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黒龍のヴェンデッタ・ルード  作者: 陽下城三太
第四章 追憶のバトルゲーム
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第十一話 水神


「────クロっ!!」

 

 アディンは自分が召喚した竜に対してそう呼び掛けた。

 自分が荒唐無稽なことを口走っているのは分かる。

 あり得ないと頭が叫んでいる。

 だが、心は違った。

 声が聞こえるわけではない。

 言葉が交わせられるわけではない。

 だが、ただ、その瞳からは友愛が感じ取れた。

 それに対する喜びと共に確信を得た。

 

 ───いける!──と。

 

 

「【換装召喚】っ!」

 

 

 そして竜は破導に包まれ、炎が俺に流れ込んできた。

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ───アアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 雄叫びを上げてクロと同化する。

 爪や髪、瞳は黒へと染まる。

 自分にはなかった翼や尾、角の組成が作られる。

 上下の犬歯が伸び、頬や腕などには黒の鱗が生え揃う。

 

「あな、た………その姿……」

「これがモンスターとの換装召喚だ。武器とは訳が違うぞ」

 

 薄く笑って発走。

 その速度は今までとは比較にならないほどで、アンナの目を見開かせるほどだった。

 肉薄の際に魔力を纏わせた刀を一閃、反撃の寸前に空へと飛び上がる。

 

「飾りじゃ……!?」

「ないな」

 

 そして頭上から蹴擊を二発、斬撃、最後に蹴り上げた。

 

「──かっ……」

 

 四擊目でやっと食らわせられた。

 更に、地上にいれば脚を攻撃しているだろう位置へ蹴り出し、魔法を発動する。

 選んだのは【魔球(ボール)】。

 簡易かつどんなときでも失敗することのない、最も人類に慣れ親しまれた魔法。どれほど魔力が上昇したのか、その小手調べだった。

 それがまさか───こんなことになろうとは

 

「───っ!?──【(シールド)】!───くぅ!………」

 

 元々俺の魔法の腕はそれほど良くない。

 スキルや魔力由来でなければ大魔法がいいところだろう。召喚に関しては一番だという自負はあるが、特大以上は行使できないのだ。

 魔力の練りや詠唱は召喚を活かせばいい。だがどうにも慣れないようだ。記憶にもそうある。

 だから、【魔球(ボール)】がとんでもない威力になったとしても問題ないのだ。アンナが盾を構えた上で吹き飛ばされようとも。大魔法までしか使えないのだから大丈夫なのだ。

 

「やるじゃない…」

 

 完全に火が点いたようだ。

 爛々と怪しく光る瞳がそれを物語っている。いや、目は既に虹が灯っていたか。

 

「あんまり待たせるのも悪いわね────本気を見せてあげるわ」

 

 自然、喉を鳴らしてしまう。

 台詞はまるで物語の噛ませ犬だが、その存在感と言葉の重みがそう思わせない。現に、換装した今の俺でも気圧されているのだから。

 ゆっくりと杖が持ち上げられ、煌めく水のみだった魔力に別の力が加わる。

 それは前者とは恐ろしく異なり、どこか禍々しい聖の気配がする。

 ごちゃ混ぜになった歪な魔力が、俺の眼を焼いた。

 

 

 

 

「────【聖なる厄災(セントカラミティ)】」

 

 

 

 

 次の瞬間、赤、青、緑、黄、茶の奔流が彼女の持つ杖の先端に存在する宝玉から放たれた。

 

「こ、これは何が起きているのでしょうか!?」

 

 集中が途切れ、実況も耳に入るようになる。

 彼女の問いになど答えようもない。

 ただ分かるのが、異常だ、ということだけだ。

 たった一人を除いて解説者達は歯切れ悪く答える。

 そして、沈黙を保っていた一人が口を開いた。

 

「あれも神器の力だ。普通ではないけどね」

 

 尋常ではないことぐらい言われなくともわかっている。

 詳細を早く欲しいのだ。

 

「僕から言えるのはこれくらいだ。力の秘密だからね」

 

 確かに手の内を勝手な明かすことはどう考えても良しとされることではない。

 だが少しぐらい無いと何の対処もできないではないか。

 

「アディン、殆どの戦いは相手の能力がわからないものよ。人に頼らず自分で見つけてみなさい」

 

 俺の方が年上だというのに諭されてしまった。

 肉体に引っ張られているのだろう。

 じゃあ真面目に考察してみるか。

 まず、見えた色から精査するに炎、水か氷、風か草、光か雷、土だろう。

 確定が炎、土。

 セントカラミティとセントディザスターに共通するのは『セント』。

 安直に考えて『聖』とするのは確実に早計で、記憶を呼び起こせば、《花憐の騎士》の団長を下したときに使っていた雨が浮かぶ。

 ただあれは魔法ではなく純粋な魔力による操作だった。

 そして、関連付けられるとしたら雨と青の魔力光だ。

 つまり気候。

 そう考えれば緑が竜巻、黄が雷となる。

 こうすると赤と茶が炎と土ではないと考えられる。

 だが雨と竜巻と雷は正解という確信がある。

 共通点の視点を変えてみるとどうだ?

 気候ではない何か。

 魔力に準ずると言うなら何かしらあるはずなのだ。

 水、風、雷。

 雨、竜巻、雷。

 雨以外は実際に生じれば多大な被害を被るものだ。

 被害?

 被害を受ける。

 水の被害。

 ああ。

 そういうことか。

 

「待っててくれてありがとな。判ったぞ」

「聞かせて貰おうかしら?」

 

 観客の野次を無視して、自分が導き出した答えを口に出す。

 

「まず、さっき見た赤、青、緑、黄、茶の光から考えた。最初は属性かと思ったが余りにも絞れない、だから次は共通点を探した。『セント』から『聖』を想像した。だがこれでは何の解決も得られない。次はあの『雨』だ。それでも無理だったがな。そこで視点を変えたんだ。気候じゃなく災害だってな。そうすればものの見事に揃った。赤が噴火、青が津波、緑が竜巻、黄が雷、茶が地震関連。こうなれば簡単だ。アンナ、お前の神器の力は災厄だ」

「当たり。────答え合わせはもういいかしら?」

「ああ」

「なら再開ね、ここからは今までみたいに話せる余裕があればいいけど」

「随分な自信だな」

「そりゃ、まだ負けたことはないもの。これからもないけど」

「じゃあ俺がその初めてってことになるな!」

 

 これ以上の対話は無用。

 破導を這わせた刀を構え、地を蹴った。

 

 

「せいぜい踊るといいわ」

 

 

 すぐに迫るアンナ。

 避ける素振りも見せない彼女を不可解に感じながらも、迷いを断ち切って全力で振り切る。

 

 (───下っ!?)

 

 刀が届く寸前、察知したのは目下の地面から放たれる炎の魔力だった。

 遅いか早いか、地が割れ炎の奔流が噴き出す。

 咄嗟に身体を捻って躱そうとするも完全ではなく、逃げ遅れた右脚を炎が呑み込んだ。

 脚が無くなった感覚───つまり虚無感だが───はない。換装召喚を高位のモンスター──クロ──としていたおかげだった。

 間髪入れず再度放たれる噴火。

 これにはもう逃げ惑うしかなかった。

 

「なかなか、踊れているじゃないの」

「ふざ、けんなっ」

「やっぱり余裕ないじゃない。ギアを上げるわよ」

 

 まだあるのか!?

 そして、アンナの宣言の終わりと共に頭上に雲が広がった。

 それが彼女の所業だということはわかっているが、止めようもない。

 何せこの間にも絶え間なく噴火は継続しているのだから。

 徐々にその色が灰に近くなっていくのを止められないのが歯痒く、嫌らしい位置から噴出する炎に苛立たされる。

 何か打開策はないかと避けながら考えていたときだった。

 一瞬で音が消えた。

 極度の集中状態になったのではない。

 この身にとんでとない衝撃が加わったことからそれはあり得ない。

 恐らくこれは雷だ。

 これは見てからじゃ間に合わない。

 どうせアンナは動かないんだ。

 こうするしかない。

 

「あら、降参かしら……?」

 

 余裕を取り繕うとしている声音。

 明らかな動揺が受けて取れる。

 会場も俺の突然の行動にどよめいている。

 そろそろアンナも気づいていい頃だ。

 俺が何故予備動作のない噴火を避けられているのか。

 僅かな魔力の動き。

 破導の出力を上げて逆袈裟に一閃。

 見事に雷を打ち払った。

 

「どういうこと!?」

 

 アンナの驚愕は会場に伝播し、実況もやはり一名を除いて困惑している。

 雲に生じる微かな魔力の乱れを察知し、俺を撃ち付ける雷を迎撃していく。

 間隔がランダムなことからこの雷は一度放てば制御せずとも維持できる、自動型なのだとわかる。

 噴火はアンナが操作しているのだろう。

 俺の荒唐無稽な絶技に焦り始めたのか、意地の悪い精度を誇っていた噴火も今や片手間で避けられるほどになった。

 合間に魔法も放てている。

 段々と余裕が出来始めてきたため、攻勢に出た。

 

「【付与(エンチャント)】【我が身を喰らえ】」

 

 元から魔力を操作して纏わせていた破導を更に強化、そして自身の身体能力を向上させる。加速の際にも襲い来る雷を弾きながら、アンナの前に踊り出た。

 

「【破導砲】!」

「───甘い、口が焼けてしまうわ」

「───っ!?」

 

 ガクンと視界が揺れる。

 自身を砲身に見立てて左腕を突きだしていたため【破導砲】は上へと逸れた。

 何が起きた、と顔を下へ向ける。

 再度の驚愕。

 

 (────地割れかっっ!!)

 

 足場を失い体勢を崩し、千載一遇の好機も失う。

 そして奥から噴き上がる熱気。

 

 (───不味い───)

 

 咄嗟に羽ばたいた翼によってその場を離脱するも、またもや脚にその炎を受けてしまった。マナごと焼き尽くされ右脚の換装が解ける。

 

「限界のようね」

「まだ、まだぁっっ!!」

 

 今のでわかった。

 

「お前は一度に二つしか厄災を使えない!、勝てる!」

「…………よく気づいたわね」

「雷が止んでるんだよ!」

「あら、何て原始的な…」

 

 どこまで余裕なのだろうか。

 瞼を下ろして魔力のみに集中した結果得られたのは厄災に対する回避だが、どうにも攻勢に出られない。

 先の罠が起因している。

 だが、このまま臆しているだけでは絶対に勝てない。

 何の理由もない。

 ただの男の意地だ。

 

「【我が身を喰らえ】【我が身を喰らえ】【我が身を喰らえ】───」

 

 そして、限界の強化まで到達した。

 ───だが───

 ───まだ───

 ───これからだ。

 

 

「──────【我が身を喰らえ】────【付与(エンチャント)】─────ぐぅぅ…………」

 

 

 キツい。

 身体が引き裂かれそうだ。

 言葉も出ない。

 

「貴方……」

 

 だが、アンナの方には伝わったようだ。

 

「───ない」

 

 俯かれる相貌。

 こちらを見ていない相手など無視して地を蹴った。

 

「──じゃない」

 

 刀を腰に矯める。

 居合いで決めてやる。

 

「いいじゃない!」

 

 歯を食い縛りながら、それでも頭は冷静に。

 最高の加速を以てアンナに肉薄する。

 

「俄然っ愉しくなってきたわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 そして杖は大剣へと変わる。

 戦闘狂の笑みを浮かべているのが見えていなくともわかる。

 

「切り愛っ!」

「臨むところだぁ!」

 

 一撃一撃が破壊の力を宿す大剣。

 厄災の力が乗っているためだ。

 もし強化していなければ、余波だけでも俺はすぐに戦闘不能になっていたことだろう。

 限界を超えた自滅手前へ到達させていたことが何よりも幸を奏した。

 竜と強化の力と全てを滅ぼす災厄の力。

 その威力は桁違いに凄まじく、打ち合う度に魔力と衝撃波が空間を蹂躙する。

 拙い剣技で必殺の一撃を弾き続ける。

 というかこいつ本当に魔導師なのだろうか。

 恐らくレオも今の俺と同じような感覚を味わったことが多々とあったのだろう。アンナが天才魔導師と言う度にジトッとした視線をよく向けていた。

 まあ、これは俺の敗けだろう。

 アンナはこうして激しい剣戟を続ける間にも魔法を放つことができる。

 自分が満足すれば魔法を使って間合いを作り、魔法によって止めを差すのが彼女のやり方だ。それも大技を使って。

 六年一緒に過ごしてきた経験からするとそろそろ───

 

「これで終わりよ!」

 

 ───ほら。

 避ける暇もないタイミングに割れる足下。

 体勢を崩した俺は豪速で迫り来る大剣の一撃をどうにか防ぎ、その威力に押し負け大きく弾き飛ばされた。

 

「私の力、存分に味わったかしら?」

 

 そして、捨て文句を必ず口にするのだ。

 

「最後にとっておきを見せてあげるわ」

 

 確かに、これはとっておき以外何物でもない。

 膨れ上がっていく魔力。

 組上がる術式。

 展開する魔法円。

 アンナの足下に開いたソレから立ち上る虹の光。

 大剣から変わる杖。

 持ち上げられた瞼。

 やっくりと口は開かれ、そして紡がれた。

 

 

 

 

「【世界の終局(エンドカタストロフ)】」

 

 

 

 

 魔法円が開いたのは足下。

 戦闘場など生温く、帝都の一ブロックを呑み込むのではないかと勘違いするような巨大さであった。

 光が放出され、次の瞬間には既に意識は潰えていた。

 

 

 

 

 

 ■■■■■

 

 

 

 

 

「しょ、勝者、…………………アンナっ───ハリぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃスっっっっっっっっ!!!!!!」

 

 

 終わりは唐突だった。だからこそ、アキナがコールするまで会場には静寂が満ちていた。

 

 圧巻だった。

 

 強烈だった。

 

 今まで見てきたどんな戦いよりも熱かった。

 

 初めて催したこの『帝都闘技大会』という企画は有終の美を飾ったことで大成功と言っても過言ではない。発案者としては素晴らしい結果だ。

 

 興奮冷めやらぬと言ったような口調で叫び続ける口とは裏腹に頭は冷静である。

 

 廻らせるのは先の光景。

 

 それを見たとき、すぐにあれは無理だと思った。あんなものを食らえと言われるぐらいならまだカテゴリーⅤのモンスターを相手にした方がマシだ。

 

 アディン選手もわかっていたのだろう。このまま続けても勝てないことを。だからアンナ選手の準備も待ったし、災厄の奔流に呑み込まれる瞬間にも笑えていたのだろう。

 

 だが、それよりも確実に恐ろしいことが判明した。

 

 彼女と何度か話をしたことがある。

 

 その時彼女はこう言っていた。

 

 「まだまだお兄ちゃんには敵わないけど」

 

 この台詞は私が彼女の魔法の腕を称賛したときに返ってきたものだ。つまり、私達が使える皇帝陛下がアレよりも格段に上ということである。

 

 勿論昔のことだ。陛下が魔法の鍛練をしているところも見たことない。だがそれは転移魔法を使える時点で考える意味がない。

 

 つまり、『化物』とはただの比喩ではなかったということだ。

 

 私はどこかで誇張だと考えていた。

 

 覇気もない。副団長に全部やらせている。いつもフラッとどこかに消える。かと思えばどこからか現れて脅かしてくる。いつもいつもフニャフニャとした態度を崩さない。

 

 だから既に無い威厳を蟻ほどでも保つためにそう称されているのだと。

 

 でも違った。

 

 いつものあの態度は人を気遣ってのものだったのだ。

 

 存在自体が神に近い陛下がもし凶悪な性格であれば、私達の立場は違っていたのだ。

 

 思いもよらないものを得られた。

 

 陛下への尊敬。

 

 眠っていた逸材。

 

 絶対的な力。

 

 全て私の糧になるものだ。

 

 だから最後に彼に届けよう。

 

 アディン・ネルヴァ、よく頑張りましたね。

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