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34:何で影の中にこの人数が入るのか

 アンデッド軍団は殲滅された。


 ってことになっているので、ここからは俺、そしてソディア、あと竜牙兵、あと案内役のチャックだけで進むことになった。


「竜牙兵も十体いれば安心だな」

「数、増やせたのね」

「あぁ、俺も今知ったところだ」

『そりゃあ召喚できるじゃろ。骨があればいくらでも増やせるんじゃから』


 いくらでも……俺の全身の骨を使えば……いや、止めよう。

 再生能力が高いとはいえ、全身の骨が一瞬で生えてくるとか、もう化け物じゃないか。

 考えただけで恐ろしくなる。


 下の階層に行けば行くほど、出てくるモンスターが強くなる。

 更に同じモンスターでも、上の階層にいたやつより下の階層の奴のほうが強い。

 だが竜牙兵も強い。

 そもそも腕の立つ冒険者数人分の実力があるんだ。

 その上【死】に対する恐怖なんかもない。

 ただひたすらモンスターを倒し、俺を守ってくれるだけだ。

 そんな竜牙兵にエールを送る。それが俺の今の仕事だ。


「がんばれ〜竜牙兵。負けるな〜竜牙兵」

「もうっ、気が抜けるからその声援止めてよ」

「ごめん。やることなくって暇でさ」


 "爆炎フレイム"は当然だが、爆風の威力があり過ぎておいそれとは使えない。

 最終破壊兵器だからな。

 

 そういや"火球ファイア"って薪を消し炭にはしていたけど、実際威力ってどうなんだろう。

 ちょっと使ってみるか。


 三十八階層まで下りてきたが、ここにきてまたもやフィールドタイプのエリアか。

 地下三十八階に草原とか、まったく非常識な迷宮だな。

 背丈の高い草をかき分け進み、襲ってくる黒い犬(ブラックハウンド)目掛け試し打ち。


「"燃えよ、始原の炎――火球ファイア"はいっ」


 突き出した右手から発射した直径五メートル火球は、ブラックハウンドを数体を包み込んで吹っ飛ばす。

 火球が巨大な岩に激突した後、焦げて炭化した犬だけが残っていた。


 おぉぉ! 威力あるし、一撃なら使えるじゃん!

 

「"火球"って、魔法の中でも初歩の初歩。最低火力なんじゃなかったかしら」

『普通は火傷を負わせる程度ですぅ。それに単体魔法だったはずなのに、範囲魔法になってるですぅ。異常ですねぇ』


 はっはっは。

 これで俺も活躍できるぞ!


「よし、次! "燃えよ、始原の炎――火球ファイア"はいっ」


 次々襲ってくる犬どもを、その都度消し炭にしながら前進。

 チャックの案内で三十九階へ、そして四十階へ。


「どうせ安全地帯には入れないんだ。行けるところまで行く?」


 ソディアにそう尋ねると、


「そうね。さっきみたいにアンデッドを置いて安全地帯に行くと、ほかの冒険者に見つかって大変だし。進みましょう」


 という返事が。

 四十階層の冒険者はさすがに腕がたつだろう。

 一組のパーティーでも討伐しようなんて言い出しかねない。

 だったら――。


『四十五階層まで下りると、そこからは城の中みたいな構造になってやして。小部屋も結構ありやすから、内側から鍵を掛ければ安心して休めます』

「ならそこまで行こう。残りは明日だな」

「そうね。あの相田って連中もまだ下りてはきてないでしょうし。四十六階からは慎重に行きましょう」


 最下層までもう一歩だな。

 それにしても、迷宮っていうからワクワクしたんだが、思っていたより呆気なくここまで来たもんだ。

 まぁ、総勢六十名のアンデッドと竜牙兵という、数の暴力に訴えてきたからなぁ。

 これが純粋に俺とソディアの二人だけだと、こうはいかなかっただろう。

 そのうえ階段の位置を記憶している冒険者付きだ。迷うこともなければ当然早いのも当たり前。


 本日の野宿先となる四十五階層は、チャックの言う通り城の中みたいな構造になっていた。

 実際のお城を見たこと無いし、入ったことも無いのでこんなもんだろうという感じではあるが。

 壁は石を煉瓦上に積み上げたようなもので、ランタンが一定間隔で置かれている。

 ただし、灯りは無い。


『姉さん。ランタンの受け皿に水を注いでくだせぇ』

「……もう姉さんで固定なのね」


 ぶつぶつ言いながらソディアが水の精霊を呼びだし、ランタンの受け皿に水を少しだけ注ぐ。

 すると、何故か火が――いや、何かが発光している?


『これは光石こうせきつって、水に触れると発光する物でさあ。一部のモンスターの体内から出てくる貴重品で、四十五階から下の階層にはこいつが設置されているんですよ』

『でも光石には寿命があって、消耗品なのですぅ。結構高値で取引されるアイテムなのですよぉ』

「へぇ。ランタン代わりにしか使えそうにないのにか?」

『ええ。なんせ光ですからね。火を使うより安全でやすから』


 あぁ、そういうことか。

 火の不始末で火事なんてのは地球でもよくあることだ。

 普通のランタンだと油も一緒に燃やすから、倒れたり落ちたりすればあっという間に火事だな。

 その点、光なら倒れても落ちても、光はただの光だ。


「水に触れると発光するのか?」

『はいですぅ。他にも風と反応して炎を出す石や、温めると水を出す石なんかもあるですぅ。もちろん、単純に宝石を出すモンスターもいますですよぉ』

『我々はまっすぐ下層を目指しやしたが、上層階でも数は極端に少ないでやすが、そういったのを落とすモンスターはいるんでやすよ』

『冒険者は主にそういったモンスターを狙って、迷宮にはいるのです』


 他にもモンスターの素材なんかを、ギルドが買い取ったりしているから、それも目的なのだとか。

 倒せばダンジョンに還るモンスターだが、その前に解体して素材を剥ぎ取るのだという。

 か、解体か。

 グロはノーサンキューだな。


 暫く通路を進んだ先で、重厚そうな鉄の扉を発見。


『じゃあ今日はここで休みやしょう。あっしが先に中を確認しやすんで、ちょいとお待ちを』


 と言ってチャックは扉を開くことなく、にゅ〜っとすり抜けていく。


『安全でやんす。たまに室内にもモンスターがいるでやんすから』


 と言って出てくる。

 ゴーストって便利だな。


 中に入ると、今度はソディアが扉に向かって魔法を唱えた。


「"扉閉鎖ドア・ロック"」

「それも生活魔法?」

「えぇ。鍵の無い扉を外から開けられないようにする魔法よ」


 へぇ、こういった迷宮では役に立つ魔法だな。


 安全と、他人に見られない状況を確保すると、足元の影からアンデッド軍団がわっと出てくる。


『はぁ、こう人数がおおいと、レイジ様の影も狭く感じますじゃ』

「むしろ何で影の中にこの人数が入るのか……」

『影の見た目と中が同じではないぞい。影の中は使役したアンデッドにとっては、別の空間だとか言われておるからのぉ』

「アブソディラスも詳しくはわからないのか?」

『うむ。儂、死霊術は知識として知っておるが、使ったことも無ければ人さまの影に入ったこともないからのぉ』


 使ったこともないのに自信たっぷりに呪文を教えてくるとか……古代竜が凄いのか、それとも無責任なのか。

 

 着火魔法"火球ファイア"で火を起こし、夕飯の支度をしている間――アンデッド軍団がなにやら作戦会議をしはじめる。

 なんでもチャックの話だと、今、四十五階層には他の冒険者がいない、ということだ。


『他に冒険者が来ているなら、ランタンに光が点っているはずだ。受け皿に水を灌ぐと、だいたい丸一日は光っているからな』


 それが点いていなかった、ということはこの二十四時間、誰も来ていないということになる。

 もちろん明日、降りてくる冒険者もいるだろう。

 だが、少なくとも俺たちの方が先に進んでいる分、遭遇することはマズ無いはず。


『だから野郎ども。明日は張り切って暴れるぞ!』

『『おーっ!』』


 また始まるのか。

 アンデッド無双。

 

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