これまでの俺達とこれからの俺達
最終話&エピローグです
お付き合いいただきありがとうございました
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俺が根っから主人公なんてガラじゃないのはもうわかっていることだろう?
一目惚れした女性を救って退場するヒーローぶって格好がつくこともなく。
「うぉおおお!もっと引いて!ヤバいっ!」
浮き輪にしがみついて全速力でバタ足をしていた。
振り返ってみればみっともない救出劇だった。
生還したからこそ振り返れるってもんだが。
「あなた、行かないで」
その声が浮き輪から滑りかけていた俺の手を止めた。
必死なアイスブルーの眼差しを思い出す。
根拠はない。
ただ、ここで手を放すほうがよっぽど彼女を傷つけるような気がした。
だから放さなかった。
「あなた!」
俺の手の上にナディアのぷにぷにの肉球が乗せられる。
しっかりと。
もう離れない様にと。
「くそおお!放せ!」
俺は足首から上へと這い上る汚泥を振り払うように足を振るった。
ナディアも足をばたつかせて推力を産んでいた。
ぐいっ。
岸からの引力が強まった。
「牧師さん!ナディア!頑張れ!」
気づけば岸で救命浮き輪の綱を引く人数が増えていた。
誰が誰かはわからない。
さっきまで俺を池に落として殺そうとしていた連中なのに。
不思議ともう怖くなかった。
何とか岸までたどり着いた俺たちを村人たちが引き上げた。
「あなた!よかった!」
ナディアがすかさず俺を抱きしめた。
濡れそぼった毛皮越しに彼女のぬくもりが伝わる。
俺もその体を抱きしめ返した。
温かい涙がお互いの頬を濡らす。
何も言えなかった。
きっとお互いいうべきことはいっぱいあるだろうに。
今はただ、そのぬくもりだけで十分だった。
村人たちがさっき散々言っていたことがよくわかる。
記憶がなくても。
こんな状況でも。
ナディアが愛しくてたまらない。
「ナディア!」
村長が人だかりをかき分ける。
ナディアはハッとして俺を守るように自分の腕の中にかき抱いた。
「村長…いえ、お兄様。ペーターは一度池に落ちました。もう儀式は完了でいいでしょう?私から夫を奪わないでください」
村長は俺とナディアを交互に見てポツリと呟いた。
「そいつは……村にとって有益だ」
オーディエンスがざわめく。
村長は苦々しい顔で続ける。
「……村人の命を救ったんだ。当然だ」
ナディアがさらにきつく俺を抱きしめた。
村長もゆっくりとこちらに近づいてきたかと思うと、その大きな前足を広げてナディアを包み込むように抱きついてきた。
「礼を言う、ペーター・シュリーク。妹を助けてくれて。ナディアの夫はお前にしか務まらない……お前をこの村の者として認める」
感動の場面にそぐわないすごい苦々しい口調だった。
マジで嫌なんだろうな、この人。
それでも認められた。
生きることを。
ナディアの隣にいることを。
「くしゅん!」
ナディアがくしゃみをした。
それがお開きの合図となった。
-エピローグ-
自宅に帰るまでにナディアからあらかた事情を聞いた。
「つまり俺たちはラブラブ新婚夫婦ってことか」
「そうですけども…気になるのはやっぱりそこなんですね」
ナディアが苦笑する気持ちはわかる。
でも、俺が不死身とか死ぬ度に記憶がちょっとずつ巻き戻るとか、今この場でそんなに大事なことかな?
好みドンピシャの女性と命を助け合い、お互い両想いであることを確認したこの状況で。
やることなんて一つだよなぁ?
泥でドロドロの状態じゃなきゃ愛の巣に入ってすぐにでも俺はよかった。
ベッドで横になりながら、ナディアを待つ。
昨晩は処刑にビビり散らかして眠れなかったが、今目が冴えているのはまったく正反対の理由。
寝室のドアが開く。
パッと飛び起きる。
「あ、あなた!まだ起きていらしたんですね…!」
「そりゃあ、夜はまだまだこれからだからね…」
ナディアは尻尾をキュッと抱え込んだ。
「ねえ、俺達って夫婦なんだよね?」
「それ聞くの何回目ですか…」
「いや、こんな綺麗な奥さんがいるなんていまだに信じられなくてさ!それで、その。今まで俺達って夫婦生活の方は……」
ナディアは観念してベッドの端に座った。
「…1回です」
「ウソォ!?結婚して半年ちょいで1回!?」
ビックリした。毎晩1回でも驚かないレベルだってのに。前の俺はどんだけヘタレだったんだ!?
「私から…その、レスでして」
「ええっ!?なんで!?俺が初夜でなんかやらかした??」
「あなたって人は……あなたが悪いわけじゃないんですけども…」
ナディアの前足が伸び、俺のパジャマの袖をつまんだ。
「あなたさえよければ聞いてもらえますか。これまでの私たちのこと。なんでレスだったのかも含めて」
正直、やだよ。
俺と同じペーター・シュリークだってわかっているけども。
正味、前の男の話を聞くようなもんだから。
でも、ナディアにとっては大事な夫との思い出なんだもんな。
俺と共有してくれるっていうなら。ナディアが俺に話したいことなら、いくらでも聞くさ。時間はたっぷりある。
「いいよ。全部聞く。君が全部話し終わったらさ…」
ナディアの肉球をそっと握る。
ナディアは恥ずかしそうに目を伏せて、小さくうなずいた。
その後
牧師館は銀色の毛並みの腕白なケモノキッズたちをペーターがヒィヒィ言いながら追いかけて、その光景を赤ちゃんケモノに授乳中のナディアが微笑ましく見守るような日常が続いていくのでした
おしまい
メラニーやこの村の因習自体がどうなったのかはご想像にお任せしますが、
ナンセンスな因習やしきたりが誰にも是正されずに長期間保たれているのには相応の理由があるとだけ。




