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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第六章 賢者の洞窟
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第十ニ話 覚醒


「そん、な………」

 

 まさに顔面蒼白といった様子のリンカ。

 それは、森の映像が流れ出したときからずっと同じ様子だった。何かに気づいたのか、或いは心当たりがあるものがあったのか。しかし傍から彼女を観ても何の判断も出来ず、彼らは目の前に投影される記憶に集中する他なかった。

 そして訪れる終わり。

 意思を『黒』に染めたアディンがエルを殺した男達を惨殺するところで投影は終了した。

 それと同時に『賢者』は一つ舌打ちし、悪態を吐くように言った。

 

「やはり耐えられんかったか………全員構えぃ!!」

「みんなじじいの言う通りにしなさいっ、来るわよ!」

 

 何が来るのか、それは二人視線の向く先がたった一人の少年に向けられていたことから全員が察した。

 そしてそれと同時に___衝撃波が放たれた。

 魔力が立ち上る。

 空気が振動する。

 皮膚は粟立ち、鼓動はドクドクと早鳴りを示す。

 

 

『ガアァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

 世界を震わせる咆哮がビシビシと響き、そして闇が広がった。

 

「____っ【光あれ(リスプレンド)】!」

 

 対して拮抗したのは、咄嗟に放たれたリンカの白魔法だった。

 

「__くぅ…!?」

 

 だがそれも一瞬、『黒』に対して絶対的な優位を見せるはずの『白』が破れた。『黒魔導師』を消滅させ、『邪眷属』である『魔王』にさえ少なくないダメージを与えた『白』が、負けた。

 

「____っ」

「これは…」

「………」

「あ、アディン……?」

 

 『黒』が吹き荒れ、それぞれに立て直す中、奴は睥睨していた。

 蝙蝠(こうもり)と同種の二対の翼。

 長く鋭利な爪を持ち鱗に包まれた脚。

 人の身体を掴めるほどに巨大化した異形の左腕。

 光を喰らう暗黒に塗られた禍々しい大刀。

 額から生える歪な一対の角。

 あらゆるものを弾く黒鱗の鎧。

 卸金のような鱗を纏い伸びる太い尾。

 装甲を持たない殆どの肌にも黒鱗が揃っている。

 そして徐に右手が空に伸ばされれば、巨大な黒の魔法円が展開した。

 開戦の合図のように。

 まるで篩に掛けるように。

 これを耐えられない者など自分の前に立つ資格など無いとばかりに、黒の殲滅魔法が放たれた。

 

「【黒輪(ブラックネピュラ)】」

 

 未知の魔法の脅威を直感で察したのか、リアが血相を変えて全員の前に踊り出る。

 

「【叡盾(アイギス)】!」

 

 唱えたのは神に属する盾の召喚。

 自身の前方から浴びせられる魔法の全てを誘引し、自分のみで耐えんとする自己犠牲の力。アディン___魔人の直下の着弾点を中心に球型、本来広がるはずの破壊はその全てがリアの下に引き寄せられた。

 途方も無い衝撃が彼女の身体を打ち、大きく跳ね飛ばされてしまう。

 しかし、耐えきった。

 地面を削りながら仲間の元へ戻されるも、完全に防ぎ切った。

 

「でかしたのぉ!【世界よ我に力を(エーテル)】___【聖浄光(クラリスフェイト)】」

「【光槍雨(セイクリッドレインス)】」

「賢者殿、リンカ、複合魔法を」

「うむ」

「わかった!」

「ルナ、リンカ、じじいの時間稼ぎするわよ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 『賢者』とリンカの白属性魔法に続いて___

 

 ___ジャスミン、ジャックは『霊装』を纏いそれぞれの精霊が司る事象を発動。

 ___レオ、リンカは契約による封印を解放し『封器』の潜在能力を最大限に発揮。

 ___アンナとルナは『神化』、リアは『神器』の力を解放。

 ___カイトは『黒』に有効な白属性の武器を多種多様に生み出し『神器』へと昇格。

 同時にリンカ、ルナ、『賢者』以外の六人が前へ、三人が後ろへと地を蹴った。

 そしてやはり、最初に力を振るったのは___ジャスミンだ。

 左斜め下への斬撃。

 風ごと斬るような軽い音が鳴り響く。

 しかし、次の瞬間には彼女の体は吹き飛ばされていて、【衝爆(バルク)】と唱える魔人の声をジャスミンの耳は捉えていた。『黒』に包まれる巨大な手。そこからも魔法を行使できることが発覚する。

 次いでジャスミンを狙った大刀、それみ押さえたのはレオだ。

 完全に振り切れる前に彼女と刃の間に大剣を挟み、その類稀に優れた身体能力を以て押し返そうと企む。だが、やはり人外を誇る膂力を用いても、正真正銘の魔人を前にして逆に押され始めてしまう。

 既に退避したジャスミンに遅れて加戦したのは、リアだった。

 ジャックによる転移で背後を取った彼女はその引絞った拳を振り抜き、『神器』を装して魔人の後頭部へ一撃を見舞う。が、それを防いだのは何と竜を模した太い尾。ジャスミンによる風の補助で足場を作っていたため耐えられていたレオだったが、リアにはそれが無かった。

 完全に押し負け、尾が薙がれればその身をくの字に折り曲げて弾かれる。

 

「ぐぅぅっ……」

 

 とんでもない衝撃だったのか、リアは数秒間立ち上がることさえ出来ずにいる。

 鎌を槍に変化させたジャックと再度斬りかかるジャスミンが転移してくるのを察知したのか、レオが一旦飛び退きその場を空ける。スタン、と地に降りた彼はすぐに跳躍し、前後から攻撃したのを障壁に防がれる二人と立ち代わり、大剣を振り下ろした。

 ピクッと反応する魔人。

 それを跳ね上げる強靭な異形の手。

 宙を舞いながら体勢を整えるレオの相貌は__笑っていた。

 

 

「___墜ちなさい」

 

 

「__っ!?」

 

 頭上からの急襲。

 ジャックの転移というアドバンテージが最大限に活かされ、気配を消す魔法を掛けられたアンナが斧に変えた『神器』を豪速で振り抜いた。

 振り上げられる大刀。

 かち合う両者。

 勝ったのは___アンナだ。

 強烈な一撃を受け止め損ねた魔人は跳ねるように落ち、両の足で着地する。

 

「今よっ!!」

 

 アンナの号令。

 それに従い、『黒』を打ち倒すための攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 時は少し戻り、リアが【黒輪(ブラックネピュラ)】を防ぎ切った後、私達は魔人へと変わって___いや、戻ってしまったアディンへの有効打を放つ算段を三人でつけていた。

 

「賢者殿、何か良い案は無いだろうか。私には全ての魔法を行使可能にするスキルがある。そなたに教えを受ければ何なりとこなしてみせよう」

「リンカは白魔力のようじゃの。ならばお主を軸に考えるのが良さそうじゃ。儂に考えがある、力を合わせるぞ」

「了解した」

「うん!」

「それではまず____」

 

 それぞれが使う魔法、行使のタイミング、装填する魔力、展開する範囲、などを緻密に話し合うの耳を傾け、時折意見を投じるけれど、やっぱり二人は凄い。私はまだただなんだと自覚した。

 

 

「承知した、それでは開始しよう」

「そうだね、このままずっと話してても意味ないもんね」

「うむ、まずは儂が詠唱する。ルナはそれに続くのじゃ。リンカも順次詠唱を始めてくれ」

「「了解」」

「【舞い落ちる天使の羽、波紋を広げ慈悲を展げよ】」

「【舞い落ちる天使の羽、波紋を広げ慈悲を展げよ】」

「【白き女神よ、この願い聞き届け給え】」

 

 二人が詠唱を開始するのに続いて私も唱え始める。

 私が上で学んだ、最高の『白』の極大魔法。出来るかどうかはわからない。でも、ここで頑張らなければ、アディンを助けたいというこの気持ちは嘘になる。

 

「【美しき陽光の下に集いし精に乞い願う】」

「【美しき陽光の下に集いし精に乞い願う】」

「【一の想いよ天を穿て】」

 

 スキルである[魔法札]を人差し指と中指に挟むルナと金属製の杖を構える『賢者』様は同じ詠唱を、私は『封器』を魔法円形態へと変えて、祈るように胸の前で手を握った。

 自分の魔力の高まりを感じる。

 それは今まで感じたことがない荒々しさを持っていて、油断どころか一瞬でも集中を途切れさせてしまえば、制御が完全に持っていかれるほどだ。

 でも、絶対成功させてみせる。

 

「【闇を退く白百合の結界、今ここに編まれよ】」

「【闇を退く白百合の結界、今ここに編まれよ】」

「【百の祈りよ大地を育め】」

 

 二人の足下に展開する同様の魔法円。

 立ち上る『白』の魔力光。

 『札』と杖が発光し、そして魔法が待機状態へと移る。

 

「【万の誓いよ慈悲を降ろせ】」

「【魔の連なり、恒星の下に力を放たん】」

 

 でも、私と『賢者』様の詠唱はまだ続く。

 マナが、ガリガリと削れていく。

 辛いからこそ、絶対完成させてやるという意思を強く持つんだ。

 願え、想え、祈れ、誓え。

 私は___アディンを救う!

 

「【億千万の光を束ね、地上に数多の祝福を】!」

「【静動を制し万魔の理を繋げ】」

 

 『賢者』様の詠唱は完成した。

 白は足下に、紫は手の甲に、魔法円が映し出される。

 私は最後の一文を、最大限の魔力を込めて、唱えた。

 

「【悪を払い___光に満ち充ちる大いなる力を以て邪を滅せよ】!!」

「今よっ!!」

 

 アンナの号令。

 アディンが地面へと墜ちた。

 絶好の機会。

 示し合わせるのは一瞬。

 最初に動いたのは__『賢者』様だ。

 

「【永環(ジェネレーション)】」

 

 紫の魔法円がアディンの足下に展開する。

 効果は__後発魔法の連続発動。

 

「「【破邪の聖域パージ・サンクチュアリ】」」

 

 ルナの[魔法札]と『賢者』様の結界魔法が同時に発動する。

 紫に重なるようにして展開した幾何学の白い魔法円はその紋様を絶え間なく複雑に回転させていた。

 そして最後は____

 

 

「【悪滅の神聖(ディ・ヴラスドゥーム)】!!!」

 

 

 ___私が唱えていた白属性極大浄化魔法だ。

 悪意を、破滅を、邪に属する全てを消滅させる聖なる光。

 天に開いた魔法円は勿論巨大で、収束する魔力は膨大だ。

 これが攻性のものであれば、辺りをゴッソリ消し飛ばす光の奔流が放たれただろう。

 だが、これは『悪』のみに影響を与える浄化魔法。

 この場で効果が得られるのは魔人だけだ。

 神の下す天罰のように墜ちた光柱は聖域を示す魔法円を遥かに上回り、退避した《蒼の双星》の下まで届くほどである。

 そして一気に訪れる虚脱感。

 極大魔法を滅多に行使することがないため、マナの急激な減少に慣れておらず、久し振りに味わった気怠さと息苦しさは、容易に私の膝を折った。

 けれど、私を代償に払った結界は大いなるものだった。

 

「ぐ___がああああああああああああああああああああっっっっ!!!!????」

 

 『魔王』よりも更に深く更に昏い『黒』を持っていた魔人に、通った。その事実が何よりも強く胸に根ざし、希望を湧き上がらせる。

 そして、ここからもう魔人は何もできない。

 

「「「「【重圧(プレッシャー)】」」」」

 

 アンナ、ジャック、ルナ、『賢者』様の重力魔法が重複して放たれる。

 そしてトトトトン、と小気味いい音を発して魔人の周りに突き刺さる武器。

 

「【重荷武界(ハイパーグラビティ)】」

 

 生成した武器で囲んだ範囲の重力を増加させるカイトの魔法。それは武器の数が、種類が多いほど効果を増し、現在地面に刺さっているのはそれぞれ別種の十五振りの武器だ。

 重力魔法による魔人の縫い止め、『白』の結界による黒の防御、『白』による浄化、その全てを『賢者』様の【永環(ジェネレーション)】によって術者が制御しなくても継続して発動するようにした。

 完璧な包囲網。

 後は、魔法でどれだけ削れるか、だ。

 

「じじい、これどれくらい続くのかしら」

「持って十分がいいところよのぉ、何せ魔人の力が強過ぎるんじゃ」

 

 『賢者』をしてそう言わしめる『連』の魔人の圧倒的な力。

 ここまでやって、十分しか持たないということに湧き上がった希望も暗い靄を纏い始める。

 

「『黒』は、どんだけ削れてやがる?」

「まだまだじゃの、多く見積もっても一割じゃろうな」

「そんな……」

 

 私は知れず絶望の言葉を発していた。

 

「『黒』は使えば使うほど蓄積した『邪』が消費される。極力力を使わせるようにすれば自ずと道は見えてくるじゃろうよ。………それに、このまま話していれば奴が強化されるのみじゃ。『連』の魔人最大の難点___無限強化が生きる」

「そうね___なら、全員、片っ端から魔法を撃ちなさい。私は___出し惜しみを止めるわ」

 

 アンナの宣言に反応したのは、レオと『賢者』様だった。

 

「お前……大丈夫か?____負けるなよ」

「勿論よ」

「彼奴が飛んでくるのだけは阻止するのじゃよ。アディンがどうなるか分からぬ」

「ええ、心配されるようなことにはならないわ………ならせないもの」

 

 決然した表情を見せるアンナに、私達は戸惑いと___信頼を抱いた。

 それを『賢者』様も分かっていたのか、私達をそれぞれ一瞥したあと、頷いて言った。

 

「うむ、ならばお主が準備するまでこちらは儂が指揮を執ろう。終わり次第結界を張る、思う存分暴れるがよい」

「そうさせてもらうわ」

 

 そして、アンナは私達から数歩離れ、瞑目して口を開き、紡いだ。

 

「【我が災ここに顕現せよ】」

「____雲……ですって?」

「アンナはもうよい、儂らは攻撃を開始する。まずは遠隔起動できるものからじゃ。ジャック、カイト、リンカ、それぞれ奴に攻撃するんじゃ」

「わかったよ」

「ああ」

「封器でってことだよね?、わかった!」

 

 ジャックが影の刃を飛ばし、カイトが神器へと昇格させた武器を放ち爆破、私は封器で直接攻撃した。遠隔だから間接だけど。

 しかし、その尽くは防がれてしまう。

 特にジャックと私の一撃。防御姿勢を取ることもなく張られた障壁がいとも容易く弾いたのだ。

 

「今ので力は使っておる。勿論、カイトのものが最も多かったが……、レオとリアはいい。後々魔法が切れれば前衛が必要になるからの。そのときのために二人は力を温存するのじゃ。リアはアンナに向けられた魔法のみ対処、レオも同様じゃ。いいか、力は使うでないぞ?」

「そう何回も言わねえでもわかってんだよ」

「絶対に守り通す。俺はそう決めたからな」

「いい返事じゃ。………お主ら、征くぞ!」

 

 そして、『賢者』様の号令で私達は走り出した。

 

 

 

 

 その次の瞬間、地面は割れた。

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