47:なんか盛り過ぎぃ
「キャスバルから手紙が届いたのですか?」
侍女が笑顔で私に手紙を持って来た。
「はい。今しがた、伝書の者がお持ちしまして。手紙と一緒にこれが――」
侍女が包みから取り出したのは、まぎれもなくニライナ王家の紋章が刻まれたペンダント。
これは間違いなくキャスバルの物だわ。
彼が大好きな青い瑠璃石が嵌め込まれたペンダントですもの。
手紙には、両国親善会議に出席するのに、一足先に国境近くまでやってきた。だから会えないか――と。
会いたい。
年に一度、湖の畔にある北の別荘地でほんの数時間、愛を語らいあうことしか出来ないんですもの。
会いに行きたい。
もともとキャスバル王子とその一行をお出迎えする役目をお父様に言いつかり、国境に近いこのドレスティンの町までやってきている。
明日には私の親衛隊とともに国境までお迎えに上がる予定だったけれども……。
彼はもう到着している。
なら、会いたい。
王族としての務めとしてではなく、ひとりの女として彼に会いたい。
「私――」
「迎えの馬車も用意してあるとのことで、裏まで来ております。幸い親衛隊隊長ジャスラン様がこちらに到着されるのはまだ先です。今のうちでしたら……」
「本当!?」
「さぁ、アリアン様、急ぎませんと。お時間が勿体のうございますよ」
「そうね。直ぐに支度をしなくちゃ」
きらびやかな服を脱ぎ、手持ちの衣装の中で一番質素な物を選んで着る。
更にその上から侍女が用意してくれた外套を羽織り、彼のペンダントを持って屋敷の裏へと向かった。
そこにあったのは一台の馬車と五頭の馬。
馬には誰も騎乗していないけれど、誰が乗るのかしら?
そう思っていると、馬車の中から「お迎えに上がりました」という男性の声がして馬車のドアが開いた。
私は時間が惜しいとばかり、急いで馬車に乗ると――。
「乗った瞬間ドアが閉められ、中にいた二人の男の手によって……」
衣服を脱がされ縄で縛られると、何かの薬品を嗅がされて意識を失った――と。
早朝の出来事だったそうだが、それは今日の朝なのか昨日の朝なのかはわからない。
「薬で丸一日以上気を失うってあるのかな?」
「かなり強い薬になるわね。ヘタをすると命の危険性だってあるし……どうかしら?」
『目覚めは悪くないようじゃからのぉ。それほど強い薬ではなかろうて』
「そんな強い薬だと、目を覚ました後も後遺症が残りそうだけど、それもないし。強い薬ではないと思うわ」
だから誘拐されたのは今朝だろうとソディアは話す。アブソディラスもその意見に同意している。
ソディアはアブソディラスの声が聞こえないっていうのに、相変わらず同じような意見を言うよなぁ。
ともあれ、誘拐されて早いうちに救出できて良かったかもしれない。
成仏した奴隷商の話を考えても、拉致したのは隣国の王子でないのは確定だろう。
じゃあ誰が?
もしかして向こうの国の第二王子だとか、そんなんだったりするんだろうか。
兄貴が隣国の王女と密会していると親に知らせ、自分に王位を――んな訳ないか。
まぁ、なんとなく誘拐しました……なんてことでは絶対無いのだけは分かる。
とにかく、王様に会うのはちょっとアレではあるけど、せめて国境警備隊の所までは一緒に行ってやらないとな。
「アブソディラス、いいか?」
『うむ。可憐な娘をひとり放ってはおけぬからの』
お前……そのセリフ、リアラさんの仏前でも言えるのか?
「彼、いいって?」
「あぁ……」
「そう、よかった……どうしたの?」
「いや……これがさ――」
アブソディラスの言葉をソディアにも教えると、彼女も呆れた顔になっていた。
やっぱそうだよな。
あんだけリアラリアラ言ってて、綺麗な子が出てくると鼻の下伸ばしたりなんかしてさ。
あれ?
そういえばアブソディラスって、ソディアにはデレデレしないんだな。
リアラさんに面影が似ているとかなんとか、最初の頃に言ってた気がするけど。
逆に初恋の人に似ているからデレられない、とか?
うぅん、よくわからないな。
やがて馬車は国境の検問所へと到着。
そこで警備兵は心臓が飛び出るような光景を目にすることになる。
まさか自国の王女様が、隣国の――ヴェルジャス側の山道からやってくるとは思わないもんなぁ。
「みなさん、私はつい先ほどまで、どこの誰かも分からぬ輩に捕らわれの身となっておりました」
王女が声高らかにそう伝えると、何故か警備兵は俺を睨みつけてくる。
おいおい、誘拐犯がのこのこ出てくる訳ないだろ?
「私はここにいるお三方に救われましたっ」
王女様も悟ったのか、直ぐにフォローしてくれる。
一瞬の間があったが、この時コラッダが自慢の剣を地面に刺し、堂々とした姿を披露した。
『レイジ様、胸を張って』
「お、おう」
するとどうだろう。
集まった警備兵十数人が、突然拍手喝采を浴びせてきた。
「あっ。私としたことが、みなさまのお名前を伺っておりませんでしたわ。どうか我が勇者よ、お名前をお聞かせくださいまし」
微笑むアリアン王女から「勇者」と呼ばれ、俺の胸が高鳴る。
アンデッドたちに勇者様と呼ばれてはいたけれど、こうしてお姫様あたりにそう呼ばれると、やけに照れ臭いものがあるな。
こ、ここはひとつ、かっこよく名乗りを上げるか――と思っていたら、隣からぐいっと俺を押しのける手が。
「ソ、ソディアです」
照れ笑いする俺を押しのけ、ソディアが先に名乗ってしまった。
「ふふ。ソディア様ですね。それと――」
「お、俺は――」
『騎士見習いのコラッダであります、アリアン王女様』
コラッダにも先を越された。
『あ、でも自分は今、どこの国にも所属しない、流浪の騎士でして』
「まぁ。では今はお二人とともに旅を?」
『はい。この方に救っていただき、今は主君としてお仕えさせていただいております』
「そうでしたの。それで――」
来た!
遂に俺の出番。
主人公は最後に登場ってね。
「お、俺は――」
『数々の魔法を使いこなし、ヴェルタの迷宮に救う数百というモンスターを僅か一発の魔法で殲滅させ、守護者すらも素手で殴り飛ばす希代の若き天才魔導士――レイジ様です!』
……なんか盛り過ぎぃ。
サブタイ忘れてた・・・