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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
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第十八話 天上の光

少しだけ長いです。


「【火吹け(バースト)】」

 

 静かな詠唱。

 冷たい表情で放たれた神の一撃。

 四門が一つになり、全てを壊し潰さんと爆心した砲撃が及ぼした破壊は尋常ではない。

 地面には窪地がカイトと魔人を繋ぐように出来上がり、射線上に存在していたマナでさえ跡形もなく消し飛ばされている。

 他にも引き摺ったような跡ができていることから、防御体勢を咄嗟に整え衝撃に備えていた二人が少なくない距離を押されたのだと分かる。

 

「【オーディンの槍(グングニル)第一形態(ファーストフォーム)】」

 

 そして、張本人は何の感慨もなく元の形の槍へと戻した。

 徐に腕を引絞ればそれはまるで槍投げの姿で、ザリ、と地面が踏みしめられたと同時に、解き放たれた。

 電磁わ纏っていたのか音が弾け、大刀と左手を交差して砲撃を受け止めていた魔人の元へと爆来する。

 『黒』を爆爆発させて体積を膨らませ、衝撃と貫通力を殺し切る___ことはできなかった。

 着弾後も加速を続ける槍。

 回転までもが加えられている。

 猪突猛進__いや、絶対意志。

 何が何でも貫かんとするその強固さは空間を歪め、拮抗が破れた。

 突き刺さった、否、突き抜けたのは左肩。丸くくり抜かれた箇所からは『黒』が漏れ出している。

 

「【オーディンの槍(グングニル)第二形態(セカンドフォーム)】」

 

 反撃に出ようと膝を曲げたのも束の間、今度は背後から無数の小剣が襲いかかった。

 ドドドドドと雨のように突き刺さる『神器』。

 魔人がお得意の魔法を放とうとすれば槍へと変え、彼の頭部を激しく殴り抜いた。

 どうにかして柄を掴むも、直ぐ様小剣にバラけ度重なる傷を刻んでいく。

 そして、いいように弄ばれることへの怒りが振り切ったか、自身に攻撃を浴びせてくる『神器』を無視し、爆発を利用して加速、俯瞰していたカイトへ肉薄した。

 だが、

 

「遅い」

 

 やはり雷を上回る速度で飛来した槍。

 レオが貫いた箇所と同じ場所から矛先を生やす。

 そしてその先とカイトの右手には、一筋の電流が。

 更にその電気は魔人の肉体を縦横無尽に這い、『麻痺』を与える。

 困惑と怒りに相貌を歪ませていた魔人は突如力を抜き、フッと流れに身を任せた。

 ゆっくりと倒れる身体。

 地面に落ちる大刀。

 カイトは怪訝さを隠せず、何にでも対処できるよう槍を引き戻し、手の中に握って左手の白銀の槍と合わせて構える。

 次の瞬間、ダンッ!、と踏みしめられた右足が地面を割り、空間を罅割り、全方位に亀裂をばら撒いた。

 高まる威圧感。

 拡がる異常。

 踏みしめた魔人を中心に波紋が波打ち、広範囲へとそれは渡った。

 そして、肌を撫でた異様な気配に全員が皮膚を粟立たせ、その相貌を驚愕と焦燥、更には必死に染める。

 

「全員伏せろぉ!?」

 

 一番近くにいたカイトが、そう叫ぶ。

 

「【オーディンの槍(グングニル)第三形態(サードフォーム)】っ___【叡盾(アイギス)】っ!」

 

 そして唱えたのはリアの持つ神器と同じ文言と、これまで使ってきた黒金の槍の形を変えるものだった。

 二つの盾を構え、眼前の瞳に宿る圧倒的な殺意に抗うため神器の力を重ね合わし、半球型の障壁を展開する。障壁の下部は地面を貫通していて、それは推定する破壊力が彼自身の膂力で耐えきれるものではないと判断したからであった。

 全員がなりふり構わず防御体勢を取る中、急速に拡大された魔法の範囲は一瞬で圧縮する。

 何をするのか。

 何をしたのか。

 それは全てが終わった後に判明することとなる。

 生命力が、『白』が、『黒』が、マナが、マインドが、魔素が、光が、熱が、エーテルが、忽ち魔人の元へと吸い寄せられ、彼を中心に凝縮する。

 そして___

 

 

 

「【暴虐なる滅界(ヴラナンド・アルム)】」

 

 

 

 ___無理に抑え込んだ反発を暴走させ、世界を破壊する殲滅が放たれた。

 

 

 

 広がる膨大なエネルギー。

 あらゆるものを食い荒らし、喰い潰す。

 拮抗など一瞬しか許されず障壁は破壊され、捲り上げられた地面ごと吹き飛ばされ、全てが崩壊していく中で皆前後左右を不確定にした。

 煙ごと消し飛ばされたため、視界不良はエネルギーが消費されたことで生じた光によってのみで、単なる土煙よりも回復に時間が掛かってしまう。

 そんな中、いち早く視界を取り戻したのはカイトだ。

 自身のみが神を纏っていたため、総合的な身体能力は上昇し自然回復も高まっていた。故に再起が早かったのだ。

 障壁もエネルギーを吸収した二つの神器も壊れてしまい、残った神の残滓のみで立ち向かわんとする。

 本来神器は不朽不滅なのだが、擬似かつ模倣であったため消えてしまった。

 ダメージのレジストに多大なるマナとマインドを消費したせいで、再度生み出すのも難しい。

 自身の魔力ともう一つのスキルで何とか戦おうとする。

 がしかし、

 

 

「【冒涜(プロフェイン)】」

 

 

 アディンが力を取り戻す、ここに来る切っ掛けとなったあの戦いでルシフェルが使用していた魔法。

 それを発動し『黒』を纏わせた右拳が振り抜かれた。

 『神』の力が多少残っているとはいえ相手は時間が経ち『無限強化』の効いた邪眷属、反応する間もなく左頬に入ってしまう。

 振動する頭に視界と思考をブレさせられ、空中を貫く身体を動かすことなど出来なかった。

 

 辛うじて片目だけを開けば、目の前には殴り飛ばされた自分に追いつく魔人の姿。

 

 何が来るっ、と身構えたその瞬間広がったのは二対の翼だった。

 

 伸びる左手。

 

 掴まれる胸ぐら。

 

 突如増幅する圧力。

 

 自分が空に舞い上げられたのだと気付いたのは、空中で止まる浮遊感を感じたときだった。

 

 遠心力による強烈な慣性が身を襲う。

 

 急落下。

 

 抗う間もなく墜落。

 

 頭から背中、腰の順に着地。

 

 途方も無い衝撃が耐久で強化されたはずの肉体を壊し、全身の骨に罅が入ったのを内側から耳朶を打った音で悟る。

 

 盛大な破砕音は恐らく地面からだろう。

 

 そして迫る魔人。

 

 ルシフェルが使っていた無理挙動による肉薄なのだと理解する。

 

 それも束の間。

 

 【冒涜(プロフェイン)】により更に肥大した異形の左手はまるで隕石のようで、腹部など限定など出来ない巨大な攻撃範囲は殆ど全身を覆い、満身創痍に近い身体へ追い打ちが掛けられる。

 

 陥没する肉体。

 

 折れた骨が肉を裂く。

 

 墜落により吐き出された息は再度出ることはなく、口から噴いたのは血だった。

 

 視界が霞む。

 

 薄い光の中で輝くのは、大刀の切っ先だろう。

 

 剣尖が向くのはこちらだ。

 

 振り下ろされるのに、そう時間はない。

 

 ならせめて、置土産ぐらいは遺しておくべきだろう。

 

 多くの命を奪った者同士、けじめつけような?

 

 

 眉間に吸い込まれる大刀を眺めながら、俺は最期のスキルを発動しようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにいちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、魔人が派手に吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 そのとき、目覚めたのは幸運だった。

 マナとマインドの枯渇による症状は重い。

 時間経過で回復するそれは外部の干渉で拍子を鳴らしたように起きることはない。

 それがどうして。

 回復が上回ったか、耐性ができていたか、それとも内部の干渉か。

 何が要因となったのか判断はつかないけれど、とにかく、ギリギリのタイミングで覚醒したのは運が良かった。

 起きたとき私が見たのは、魔人が巨大な左手でボロボロのカイトを殴る光景だった。

 バネと触手が合わさったような動きで伸びる『黒』、いや【冒涜(プロフェイン)】。

 向かう先は『漆鉄』が変化した大刀。

 バシ、と手の中に収まったそれを魔人は逆手に構え、剣先を乗しかかるカイトの頭へと狙いを定めた。

 

 誰も死なせない。

 

 もう失いたくない。

 

 けれど、誰も間に合わない。

 

 魔人はどうにかできても、アディンが危ないからとジジイに止められていたけれど、無理だった。

 

 だから叫んだ。

 

 

 世界で一番強い人物を。

 

 

 精一杯叫んだ。

 

 

 世界で最も信頼する人を。

 

 

 助けて。

 

 

 世界で唯一___神へと至った兄の名を、叫んだ。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 アンナが悲痛な叫びを訴えてからは一瞬だった。

 二人の真隣に出現する豪奢なローブと数多くの魔道具を身につける男。

 魔法が放たれたと分かったのは、ただただ魔人が吹き飛んだことだけだった。

 魔法円さえも開かないその技量に全員が度肝を抜かれる。

 

「酷い怪我だ、じっとしておくといい」

 

 そう言って、彼は指を一度だけ振った。

 まるで、指先についた水滴を振り落とすかのように。

 するとどうだろうか、本当に雫は落ち、カイトに触れたと同時にそこから波紋が広がった。

 治癒が発生する。

 外傷は完治。

 しかし中までとはいかなかった。

 

「これじゃ足りないか、なら___」

 

 彼がくるっ、と円を描くように手を回せば、美しい翡翠の魔法円がカイトの下に展開し、光を立ち上らせる。

 

 

「【天樹光(キュリアル)】」

 

 

 全回復。

 ありえない、と彼を知らない者達の目が盛大に見開かれる。

 

「さて___」

 

 と、呟いた男はその場から一瞬で姿を消す。

 

「___アンナを泣かせた罪は重いよ」

 

 現れたのは魔人の背後だった。

 首に手を触れ、唱える。

 

 

「【浄化(パージ)】」

 

 

 浄化小魔法。

 ただそれだけのものだというのに___『黒』が弾けた(・・・)

 吐き出されるアディン。

 『黒』の外殻も、『黒』の大刀も、『黒』の身体も。

 何もかもが『白』に漂白される中、アディンの瞳は限界まで開かれ、押し出された勢いにたたらを踏み、そして立ち止まった。

 圧倒的な魔力。

 圧倒的なマナ。

 圧倒的な技量。

 圧倒的なその力に、誰もが唖然とし、絶句する。

 それはアディンも同じことで、強制的に『黒』を消し飛ばされたというのに、その後遺症も肉体の損傷も一切無く、まるで何事も無かったかのような錯覚に陥るほどの、健康な身体の状態だった。

 高まる心拍。

 荒くなる呼吸。

 固唾を呑み込み、ゆっくりと振り返れば、そこには怒りを顕にする男の姿が。

 感情に揺れる魔力を、アディンは自身の魔力〔破導〕の副次効果である魔力の可視化により目の当たりにし、らしからぬ呻き声を上げながら後退った。

 

「今回は見逃す」

 

 だが、という言葉に続いて眦がキツく彼を睨み、威圧を解放する。

 吹き出した魔力に空間が(ひず)み、世界が耐えきれなくなったのか、至る所に亀裂が走った。

 空気も震え、ありとあらゆるものが男に畏怖する。

 とうとうアディンは腰を抜かして瞳を揺らした。

 抗えない。

 立てない。

 絶対に、逆らってはいけない。

 睥睨してくる相手の大きさを測れないほど、アディンは錯乱も自失もしていなかった。

 

「流石にこのままじゃ辛いだろう、治してから帰るとするね」

 

 そして、彼は今までで一番大きな挙動である、両の手の平を天に向けて掲げるという行為を行い、展開した。

 空に浮かんだのは巨大かつ緻密かつ複雑な先程と同じ色の魔法円。

 高速で回転を始めたそれは、膨大な燐光を降らし、暖かな風を生み、美しい調べを奏でる。

 次には男の手の中には一振りの錫杖が現れ、先に埋め込まれた翡翠の宝玉が神々しい光を放ち、彼の足下には空色の魔法円が広がり、その内側に黄金の魔法円が合計六つ、六芒星の位置浮かぶ。

 大鐘楼の音色が幾度も重なり、その度視界にも揺らぎが可視化していた。

 空気の振動は錫杖を飾る六の鈴も揺らし、全てが輪唱する。

 光粒が漂う。

 雪結晶が落ちる。

 白羽が踊る。

 地面へ触れれば、それぞれが水面のように波紋を。

 

 

 

「【熾天の恵癒セラフ・ハイルミッテル】」

 

 

 

 顕現した美界が弾け飛ぶ。

 齎されたのは___全快。

 全ての不調は健康に。

 全ての枯渇は潤沢に。

 全ての苦痛は安寧に。

 世界に降り注いだ癒しは命に限らず空間にも及び、彼が歪ませたものも、魔人が壊したものも、何もかもが元通りに戻っていく。

 それはまるで再生しているかのようで、だがしかし、それ以上の結末を与えた。

 過剰な癒しは、命を芽吹かせる。

 不毛だったはずの大地は草原に変わり、メキメキと伸びた木は既に大樹へと成長し、咲き誇る花々は畑へと化していた。

 そう、楽園だ。

 たった一度の魔法。

 それをたった一人が詠唱無しに行使しただけだというのに、魔法という範疇を超えた概念まで干渉する現象を引き起こした。

 満足気に頷き、男はレオと『賢者』、アンナに特大の笑顔を贈り、手をヒラヒラと降って魔法円の光に呑み込まれ去っていった。

 残された者達は、恐ろしいぐらいまでの癒しを受けた身体を擦りながら、大きく深く安堵のため息を吐いたのだった。

次は幕間です。

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