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54:鼻の下、伸びてるぞ?

「キ――」

「わぁぁぁぁっ」

『わぁぁぁぁっ』


 アリアン王女が叫ぶ前に、俺とコラッダが慌てて彼女の口を押え、同時に扉を閉めた。

 もごもごと声を上げる王女に、絶対叫ばないでくださいと念を押し、彼女が頷くのを待ってから解放する。

 彼女は恐怖に怯えた表情でゆっくりと口を開いた。

 ぐ、やっぱり叫ぶのか?

 こんなところで俺は死霊使いだとバレるわけには――。


「キャスバル王子の亡霊って、どういうことですか……」

「え?」

「キャスバル王子の亡霊とは、どういうことですか!」

「わーっ。しーっしーっ」

「大丈夫よレイジくん。風の精霊に、室内から音が漏れないようしてもらったから」


 見るとソディアの方にはシルフがちょこんと座り、にこにことほほ笑んでいる。

 っほ。よかった。


「どういうことなのですか!」

「いや、どういうことというか……」

『あっしらの存在を、完全無視していやすね、この王女様』

『それだけ恋人のことしか頭にないのよ。あぁ〜ん、私、その気持ちわかるぅ』


 つい最近、恋人を先立たせたルーシーは、目を潤ませてそういう。

 だったら一緒に成仏すればよかったのに。


 ゾンビスケルトンゴーストを完全無視した王女の気迫に押され、俺はトイレの外で聞いた男の声と、そして謁見の間で見た男の亡霊の話を彼女に聞かせた。

 その男の特徴を話した時、アリアン王女の表情が明るくなる。


「キャスバル王子ですわっ。どこで……どこで彼を!」

「いや、ですからその……ペンダントから立ち上る靄の上に……」

「靄? 何故靄の上にキャスバルが?」

「その……なんと言いましょうか……」


 俺はチラリと周囲のアンデッドを見渡す。

 それにつられてアリアン王女も周囲を見渡した。


 視線をぐるりと回し、一周して俺へと戻ってくる。

 そして――。


「きゃあぁぁぁぁぁっ」


 倒れた。

 どうするんだ、この状況……。


「アリアン王女っ、アリアン王女っ。レイジくん、彼らを収納しちゃって!」

『しゅ、収納……』

『私たちぃ、お洋服じゃないですしぃ』

「いいから影に入れ」


 そして俺はタンスじゃないぞっと。

 強制力を働かせてアンデッド全員を影の中に。

 あ、コラッダまで入ってしまった。まぁいいか。


 ソディアが気を失ったアリアン王女を起こした時には、アンデッドの姿はどこにもなく、まるで夢でも見たのかというような顔で王女があたりをきょろきょろ。


「王女様……その、俺は……死霊使い、です」


 その言葉を耳にして、王女の視線が俺で止まる。

 やや間があって、彼女が問いかけてきた。


「死霊……使い……ですの?」

「はい」

「キャスバルは……レイジ様にだけ、見えますの?」

「……はい」


 その意味をアリアン王女が理解するのに、そう時間はかからなかった。

 口元を抑え涙を浮かべたかと思ったら、次の瞬間には大きな声を上げ泣き叫ぶアリアン王女。

 ソディアがそんな彼女を支え、俺はただ王女が泣き止むのを待つしかなかった。






「そう……ですか。キャスバルはもう……」


 泣き止んだアリアン王女は力なくそう呟いた。

 儚く崩れ落ちそうなほど弱々し気な表情だったが、直ぐに涙を拭って唇を噛みしめた。


「キャスバルが事故で亡くなるなんてことはありません。あのペンダントがそもそも何故この城で見つかったのか、不可解な点があります」

「王女が誘拐されたとき、持っていたのですか?」


 その問いに王女は頷いて応えた。

 馬車に乗り込む時、着ていた服のポケットに入れていた――と。


「服……は脱がされたと言ってましたよね。馬車の中にも無かったし」

「はい……。では、衣服ごと持ちだされたのでしょうか?」

「そうだろうな……でもいったい誰が」


 あの死んだ奴隷商だろうか。

 それとも暗殺者……。


「暗殺者は王女の誘拐を依頼した奴の手の者みたいだったしな。もしかしてそいつらの仲間がこの城に……だとすると」


 王女誘拐犯はこの城の中にいる?

 忍び込んでいるのか、それともこの国の貴族か誰かの仕業ということに?


「誰がキャスバルを……誰がっ。私、絶対に許しません。見つけだして、きっとこの手で!」


 怒りをあらわにするアリアン王女だが、誰が王子を暗殺したか――その手掛かりを知る方法はある。

 その為には王女の協力が必要なんだけども……そんなことをお願いして、彼女の身に危険が迫ったらどうしよう。

 

『ぬぅ〜。早く出発せんかったから、面倒ごとに巻き込まれたではないか〜』

「巻き込まれたのはお前じゃないだろ、アブソディラス」

『リアラアァァァ』

「はっ。そ、そうです。みなさま方を巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません」

「あ、いや、そういう意味では」


 アリアン王女は落ち着くと、再びその目に涙を浮かべて訴えた。


「どうか……どうかキャスバルの無念を晴らすため、私にお力をお貸しください」


 ――と。

 縋るようなその視線に、思わず息を飲む。

 そして……。


『主も男なら、女子に涙を流させるものではない! さぁ、いざ行かんっ。悪党退治に!!』


 鼻の下、伸びてるぞ?


「レイジくん! アリアン王女のため、悪党を許してはおけないわ!」

「え? ソ、ソディアまで?」

「女から愛する人を奪った罪――絶対許さないんだから!!」


 そう豪語するソディア。


「ソ、ソディアもその……恋人を……」

「え!? ち、違うわよ。わ、私は、女としてアリアン王女の気持ちがわかるってだけ。こ、恋人なんて、今まで……一度も……」

「あ、そう、なんだ」

「うん。そう、なの」


 なんとなく気まずいような、それでいてどこかほっとする。

 そんな空気が流れる後ろで、アリアン王女が復讐を誓っていた。


「絶対に私のこの手でキャスバルの仇を!」


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