2話 現れた時
「なんとか、終わったな」
15体ほどのエイリアンを駆逐したこの俺、カイと春香は、その場で休憩を取ることにした。
「学園のみんなは無事かしら?……心配だわ」
「……無事である確率は低いだろうな。あいつらは俺たちのように、エイリアンの言葉を理解したり、エイリアンの武器を使うこともできないからな」
春香は俺の返答に、涙目になった。
ちょうどそのとき、雨がポツポツ降り始め、春香は俺に言う。
「また、前みたいにみんなで遊びに行けるよね⁉ねぇ!カイ‼」
「そんなの……わかんねぇよ……」
俺はそう答え、雨に濡れながら空を見上げた。雨といっしょに涙も顔に流れる俺の姿は、春香にも見えていた。
ーー開戦の3時間前ーー
「よぉ、カイ!また遅刻の5分前だぞ!」
「お前っていつも学校来るの遅いな、まぁ、それがカイっぽいけど」
学園の教室に入ると、俺のクラスメイトたちがそう俺にからかってきた。
俺は自分の席に着席しながら、返答する。
「仕方ねぇだろ。今日、通学バスが来るの遅かったんだよ」
「いつもそれが言い訳だよな」
「う、うるせぇ。あれ?今日、春香は休みなのか?」
「ん……天野なら、さっき気分が悪いって言って、保健室行ったぞ?」
「ふーん……。まっ、いっか」
そんな会話をしながら、授業が始まった。
いつもと何も変わらない日だと、そのときは思っていた。
ーー開戦の2時間前ーー
数学の授業をしていた。
担当教師はメガネをかけたハゲ頭の親父で、すぐ怒り、怒るとめんどくさい先生だ。
「では問1を朱谷、答えなさい」
「えーと…」
先生に指名された問題を答えようとした瞬間、不思議な声が聞こえた。
『気ヲツケテ……彼ラガ……来ル……』
「え?」
俺は思わず周りを見渡した。しかし、誰もそんな言葉を発していなかった。
「へへ、どうしたんだよ?問題わかんないのか?」
「こんくらいの問題、わかるだろ?」
クラスメイトの男子たちが俺にからかうと、先生がさっそく怒り出した。
「そこうるさい!ほら、朱谷、わからないならわからないって言いなさい」
「声が聞こえた……。気をつけてって……」
「はぁ?何を言っているんだ君は」
俺も自分で何を言っているのかわからなかった。きっと空耳だろう。
そう、思い問1の答えを答えようとしたとき、今度ははっきり聞こえてきた。
『気ヲツケテ!』
その瞬間、空は晴れているものの激しい雷鳴が聞こえてきた。
ドォォォォォォォンンンン‼‼‼‼
という音とともに凄まじい風圧が襲ってきて、学園の窓を一瞬で全て粉砕した。
学園だけではない。すべての建物の窓を粉砕したのだ。
「「「きゃあああ‼‼」」」
「な、なんだ⁉」
クラスメイトはみんな混乱していた。窓側の席に座っていた生徒は腕で頭は守ったものの、両腕が切り傷だらけで血だらけになっていた。
「外は危険だ!窓から頭を出すな!全員机の下に潜るんだ!」
先生は生徒にそう指示すると、生徒は黙って先生の指示通りに動いた。
窓が粉砕したことにより、突風が教室の中まで入ってきて、教科書やノートが宙を激しく舞っていた。
「一体なんなんだ⁉これは⁉」
「きゃあああ‼」
「みんな落ち着け!これはただの風だ!」
「おい、カイがいないぞ⁉どこ行ったんだ⁉」
「嘘だろ⁉あいつ、どこに行ったんだよ⁉」
生徒が机の下に潜りながら会話していると、先生は教卓の下に潜りながら、生徒たちに怒鳴った。
「黙れ‼避難訓練通りにやれば大丈夫だ!それにこれはただの風!すぐに止む!」
その言葉で生徒たちは冷静さを取り戻し、風が止むのを黙って待った。
そして、あの激しかった風はしばらくすると止み、生徒たちは皆起き上がった。
「一体、何だったんだ?」
「うわ、教科書とかバラバラだ」
「私の数学のノートなんて、どっか飛んでっちゃったわ」
生徒たちはそう話していると、先生が生徒たちに指示した。
「お前たちは教室の掃除をしてなさい。私は教室を出て行った朱谷を探しに行く。私語厳禁!わかったな?」
そう指示した先生は教室を出て行った。それと同時に生徒たちはため息を尽きながら、机や椅子に座り込んだ。
「はぁー、何なんだよ、全く」
「掃除とかダリィ……」
「う、うわぁぁぁぁ‼‼」
一人だけ、窓側で悲鳴を上げた生徒がいた。他の生徒はその窓側にいた子に聞く。
「なんだよ?どうした?」
「そ……空に……」
「空?」
他の生徒たちも、窓の外に頭を出し、空を見上げると、皆、顔が急変した。
一方、俺は春香が心配になり保健室へと走っていた。
保健室までは校庭を走った方が辿り着くまで早いので、校庭を上履きのまま走っていた。
だが、俺は空を見上げた瞬間、走っていたその足は止まった。
唖然としながら、空を見上げていた俺に、さっきの数学の担当の先生が校舎からこちらに走りつつ、怒鳴りつけてきた。
「こらぁ!校庭のど真ん中で何をやっておるんだ!」
俺はそんな先生を無視して、空を見上げながら唖然としている。
先生は俺の近くにやってきて、俺にまた怒鳴りつけてきた。
「早く教室に戻って、さっきのーー」
「先生……あ、あれ……」
俺は先生の話を割り切って、そう言いつつ空に向けて指差した。
先生も呆れた顔で空を見上げたが、その顔は急変した。
「空に何かあるとでも言う気か?……な、何だアレは⁉ひ、ひぃぃ!」
その先生は腰を抜かし、地面に尻もちついた。
そう、俺たちの見上げた先にあるものは、空に浮く見たこともない円型の巨大な大艦隊だった。
その円型の巨大大艦隊は普通の飛行船の35倍ほどデカく、360度の至る場所に大砲が設置されている。
このエイリアンの出現が、俺たち人類の絶望の始まりだった。