〜』
『んふふ。あとでご褒美ちょうだいね』
『カルネちゃん、いっきま〜すっ』
大丈夫かな……。
アリアン王女が部屋から去って、改めて俺が思った違和感をソディアに伝えた。
俺たちが国境の検問所でジャスラン隊長と出会ったとき、王女が彼に話した救出までの経緯。
その中で王女は「何者かに誘拐された」と話したはずだ。
「そう……だったかしら」
『そうですね。ボクもその話、覚えてます。王女は確かに何者かによって、と言っていました』
『俺も聞いてやした。でもそれがどうしたんで?』
アンデッドたちも出てきて、覚えてる、覚えてないという話に。
「黙ってくれ」
『『はい』』
何者かによって、そう話したはずなのに、翌日の馬車でのジャスランの言葉――。
――いつまた暗殺者らがやって来るやもしれないのですから。
「なぁ、俺かソディア、コラッダでもいい。誰か一言でも暗殺者が犯人だったって、あの隊長に話したか?」
「え……」
『うぅん。ボクは言ってないですね』
「私だって。そもそも王女様は、自分をさらった奴らが暗殺者だったことも、奴隷商だったことも知らないはずですもの」
そういえば王女にも教えてなかったな。
彼女、暗殺者たちを「ならず者」と言っていたし。
『あれ? じゃああの隊長さんに暗殺者が犯人だって、誰が教えたっすか?』
首を傾げるコウに俺は――。
『まさに奴が犯人じゃからじゃ!』
俺は……アブソディラスによってセリフを取られてしまった。
こいつ、面倒ごとに巻き込まれるのは嫌じゃみたいな態度だったくせに、なに急に張り切ってんだよ。
ロクな背後霊じゃないなまったく。
背後霊……そういえば。
「なぁアブソディラス」
『ん? なんじゃ。はよ次なる指令を出さんのか?』
「指令って……そうじゃなくって。謁見の間で俺が見たキャスバル王子の霊だけど、お前は見てないのか? 同じ幽霊なら見えるだろ」
『アンデッドも見えるじゃろ。でなければこやつらが儂を見れるはずないのじゃから』
それもそうか。
あの場にいたコラッダ、それから影の中に潜っていたアンデッドに聞いても、誰も見えていなかったという。
当然、アブソディラスもだ。
「なんで見えなかったんだろう?」
『『さぁ?』』
全員で首を捻る中、司祭のタルタスが訪ねてくる。
『あのぉ、もしかして……王子の霊って、薄くなかったですか? その――存在感というか、見た目がというか』
『何言ってんだタルタス。俺らだって薄いだろ?』
『チャックさんは黙っててください』
『……最近の若いやつはよぉ……チクショー』
ぶつぶつ言いながら俺の影へと戻っていくチャック。
アンデッドの世界も大変だな。
「えっと、それでキャスバル王子のことだったな。確かに薄いなと思った。アブソディラスよかより、なんていうか……色が薄いような?」
『そう……ですか』
「レイジくん、それって……えぇっと、霊体の周りに靄があったわよね?」
ある。
幽霊が出てくるときってのは、だいたい靄が見えるものだ。
怨念だと黒く、そうでない浮遊霊や地縛霊、こちらに危害を加えようという意志のない幽霊は白い靄だ。
十八年間幽霊に悩まされて生きてきたが、あんな光ってる靄は初めて見た。
「ちょっと光ってたぜ」
「うぅん……それってもしかして」
『もしかしますねぇ』
ソディアとタルタスがお互い顔を見合わせて頷き合う。
もしかしてって、どうもしかしてなんだ?




