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48:お前食べてないだろ

「お前のせいだぞ、コラッダ」

『ボク、なにか変なこといいましたか? ボクはコウさんたちに聞いた話を、そのまま喋っただけですから』


 それに、守護者を素手で殴り飛ばしていたのは見ていましたよ――とコラッダは言う。

 あの、それって俺じゃなくってアブソディラスだから。

 だいたいコウの話なんか鵜呑みにするなよ。


 そしてコラッダの話を鵜呑みにしたアリアン王女と警備兵たち。

 必要以上に持ち上げられ、今じゃあ大魔導士から賢者にまでクラスチェンジさせられている。


「賢者レイジ殿、お食事はお口にあいますか?」

「え、えぇ。ずっと非常食ばかりでしたから、久々に柔らかいパンが食べれて感謝しています」

「そんな、感謝だなんて滅相もございませんっ」


 時間が時間だけに、検問所で昼食をご馳走になっているのだけれど……落ち着いて食事も出来やしない。

 王女も同席しての昼食なんだが、彼女より俺のほうに警備兵は集まってくる。

 そこ、チヤホヤしなきゃならないのは、王女の方だろ?


 が、よく見ると、遠巻きに王女を見つめる警備兵が多い。

 やっぱ相手の身分が高いから、近づきがたいっていうのがあるんだろうか。

 しかも王女様、美人というか、まだどこかあどけなさの残る、可愛い感じの人だもんなぁ。

 可愛い……と言えば、当然と言うか、ソディアにも警備兵が詰めかけている。

 中には明らかに鼻の下を伸ばした奴も。

 迷惑そうなソディアだが、それ以上にいろいろ問題なのはコラッダだ。


「コラッダ殿。お食べになられましたか?」

『た、食べました』

「冑はお外しになられないので?」

『……お見せできないのです』


 うん。そうだな。見せるといろいろマジいもんな。

 だってあの中身……ゴーストなんだから。

 あたふたするコラッダを助けるかのように、食堂の外が騒がしくなる。

 すぐにガチャガチャと甲冑の音が近づいて来てドアが開け放たれた。


「姫!? お探しいたしましたぞっ。まさか検問所までやってきていたとはっ」

「ジャスラン……ごめんなさい。私が不注意でした……」


 入って来たのは二十代後半の、青い甲冑を着た男だ。

 なんかどこぞの勇者みたいなカラーリングだな。


「ジャスラン様、アリアン王女は――」

「ジャスラン、ごめんなさい……。私、あなたの不在をいいことにその……こっそり屋敷を出て、町の見学に出ようとしたのです。その時に、何者かに誘拐されて――」

「な!?」


 アリアン王女、恋人と会うのが目的だったとは話さないのか。

 やっぱり一国の王女と、同じく一国の王子の恋って、難しいみたいだな。


「っく。私が近くにいたならば、姫を危険な目になど……しかし、いったいどうやって逃れてきたのです?」

「えぇ、そこにいる方々に救っていただきました」

「そこの?」


 俺たちのことはまったく目に入っていなかったらしい。

 ジャスランという男が初めてこっちを向いた。

 やや間があって、突然ツカツカとやってくる――ソディアの下へ。


「美しいお嬢さん。名をお聞かせください」

「え? え?」


 彼女の手を取り、その甲にそっと口づけ――をしようとしたが、ソディアがサっと引っ込めた。

 ジャスランって男、かなりのイケメンだと思うんだけど、ソディアの好みではないのか。

 手を引っ込められキョトンとした顔だった男は、めげずに再びソディアの手を取る。


「失礼しました。私はドーラム王国第三王女アリアン姫の親衛隊隊長、ジャスラン・ロレックスンと申します。姫の命をお救いくださった貴女のお名前を、どうか私にお聞かせください」

「ソ、ソディア……です」

「ソディア! おぉ、なんと美しい響きだ。貴女にピッタリなお名前です」

「はぁ……」


 たぶん、同じセリフを何人もの女性に言っているんだろうな。

 しかし親衛隊の隊長さんか。

 今回のアリアン王女の件、下手すると彼に責任を負わせられるかもしれないだろうな。

 もちろん王女が勝手に出ていったのが悪いんだろうけど、それが出来てしまう状況を作った訳だし。

 そんな彼のピンチも、俺たちが救ってやった訳だ。


 それなのに――。


「では姫。お食事も済まれたようですし、王都へ戻りましょう」


 俺とコラッダはスルーですか!


「え、しかし……キャス――ニライナからのお客様をお迎えにいかなければ」

「ニライナ王国のご一行は、既にドレスティンへと到着しております」

「え!?」

「北西のルートからお越しになられたようで、ほぼすれ違いだったのですよ」


 北西ルート?

 土地勘の無い俺にはサッパリだ。

 それが分かったのか、警備兵のひとりがこっそり教えてくれる。

 

 この検問所はヴェルジャスとニライナ、その両方に伸びるルート上にある検問所だ。

 ここから東がヴァルジャス帝国。北がニライナ王国となる。

 そして山脈を通らない、北西にはニライナと隣接する検問所がある。こちらは山道ではなく平地の国境線なので、普通はそちらから出入国するほうが多い……と。


「一行は急いで王都へと向かわれるそうで、ドレスティンで一泊するご予定を取りやめ、直ぐに出立するとのことでした」

「え!? で、では私も――」


 立ち上がったアリアン王女は直ぐに出発するという。


「レイジ様、ソディア様、コラッダ様。申し訳ございませんが、私も直ぐに後を追いとうございます。ごゆっくりして頂きたかったのですが……」

「ソディア、すぐ行けるかい?」

「えぇ。食事はもう終わったし、大丈夫よ」

『ボクもです』


 いや、お前食べてないだろ。

 気を取り直して席から立ちあがる時、ジャスランと一瞬目が合う。

 突き刺さるような視線――いや、気のせい?

 

 穏やかな顔で彼は王女に尋ねる。


「姫、この者たちも?」

「えぇ。私を救ってくださった方々です。ぜひともお父様とお会いして頂きたくて」

「左様でございますね。きっと国の英雄として迎え入れられることでしょう」


 どんどん俺の肩書きがアップグレードされていく気がする……。


 アリアン王女も特に支度もないと言うので、すぐさま馬車へと乗り込んだ。

 まぁそうだよな。誘拐されたんだし、手荷物なんてあるはずがない――と思ったが、馬車の中で何かを探しているような?


「アリアン王女、何かお探しですか?」

「えっ、あ、はい……その……ペンダント、を」

「あぁ、キャス――」

「しーっ」


 キャスバル王子のペンダント――そう言おうとしたが、ソディアに口を塞がれてしまう。

 はっ。そうか。

 親衛隊や警備兵が近くにいるのに、王女と王子の仲を感づかれてしまうようなこと、迂闊に口にする訳にはいかないな。


 王女にペコリと頭を下げると、王女も気にするなとばかり首を左右に振る。

 うぅん。親しみやすい雰囲気の、良い王女様だなぁ。

 世の中こんな王族ばかりだったら、きっとこの世界は平和なんだろう。


 けど……ふと思い出すのは、ヴァルジャス帝国のあの王子の顔。

 俺を疫病神か何かでも見るかのような、蔑んだ目。

 あの王子とアリアン王女とが同じ王族とは、とても思えないな。

 国が違えば人も変わる……のかな。


「さぁ、出発いたしましょう。ん? 姫、どうかなさいましたか?」

「い、いえっ。なんでもありません。さ、さぁ、行きましょう」


 結局ペンダントは見つからなかったか。

 王女を連れ去るために使われたペンダント……さすがに本物じゃあないだろう。

 よく出来たレプリカで、王女を騙そうとしたんだろうな。

 でなければ、どうやって王子のペンダントを手に入れたんだよって話だし。


 馬車の御者台に俺とコラッダ。

 中にはアリアン王女とソディア、そしてジャスラン隊長が。

 馬車は親衛隊の騎士十数人に囲まれ、まずはここから一番近い大きな町、ドレスティンに向かう。


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