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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第五章 魔王の城
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第三話 白髪の少女 Ⅰ


 深い谷底にいる。

 

 光もなくただひたすらに続く闇。

 

 身を包むこの生温かいものは何だろうか。

 

 そして、この闇は私を言わしてくれる。

 

 あの惨憺たる光景から逃避させてくれる。

 

 けれど、この暗黒の世界から私を誰かが連れ戻そうとしている。

 

 止めてくれ。

 

 ここから出たいなど思っていない。

 

 しかし、その誰かは意思に反して私を引っ張る。

 

 嫌だと思うほどその力が強くなる。

 

 叫ぶ力はない。

 

 ただただ止めてくれと呟くだけだ。

 

 でも、沈んでいた意識は引き戻されていった。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

 顔を照らす陽の光。

 周りの喧騒。

 もう目を開ける以外は手段が残されていないような気がする。

 瞼を持ち上げると、不可解な光景が広がっていた。

 見上げる天井。

 今寝ているのはベッド。

 周りを見渡しても何も見に覚えのないものばかり。

 取り敢えずベッドから降りようとすると、弱った足腰に転けそうになってしまった。

 咄嗟に近くにあった台に手をつき難を逃れる。

 そこには鏡が置かれていた。

 涙を流す自分の相貌が映っていた。

 もう枯れてしまったと思っていたのに。

 流す涙などないと思っていたのに。

 意志とは反してどうしようもなく私の体は生きたいらしい。

 そのことはもう諦め、女子として自分の姿を確認する。

 酷い。

 ただただこの一言に尽きる有り様である。

 髪はボロボロで艶を失い、肌は荒れて張りなんてない。

 服はどうやら綺麗───?

 そうだった。

 私は誰かに助けられていた。

 汚れが落ちていることから身は清められ、服も着替えさせられている。

 最後に見たのは紺の髪の男だった。

 それを意識した途端、顔が一気に熱くなった。

 ああ、未婚だというのに男に甲斐甲斐しく世話され、生まれたままの姿を見られたのだ。

 何たる屈辱。

 何たる羞恥。

 けれど怒りを、恨みを向けるわけにはいかない。

 何故助けたと詰め寄ってはいけない。

 それをしてしまえば、私はもう人間として恥晒しでしかなくなってしまう。

 死のうとしたことを棚に上げているけれど。

 というより、私───いや、あの男は運命というものに愛され過ぎではないだろうか。

 私であれば落ちた先に人。

 彼であれば空に落ちる人。

 偶然の一致にしては出来すぎている感じがするが、流石にこれが物語で見た強制力やらとは到底信じ得ない。

 

 

 ───コン、コン───

 

 

「───っ」

「いいかしら?」

「…………は、はい」

 

 声も相当掠れているのだと、今更気づいた。

 

「あら、結構元気になったみたいね」

「女の人……?」

 

 声で気づけば良かったのに、救った相手が男性だと決めつけてしまっていたため、そんな失礼な言葉がでてしまった。

 

「どうみても女よ、この髪とこの顔、このナイスバディが見えないほど視力が落ちてるのかしら?」

「ご、こめんなさい!──てっきり男の人だと……」

「それはアディンね、空から落ちてきた貴女を助けた男よ」

 

 あの紺の髪の男はアディンというのか。

 

「見たところもう大丈夫みたいね、特大の回復まで使わないといけないとは思わなかったわ」

「ありがとうございました………」

「畏まらなくてもいいわ、昼食にするから貴女もその服、着替えてきなさい。そこに置いてある服にね」

「わかりました……」

 

 本当に親切な方だ。

 見ず知らずの私を助け、身嗜みを整え、食事まで与える。

 奴隷になれと言われても納得するほどの至れり尽くせりである。

 ………なっても良いかもしれない。

 私にもう拠り所はない。

 ステイタスだって封印してしまっているから戦えない。

 封印を解くお金だってない。

 封印どころか食も儘ならない、無一文だから。

 奴隷ならまだマシだ。

 これほど優しい方達なら大丈夫だろう。

 人を見る目はある。

 外からみる目は腐っているだろうが、内側からならばまだ使える。

 もしそのまま放り出されるようなら頼み込もう。

 最初に奴隷は流石に無理だろうから、一緒に行っていいかとでも聞こう。

 あと、ステイタスについては言わない方がいい。

 無駄に強さを持っていれば勘繰られる可能性が高いからだ。

 よし、そうしよう。

 

「あの……」

 

 出来るだけ気弱に。

 出来るだけか弱く。

 守りたいと思わせる態度でないと。

 見目は窶れてはいるもののまだ大丈夫なはずだ。

 元々悪い容姿じゃなかったから逆に庇護欲を掻き立てるかもしれない。

 

「あ!大丈夫か?一人で歩けるか?」

 

 この男が私を助けた男か。

 名前は確か──

 

「───アディン、さん………?」

「ん?、何で名前……」

「私が教えたわ」

 

 奥からエプロン姿で出てきたのは先程私を呼びにきた女性だ。

 アンナという名前だったのか。

 

「アディンさん、あの、ありがとうございました……。なんとお礼を言っていいか……」

「いや、礼ならジャスミンに言ってくれ。あいつが気づかなきゃ間に合っていなかったかもしれなかった」

「えっと……?」

「私よ。………やっぱりアンナは凄いわね、ここまで綺麗にしちゃうんだもの」

「………えっと、ありがとうございました」

「そういうのは食事にときにすればいいわ、アンナ、食べましょ?、お腹空いた」

「そうね、みんな席につきなさい」

 

 アンナさんがそう言うと、ぞろぞろと人が長机に座っていった。

 

「じゃあまず、名前を聞かせてもらいましょうか」

 

 それから、私に関して色々と尋ねられた。

 名前。

 身体の状態。

 食事は取れるか。

 食べられないものはないか。

 尋ねられた後には私は感謝を告げ、今できる精一杯の笑顔を作った。

 男性の方が少し多い六人の方達だったが、何人かの男性───隣に座っていたアディンと斜めの位置にいたカイトという男性が私の笑顔に反応した。

 脈ありと見ていいだろう。

 積極的にアタックを掛けるのはこの二人に絞ろう。

 身体だって使うのも視野に入れる。

 全てを失った私に取って差し出せるのは純潔しかないもの。

 でも不思議だったのが、誰も私が空から落ちてきたことについて聞かなかったことだ。

 気になるだろうに。

 気遣ってくれているのだろう。

 大体、世間ではおかしなことが起きた場合は詮索するのが良くないとされる。世話までして頂いたのだからそれくらい気にしなくてもいいだろうに。

 打算を持っている自分が恥ずかしくなるほど、彼らは良い人達だ。

 仲も良好に見えるし、食事の間だけでも人間性が知れた。

 色々とあるが、二人だけに絞って纏める。

 カイト。

 恐らく闇を抱えている。同族だろう。家族及び大切なものを失った人。ただ、自分の居場所を見つけたように見えた。この仲間だろう。私だって彼と同じ立場にあればこの暗い感情を忘れられただろう。多分、私に反応したのは彼の大切な人に似ていたからかな。脈ありと思ったが無しだ。

 となると絞られたのがアディン。

 はっきり言って私に好意がある。私を気遣い、私を見て、私のためを思って行動している。つつけば崩れるほどに私に気が向いている。奴隷でも、と心配しなくても身の安全と住む場所は手に入れられそうだ。貞操だって私が求めなければ彼は近づかないだろう。

 夜辺りにでも、部屋に行ってみようかな。

こう言ってはアレですが、リンカは既に狂っています。思考も感情もぐちゃぐちゃですね。一貫性はありません。

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