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32:追いかけて行って殺す

「おはよう。ちゃんと寝れた?」

「あぁ。ソディアは?」

「えぇ、ぐっすり」

『俺らは一睡もしてないっす!』


 それぞれのテントから出てきて挨拶を交わす俺たちに、コウが抗議の声を上げる。

 だったらお前も寝るか? と尋ねれば――。


『アンデッドっすから、寝なくても平気っす』


 ――という。

 だったら最初から文句言うなよ。


 俺たちは二十階にある通路の一つ、奥まった行き止まりになった場所で野宿をした。

 通路をアンデッドで塞ぎ、俺とソディアが眠っている間の安全を確保。

 夜の間は冒険者も休んでいるので、遭遇することはなかったようだ。


『ソディアの姉さんが見た冒険者も、そろそろ行動を開始する頃でしょう。見られないよう、気を付けやせんと』

「でも昨日、思いっきり大勢に見られてるだろ」

「姉さんって言うのは止めてよっ」


 チャックの話によると、この迷宮には十階ごとに安全地帯が存在する。

 そして冒険者はみな、休む際にはここにやってくる、と。

 ってことは、今この二十階層には何組かの冒険者がいるはずだ。

 安全地帯で休憩した冒険者が目指すのは、そこより下層。

 休むために急いで安全地帯に戻ろうってのに、難易度の上がる下層の安全地帯に向かう冒険者はいない。

 ってことで、進行方向が被る同一階層の冒険者より早く動きたい。


「じゃあチャックたちのパーティーが先行」

『あいあいさーっ』


 通路は幅が五メートルほどある。

 が、ゴーストはいいとして、スケルトンとゾンビも合わせて二十人ほどいる。

 それがひと固まりになって歩いているんだ。

 そりゃあハタから見たら怖いよな。

 挙句、遭遇するモンスターも踵を返して逃げていく連中まで出る始末だ。

 それをコウとコベリアが笑い声を上げながら追いかけて行って殺す。


「お前ら、鬼だな」

『鬼? いや、俺はゴーストっすよ?』

『アタシだってレイスよ。オーガなんかじゃないわよ。失礼しちゃうわね』


 オーガは鬼とも呼ばれているのか。

 いや、そういう意味じゃなくって。


 快進撃を続ける俺たちは、二十一階、二十二階……朝食後、空腹を感じる頃には三十階層に到着した。

 この階層付近の冒険者を偵察するために、アンデッド軍団にはその辺で待機してもらうことにし、俺とソディアの二人で安全地帯へ。

 中へ入ると五人前後のパーティーが三組、ちゅうど食事の準備をしているところだった。

 樫田たちはいないようだ。まだ上の階だろうか?


 三十階層はただの洞窟タイプで、ただ綺麗に四角く掘られた人工的な通路だ。

 そんな安全地帯は、学校の教室を三つ四つ繋げたような広さがあり、お互い干渉しない程度の離れて焚火を囲んでいる。


「あの連中はまだ降りてきてないようね」

「樫田たちのこと?」

「えぇっと、かしだって人のことは覚えてないけど、あの相田って奴だけはっ」

「あぁ……俺もビックリしたよ。あいつってあんな性格だったのかって」

「知り合いじゃなかったの?」


 知り合い、と言えば知り合いか。

 高校一、二年では相田とは違うクラスだったし、三年で一緒だったと言っても会話なんて……したことあったか?

 そう考えると、異世界に来て初めて会話したかもしれない。

 まぁ樫田と高田にはよく絡まれていたし、会話ぐらいはしたことあったけども。

 戸敷に関しては、あいつ、勉強のことしか頭にない奴だしな。

 もちろん話をしたことは、ない。


「知り合いって言っても、喋ったこともないからさ」

「そう……なの」


 パンをスープに浸して口に運び、今度は周囲の会話に耳を澄ませる。

 

 ――この迷宮で死んだ冒険者が、果たせなかった夢を叶えるためにアンデッド化して最下層を目指しているとか。

 ――しかも仲間を増やしながら進んでいるらしいな。

 ――その数、今や百を超えるって噂だぞ。


 一日で何故こうも盛られるのだろうか。

 だが幸いにして、この噂のせいでアンデッド軍団を見たらとにかく逃げようという意見でまとまっているようだ。

 俺とソディアがアンデッド軍団と一緒にいるところを見られる心配も減るってもんだ。


『おほ〜。あっちのパーティーじゃとな、アンデッド軍団にはデュラハンを先頭に最下層を目指しておるとか言うておったぞ』

「マジか。ついに存在しないモノまで加わってきたか」

「どうしたの?」


 ソディアにアブソディラスの言葉を継げると、さすがに彼女も噴き出す。

 そのうちヴァンパイア・ロードや不死者の王(ノーライフキング)も出てくるんじゃないかと。


『そのうち主の軍団に加わるかのぉ』

「何が?」

『ヴァンパイア・ロードやノーライフキングが』

「ぶほっっ」


 な、なんて恐ろしいことを言うんだこいつは。

 ヴァンパイアって吸血鬼だろ?

 あれ? 吸血鬼ってアンデッドだったっけ?


『あぁそうじゃ。有益な情報が一つあるぞい』

「ヴァンパイア・ロードの知り合いでもいるのか?」

『そんなもん、おらんわい。それよりもの、ここの五十階層に出るそうなんじゃ』


 出る?

 迷宮で出るっていったら……。


「お宝か!?」

『騎士の亡霊が』


 出なくていい。

 これはいったい何のフラグなんだよ。

 察したソディアも苦笑いを浮かべている。


 最下層で手に入れるのはお宝だけでいい。

 ソディア的には相田より先に最下層に到着したいみたいだが、まぁ出来ることなら俺も彼らより先に――。


「た、大変だっ!」


 そろそろ食べ終わるぞというタイミングで、安全地帯に駆け込んできたパーティーがいた。

 四人らしきそのパーティーは息も絶え絶え、顔面蒼白になって口々に叫ぶ。


「ア、アンデッドが!?」

「奴ら、この階層まで下りて来てやがった!」


 ……見つかった? 

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